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女神の箱庭II =ツナガルセカイ=  作者: 山吹十波
第2章 地を裂く、碧き爪
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#02-05 戦技指南<エデュケーション>



休憩している自衛隊の前で頭を抱えている、ハンザー隊隊長・豊川七海。

そこへ、鈴音が向かってくる。

鈴音の周りにはいくつものウィンドウが開いている。現在も、遥人や他のメンバーと通信を繋いでいるようで、同時進行で複数の仕事をこなしているのがわかる。


「七海さん、お疲れ様です。調子はどうですか?」

「どうもこうも、私自身は魔法が使えないからやりづらくて」

「一応、私の聖域ですので、それなりのMPは溜まってますよね?」

「でも、向こうに居た時に比べると回復速度は格段に遅いし……」

「奏さんがポーションを作れるようになればいいのですけど……ああ、そろそろつきますよ」


魔法陣が描かれていた場所に光が立ち上がり、中から見知った顔が飛び出してくる。


「あ、上手く行ったみたいですね。どもっす、七海さん」

「おー、たろーか。奏さんは?」

「奏さんは最後ですね。術の制御しないといけないみたいなので」

「なるほど……お?」


誰かの手を引いて光の中から現れた人影を見て驚く。


「アスカ!?」

「ナナミ!久しぶり!」


大弓を担いだ少女のハグを受け止める。


「ハンザー隊隊長だって?すごいじゃん!」

「私的にはみんなと一緒にフリューゲルにいたかったけどね」

「あ、ナナミさーん」

「おー、萌愛も久しぶり!」


光の中からはぞろぞろと知らない顔も知った顔も出てくる。

そういう事象に疎い大人たちは呆然とこちらを見ている。

そして、奏が出てくると同時に光が消滅した。


「鈴音さん、輸送完了です。第3部隊シルト2名、第4部隊フリューゲル3名、第19部隊エレクトロン8名合流しました。臨時総隊長・響奏です。よろしく、豊川隊長」

「奏さーん!」


七海が勢いよく、奏の胸に飛び込んでいく。


「うわー。この暖かさ懐かしいなぁ」

「子供じゃないんだから」

「鈴音さん、私、東京に引っ越すのでフリューゲルに入れてください」

「七海さんには大阪を取り仕切っていただかないと……」

「えー……あ、第7部隊ハンザーの隊長やってます、豊川です。よろしく」


一応、初めて会う面々に自己紹介はするが、奏から離れる気配はない。


「七海、早く始めよう。話す時間は後でとれるから」

「はい!――じゃあ、休憩終了。全員武装。これより実践訓練を始めます。これから先は響隊長が総指揮を行いますのでそちらに従ってください」

「え?私がするの?」

「お願いします。私がしてもよかったのですけど、今少し緊急の用事が出来まして」

「うーん、じゃあやろっか――自衛隊の皆さんは何人?」

「一応8×6グループです」

「思ったより多いなぁ――ハンザー2からハンザー5は自衛隊1~4班につくように。5班・明日香、6班・萌愛、7班・翔、8班・大郎。エレクトロンは隊で固まって動いて。私と七海は全体の補助」

「了解です」

「全員無線は起動しておいてね。私、七海、鈴音さんには繋ぎっぱなしで。エレクトロンは円上隊長と橋上副隊長のみ私と繋いでおいて」

「え?私副隊長?」「……わかった」

「明日香、手伝って」

「はい」


明日香が投影されたウィンドウを操作し、全体に見えるように表示し直す。


「今回は獣系統、狼型の魔獣がメイン。それと、猪とか鹿とかそういったものもいるかな?有効属性は特にないけど、風系統がやや効きにくいかも?あと、狼型の魔物は接近戦にはいるとかなり苦戦すると思うから、やるなら一撃で、できれば遠距離で仕留めるように。以上」

「では、進軍開始!」


武器を構えたまま、頼りない足つきで森の中へと入っていく自衛隊。

未だに現実感を持てないエレクトロン。

不安要素しかないが、一騎当千の補助が付いているので大丈夫だろう。


『2班、エンカウント』

「さっそくか……鈴音さん聖域の範囲もっと絞ってもいいですよ」

「わかりました」

「奏さんの聖域は開かないんですか?」

「私の強力すぎてこのぐらいの魔物だと全部怯んじゃうけど、やる?」

「やめときましょう」

『7班エンカウント。奇襲につき怪我人1名』

「翔さんでも気づきませんでした?」

『いえ?でも、教えたら訓練の意味ないでしょう?』

「まあ、そうだけど。とりあえず、怪我人は命に問題が無ければそのまま同行で」

『わかりました』

「なかなか鬼ですね」

「庇いながら行くのも実践訓練だよ」


30分ほどで、奏の索敵範囲内のマーカーはすべて取り除かれる。

自衛隊の中から怪我人が数名で対外は特に問題はなかったが、エレクトロンの討伐数が低いのが気になる。


「まあまあだね……これぐらい素材があればそれなりの防具も作れるかな」

「しかし、50匹ぐらい狩るのにえらく時間かかりましたね」

「まあ、7番隊なら5分もかからないよね?」

「ええ。というか、明日香がいるので1分切れると思います」

「なるほど」


明日香の索敵範囲は奏よりも広い。

そして、遠距離攻撃の命中精度はかなり高い。高地に居ればすぐに全滅させられただろう。


「とりあえず、総評だけど……自衛隊の皆さんは全員ダメ。エレクトロンはもう少し積極的に攻撃を仕掛けてもらわないと。あの程度で怯んでたら、街の中で突然出くわしたときに逃げることもできないよ?」

「お言葉ですが、御嬢さん。我々のどこがダメだったのでしょうか」


年齢と階級が高めの隊員が発言する。


「索敵範囲が狭すぎ。攻撃速度が遅すぎ。命中精度が悪すぎ。油断しすぎ。訓練と言えども、命がけなんだから。子供のお遊びに見えるかもしれないけど、本気でやってもらわないと」


そういうと奏は、腰の太刀に手を掛けた。

一瞬姿がぶれたような気がしたが、多くの人間には特に変わったように見えなかっただろう。


「今、見えた人」


明日香、七海、萌愛はもちろん手を上げるが、他のメンバーは困惑している。


「ダメだなぁ。油断しちゃ」


数十m離れた位置に立っていた十数人の防刃ベストが地面に落ちる。


「今の見切れないと、国なんて守れないよ?」


奏が挑発的に笑う。


「奏さん、ちょっと」

「え?煽りすぎた?」

「いえ、少し不味い事件が」


日本地図が開かれ、東海―関東のあたりが拡大される。

日本地図には色がついており、大体の場所はグリーンやイエローなのだが、ある一点だけ真っ赤になっていた。


「ここの地脈が異常活性していまして、帰りは転移できないかもしれません」

「え。それはちょっと困るかなぁ。原因は?」

「何か強大な魔法生命体がでたのかもしれません」

「たとえば―――龍とか?」

「今、クーゲル隊を確認に向かわせています」

「――ちょっと、本気の戦闘ってのをみんなに見せてあげようかな?」

「え」


奏がウィンドウを開く。


「紫苑、聞いてたね?」

『すぐに向かいます』

「翼、そっちの状況は?」

『全員合流済み、移動中です』

「発見したら、報告おねがい。あと、やれそうなら片付けて良いよ」

『わかりました』

「こっちもすぐに向かうから」

「奏さん!?」

「ふふ、ごめんなさい、ちょっと遊んできますね」


奏がひらりと舞い上がると東の方角に消えた。


「あの人って結構バーサーカーだよな」

「ああ、うん。実際強いしね」

『翔さん。私視点で中継送るので見せてあげてください』

「あ、うん。わかったよ、明日香さん」


翔が全員に見えるように表示枠を設置する。


「あれ?いつの間にか七海さんも萌愛さんも明日香さんも消えてる……」

「シャッテン隊。すいませんが、出動は取消でいいです。事後処理と調査のみお願いすると思います。はい」


明日香の視点では、超高速で移動をする2人の後姿が見える。

明日香の前には奏と萌愛。隣には七海がいるようだ。


「現実、見せてあげないとね」


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