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女神の箱庭II =ツナガルセカイ=  作者: 山吹十波
第3章 朱き炎鱗、空を翔る翼
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#03-01 朱き悪夢




「っ!?奏さん!氷を!」

「ダメ!すぐ蒸発しちゃうから意味ないよ!」


前方では朱色の巨体を必死で抑える瑛大と翔の姿。

周辺の気温は異常に高く、100度は越えているのかもしれない。あらゆる手段を用いても体感温度は下がらず、汗が止まらない。

それに加えてこの圧倒的不利。シルト隊との共同作戦にもかかわらず押されている。


「ちっ、このままじゃヤバいぞ!」

「瑛大!躱せ!」

「!?」


瑛大が炎の渦にのまれると同時に、洋が体当たりをして瑛大を渦の外へ弾き飛ばすが、と互いかなりのダメージを負っている。


「いってぇ……これ、火傷になるな」

「すまん、洋。助かった」

「おう、さ、構えろよ!」


洋が剣を構えるが、その腕に力はほとんど入ってないように見える。

肘からは血が滴り落ち、地面に落ちては音を上げて蒸発していく。


「洋さん、下がってください!もう無理です」

「ありがとう、明日香ちゃん。だけど、ここで下がるわけにもいかんでしょう」

「明日香、矢は効かないから回復に専念して」

「でも、私回復魔法は……」

「水か風系統の微回復を重ね掛けしていって」

「わ、わかりました!」

「奏!あと、何割だ!?」

「8です」

「……おいおい、マジかよ。絶望的だな――!?翔、下がれ!」

「くっ!?」


朱い巨体の外殻が弾け飛び、高温の破片をこちら側に降らす。


「間に合え!」

「行きます!」


奏と紫苑の全力の防護術で何とか凌ぐものの、こちらの魔力も枯渇寸前。


「魔法無効で物理が効きにくい。地脈を完全に飲まれてしまってるせいで回復も早くて、こちらの魔力はほぼ回復しない……」

「萌愛、どう?」

『―――らは、現―、シュ―――、―ピア――――流。―地―向かっ―――す!』


ノイズが酷く、通信機能も使えたものではない。


「はぁ、はぁ、はぁ……」

「紫苑、大丈夫……?」

「だいじょう、ぶです」


脱水症状を起こしかけている紫苑を倒れる寸前で支える。


「瑛大、水は!?」

「もうない!」

「いっそ、全体を覆うぐらい水で流しちまうのは!?」

「蒸気で何にも見えなくなるから駄目だ!」

「でも、そろそろオレたち干からびて死にますよ――うわっ!?」


翔が振り下ろされた腕をギリギリで躱すも、衝撃に吹き飛ばされる。


「奏さん、水です!」

「ありがとう、紫苑、飲める?」


明日香から受け取ったペットボトルの水はかなり高温で、ボトル自体もかなり柔らかくなってきている。


「すいません、今出したんですけど……」

「大丈夫」


奏は口に水を含むと、意識を失いかけている紫苑に口移しで飲ませた。

それと並行して、残り少ない魔力で紫苑を回復する。


「紫苑は大丈夫か!?」

「―――っ、大丈夫ですっ」


よろけながらも起き上がった紫苑は、残りの湯を飲み干すと剣を構える。


「また散弾来ます!」

「再生が速すぎる!」

「奏!」

「くっ、もう魔力が……」

「ちっ、どこかに隠れろ!」


隠れろと言われても隠れる場所などない。

わずかにあった遮蔽物は既に粉々か、高温の炎を受けて形を成していない。

一瞬、隠れる場所を探したのが不味かった。爆音とともに撃ち出されたそれは、かなりの速さだったのだから。


「奏さん!」

「紫苑!?」


紫苑に押し倒され、焼けた地面に叩きつけられる。

そして、見えた光景は、自分と紫苑を貫き、縫い止めるように飛来する無数の炎の鱗だった。





「っ!?」


じっとりと嫌な汗をかいた奏は、自分のベッドの上で跳ね起きる。

内容は全く覚えていないが、嫌な夢を見たようだ。

7月も目前とはいえ、自分でも驚くほどのこの汗の量。一体どんな悪夢だったのか。


ここ数週間は、人数がかなり増えたこともあり、あまり戦闘に駆り出されていないが、龍を倒して以来、発生頻度が少し落ちたような気もする。


「はぁ……」


連日の悪夢で寝起きは最悪。今日は休日だが何もする気になれないが、とりあえず、着替えを持ってシャワーを浴びに行く。


「あら、奏。顔色悪いけど……」

「姉さん、おはよう。ちょっと夢見が悪くて」

「そうなの?大丈夫?」

「うーん……どうだろう」

「とりあえず、朝食はできてるから。先にシャワー行ってくるのよね?」

「うん」

「じゃあ、私は音羽起こしてくるから」

「頑張ってね」


バスルームに着くと、適当に着ていた服を脱ぎ捨て、冷水のシャワーを頭からかぶる。

一瞬体が強張るものの、これぐらいしないと胸の中に残るよくわからない不安感は消えてくれない。

5分ほど水を浴び続けると、さすがに体が冷えてきたの温度を湯に戻し、少し温まったところでシャワーを止めた。


着替えを済ませ、髪を乾かしてリビングに向かうと、眠そうな音羽が朝食の配膳をしていた。


「おはよーお姉ちゃん」

「おはよ、音羽」

「そーいえば、ゲームの方アップデートしてたよ。また、スキルの表示が変わったんだって」

「だからEXランクのスキルとか見慣れない奴が増えてたのね」

「え?静音お姉ちゃん、EX持ってるの?」

「うん、二つぐらい」

「いいなぁ……奏お姉ちゃんは?」

「えっと……4つ?」

「さすがね」

「私も真剣に運のパラメーター上げようかな……」

「運って高いと何かあるの?」

「スキルと称号の獲得率が上がるらしいわ」

「なるほど……」

「奏お姉ちゃん、運は?」

「2000」

「え!?」

「……バグ?」

「いや、確かに2000。ほら」


携帯端末に表示させた自分のステータス画面を見せる奏。


「……いや、全ステータスおかしいんだけど」

「お姉ちゃん、私で運200だからね?」

「EXスキルを取得したら称号で100上がるからその差じゃない?私は500はあるし」

「お姉ちゃんたちずるくない?」

「別にやましいことはしてないよ?」

「ええー……あ、よく見たらユニークが――わ!?」


音羽が覗き込んでいた画面が切り替わり、着信状態になる。


「……鈴音さん?どうしました?」

『休日にすみません。どうしても手伝ってもらわなければならいない案件が』

「龍ですか?」

『確証は持てませんが、2つ、大きな反応があります。それに加えて自衛隊では片付けられないほどの数の魔物です。3人とも出動をお願いします』

「わかりました。姉さん、音羽、スタンピードだって。あと龍かもしれないのが2匹」

「準備してるから、はやく朝ごはん食べなさいな」

「あ、お姉ちゃん。私の部屋からKグラス取ってきて」

「はいはい」


レベル上げの機会に喜ぶ音羽とは裏腹に、冷水で払ったはずの暗雲が心に戻ってきたのを感じる奏だった。


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