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女神の箱庭II =ツナガルセカイ=  作者: 山吹十波
第2章 地を裂く、碧き爪
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#02-08 銀鱗躍動<オンエンド>



「遥人さん、終わりましたけど」

『もう?じゃあ、後片付けする作業員を送るね』

「奏さん、なんか、おかしくないですか?」

「え?――遥人さん、ちょっとまって」


奏が、倒れて動かないはずの龍を改めて観察してみる。

全身は真っ黒に焼け焦げている。七海の放った爆撃の衝撃が強かったためか、鱗の一部が吹き飛んでおり、尻尾もちぎれているが――他の魔物たちと違い、勝手に消えるような様子はなかった。


「嫌な予感がするなぁ」

「ですね」

「どうしますか?」

「火葬かな。でも、体力は削りきってるんだけど……」


奏が魔術符を投げ、動かない碧龍の体を覆い尽くす。

その屍が、オレンジの炎に包まれた瞬間、空から滴が落ちてきた。


「雨?」

「何か嫌な予感が晴れませんね」

「海翔、萌愛。悪いんだけど、周囲の警戒をお願いできる?3分ぐらいで帰って来れる範囲でいいから」

「わかりました!」

「何故警戒を?」

「これだけ大物が死んだんだもの。息を潜めてた奴らが動き出すかもでしょう?」

「そう言われれば、そうですね」


海翔と萌愛が森の奥へと駆けて行くのを見送ってから翼が奏に問いかける。


「オレたちも行きましょうか?」

「いや、ここで、これを見てる人員はできるだけ残しときたくて――ほら、全然焼けないでしょう」


火の勢いは弱まっていないが、その巨大な屍の体積が減っているようには見えない。


「アンデッド化、とかしないですよね?」

「明日香さん、それフラグです……」

「え?」


紫苑がため息を1つつき、燃えている屍に符を投じる。

破裂と共に大量の水を吹き出したそれによって、火は消され、黒焦げの塊の中から翡翠色の何かがゆっくりと起き上がった。


「アンデッド、にはなってないと思うけど」

「どっちかというと脱皮ですね」

「こちら、翼。海翔、萌愛。至急戻れ。龍、復活したぞ」

『あちゃー』

『あれ、終わったんじゃなかったの?』

「蘇りましたよ」

『すごい生命力』

「しかも、さっきより強そうです」

「先制、行きます、よっと!」


ごう、という音を立てて七海が巨大な炎の塊を龍に向けて放つ、が。


「効いてない!?」

「七海!」


七海の元へと振り下ろされる爪。

寸前で明日香が七海を押し倒し、回避する。


「魔法無効?」

「厄介な特性身につけましたね……」

『時間かかりそうかな?できれば、手早く行ってほしいんだけど』

「仕方ないか――翼!七海!」

「なんですか!?」「は、はい!」

「“無限の神の名に置いて命ずる。その身、我が盾として破滅から我が僕を護りれ”――“神授―盾”、次――“無限の神の名に置いて命ずる。その身、我が杯として、我を潤せ”――“神授―杯”」

「そんな投げやりな……」

「いいのよ、緊急事態なんだから。紫苑もやってみれば?」

「それほど余裕もないように思えますが――剣ぐらいは用意しましょうか」

「明日香、今から聖域全力で張ってコレから地脈の接続剥がすから指揮はお願い」

「え!?私がですか!?」

「私の神儀典装も使いたいところですが、相性最悪ですからここは美咲と翼にお任せするね!」


萌愛は敵の気を引くために竜にほとんど効いていない攻撃を与えながら囮に徹している。


「“滅びを砕け夢幻の盾よ”」

「“終わりを知らぬ無限の盃よ”」


翼と七海の身体が真っ白な炎に包まれる。

萌愛の時は、すぐに白い短刀が現れたが、今回はそのような様子はない。


「何が変わったの!?」


敵の攻撃を避けながら萌愛が尋ねる。


「いや、これはすごく強い、ぞ?」

「疑問形はなんなの!?というか、そろそろ限界――!」


萌愛が大きくはねて前線から逃れると同時に、翼が前に入り剣の腹を勢いよく迫る龍の腕へと向けた。

誰もが、これは死んだと思ったが、龍の腕は剣の腹から少し離れた位置にできた白い壁によって完全に受け止められていた。


「“無限盾・無常”。守りはオレだけで十分だ!攻めろ!」

「よっしゃ!」

「行くよ!」

「七海は!?」

「七海も行くよ!」


七海が一瞬で展開したのは先ほどよりも巨大な炎の塊、それもその数は10倍。


「いつの間にそんなに!?」

「魔力さえ回復すれば、こっちの物よ!扇スキル“火焔舞・加具土”!焼き尽くせ!」


海翔や萌愛が走るよりも早く着弾したその魔法は、尋常ならざる火力で周りの木々毎火柱の中に包み込んだ。


「あれが解けたら萌愛達が近接攻撃かな?」

「いや、あれ、死んでるでしょ」

「とりあえず、“無限盃・無心”が発動してる間は魔法を半永久的に撃てるから撃つね?」


次々と魔法陣を開き攻撃を行う七海。ただし、肝心の目標は火柱の中でまだ動いているようである。


「あれ、倒せるのかな?」

「というか、このままだと七海の魔法で樹海が全部焼け野原になりそう」

「それはまずい」

「じゃあ、属性変えてみる?」

「というかいくら魔法撃っても耐性高いみたいだから全然元気だね」

「あー……じゃあ、私も萌愛と一緒に囮かな?」

「ウェルカム」

「よし!行ける!」

「あ、美咲。今まで何してたの?」

「翼!私がメインで攻撃するからちゃんと守ってね!」

「え?ああ」

「おい、ちゃんと守ってやれよー」

「海翔、後でぶん殴る」

「何故!?」

「“星が与えし、千の夢を護れ”」


美咲が翼の背に追いつくと同時に、翼がそのまま煙で見えない龍の方へと突進していく。


「美咲、斬れ!」

「うん!――“神儀典装―星降剣・純潔”」


黒と金の幻想的な光が美咲の剣を覆う。

それと同時に、“盾”を解除した翼が、風の魔法で残り火と煙をすべて吹き飛ばす。

相変わらずの黒焦げだが、目にはしっかりと闘志がこもっている龍は近く、翼がその件で牙を受け止める。


「今だ!」

「―――っりゃあ!」


美咲が踏み込んだ瞬間に横に跳ねのいた翼。

そして、美咲の輝く刃が龍の頭を縦に両断した。

これで、勝った――そう思った瞬間頭に深すぎる切り傷を負った龍は美咲に向かって腕を横に凪いだ。


「まだ動くの!?」

「美咲!」


吹き飛ばされる美咲を受け止め、共に転がる翼、咄嗟に盾を展開するものの、体勢が悪く、このままだと潰されそうである。


「奏、紫苑、あとどれぐらいかかりますか?」

「もう十分。完全にこの辺りの地脈は支配下に置いたよ」

「これ以上力を充填されては厄介ですからね」

「七海、あとどれぐらいで切れる?」

「2分。どうするの?」

「雷系の術式で」

「あー残念。私風系統持ってない」

「えー……」

「まあ、なんとかするから、あとはお願いします!」


七海が魔法を準備すると同時に、奏と紫苑が走り始める。

それに気づいた龍が咆哮する。


「萌愛、海翔、援護お願い!」

「任されました!」「オレは翼たちを下げさせます!」


先行の萌愛が龍を翻弄する作業を再開し、海翔がその隙に翼たちを起こす。


「いけるか?翼」

「勿論」

「美咲は?」

「今度は油断しないから」


「明日香!」


奏の声の直後、明日香の放った閃光を纏った矢が降り注ぐ。


「よし、隙有り!」


“樹”魔法により、龍の身体を食い破る様に植物が生え、その体を地面に縫い付けていく。

そこへ、剣を構えて到達した奏と紫苑が剣閃を放つ。


「“時幻断ち”」

「“銀月弧”」


右前脚と尻尾の欠損により、膨大な血を流す龍の頭めがけて美咲が跳ぶ。


「トドメだ!」


美咲の剣が頭に深く突き刺さり、その巨体は光となって砕け散った。


「旧7班、“碧龍イヤド”の討伐完了しました」

『――お疲れ様。おかげで、政府を脅す言い材料が取れたよ』

「うん、台無しだね」「台無しですね」

『遥人さん、さすがにそれはないかと』

『人間性疑う』

『君らの方が酷くない!?』


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