#02-04 新たな挑戦者
プレイヤーネーム“黒砂糖”こと、黒田悟は後日郵送されてきた案内に従って、都内の運動公園へとやってきた。
休日だというのに、公園内部に人気が全くないのが怖いが、恐る恐る中へと入った。
入口から中へ入ったところで、前を歩く見慣れた人影を見つけた。
「橋上さん」
「あれ?黒田?なんでここにいるの?」
「いえ、あの……呼ばれまして」
「へぇ、そういえば私以外にも一般募集の人がいるとかなんとか……」
「それって、誰に言われたの?」
「え、そりゃ、もちろん……あ、言わない方が面白いのかな?」
「ええ!?」
入り口付近でそんなことをしていると、後ろからよく似た兄妹がやってくる。
「あ、人がいた」
「良かったね。美弦」
「君たちは、向こうで会ったよね?確かゼプトとゼタ?」
「ああ、よかった目的は一緒ですよね?」
「ねえ、黒田。早くいかないと時間ぎりぎりだよ?」
「え?そんなに?」
指定された時刻は11時。
現在時刻は10時55分。
4人は駆け足で集合場所となっている広場へとやってきた。
「あ、全員来たね?」
「それでは、始めましょうか。瑛大さん」
「おーけー。全員動きやすい恰好で来たな?じゃあ、翔、大郎、例のモノを」
「何だよその言い方」
「うるせーよ、ちょっと言ってみたかったんだよ」
「はやく配ってね」
「ういっす」
「なんでお前は奏の言う事は素直に聞くんだよ」
「言うまでもないでしょうよ」
2人の青年(もっとも一人は見覚えのある顔だが)によって配られたアタッシュケースを受け取る。
「全員に行きわたった?」
「よっし、じゃあ挨拶するかね――まあ、詳しい説明はなくてもわかってると思うが、第3部隊「Schild」隊長の岸谷瑛大だ」
「あ、副隊長の北条です。で、こっちは隊員の左藤」
「よろしくです」
「まあ、オレたちがメインでお前らの面倒を見ることになる――っていっても、やることは向うとかわんねぇから安心しろ。リトライができるかどうかの差だ」
「んじゃあ、それ開ける前になんか質問ある奴いるか?」
「相変わらず雑っすね」
「喧しい」
すると先頭に立っていた男が手を上げる。
「大体の趣旨は書類を読んでわかっているが、本気なのか?」
「ああ、本気だぜ?」
「だが、向こうでのステータスだけでやっていけるほど甘くもないかと思っているが」
「大丈夫、本来の体形からいじりすぎてるような奴は弾いてあるしな。ま、とにかくやってみてくれよ。じゃあ、第19部隊「Elektron」の皆」
「は?俺たち独立部隊になるのか?」
「そうだぞ?“赤火”円上吉弥、お前が隊長だ。ガンバレヨ」
「マジかよ」
「それで、えっと、そっちの女の子たちは?」
軽そうな風貌の男が挙手しながら瑛大に尋ねる。
「ああ、お前ら向こうであっただろうからいいかなと思って」
「アバターあんまり弄ってないんだけどね?」
「そうですね」
「あれ?もしかして、アリアちゃんとルリアちゃん?」
「ですよ。皆さん、よろしくね。あ、ついでに自己紹介しとくと、第4部隊「Flügel」の隊長の響です」
「副隊長の池内です」
「コイツらにはお前らを慣らすための手助けをしてもらうから」
「了解っす」
「じゃあ、全員Kグラスを付けてくれ。奏、紫苑。聖域頼むわ」
「うん」「わかりました」
先に準備を終えていた二人の衣装が一瞬で変わり、靴底で地面を叩くと光の輪が広がっていく。
「おし、この空間でだけ魔法使え、るんだっけ?」
「女神の加護があればね?」
「あー、そうだったな」
「というか奏さんも紫苑さんも武器解禁されたんですね?」
「ああ、うん。耀史さんに手伝わせて新しく作ったの」
「容赦ねぇな――ああ、順次ログインしていってくれ。終わったら体がなじむまで戦闘訓練だ」
全員がログインを終え、出現した武器に戸惑っているところに、翔と大郎が武器をかまえて前に立つ。
「ステップ1。そいつらを倒す」
「正直、これができたら終わりなきもするんですが」
「まあ、近接の奴ばっかりだからな。近接組は全員オレとコイツらで見る。奏と紫苑は次元がちげぇから参考にならねーだろうしな」
「確かに、奏さんの戦い方はレベルが高すぎて参考にならないでしょうね」
「紫苑、お前もだぞ」
「え」
「何で驚いた顔してるんだ?――あ、こっちで得た経験値はゲームデータに反映されるからな?」
「経験値なんて出るんですか……」
「よし、じゃあ大剣の青木はオレとだ。後の奴は――あー、短剣はどうするかな……」
「大丈夫ですよ。私の剣を呼んでますから」
「ですよ」
瑛大の首筋に刃があてられる。
「三毛猫さんは私とですね!」
「おおう、萌愛か――というか、あぶねーだろ!」
「桜井さんは私と紫苑――というか紫苑がメインでが教えるから」
「えっと、私は?」
おずおずと手を上げたのは尋。
「尋には専用の先生がいるから――萌愛と一緒で最初からずっといたんだよ?みんな索敵取ってないのかな?」
「そういう問題でしょうか?」
尋の頬ギリギリを一本の矢が飛んでいく。
その先には、公園内の時計の上に立つ明日香の姿があった。
「尋は明日香に見てもらいなよ」
「えええ!?」
「じゃあ、みんな手は抜かないから頑張ってね?」
電子世界の英雄たちの悲鳴が聞こえ始める。
その隙に奏は、キラキラと光を放つ不思議な粉を地面に撒き、魔法陣のようなものを書き始める。
1時間ほどで魔法陣はかき終え、昼食の準備をし、それが終わったころに小休止が入った。
「午後からは実践なので、頑張ってね?」
『え゛』
『奏さん、こちらは準備は終えています。現在ハンザー隊の協力で魔物を押し込めることに成功しました』
「ありがとうございます、鈴音さん。どれぐらい持ちますか?」
『3時間は余裕です』
「なら食事が終わり次第そちらに飛ばしますね」
『転移魔法がこちらできちんと作動するかドキドキですね』
「まあ、聖域と聖域しかつなげそうにないのが難点ですけど。そのせいでスズネさんには奈良まで行ってもらうことになって、すいません」
『大丈夫ですよ』
「奏さん、こちら食事終わりました」
「じゃあ、魔法陣の起動を行います。そちらの陣が起動するか確認お願いします」
『わかりました』
全員の視線が集まる中、奏が魔法陣の淵に立ち、太刀を差すと、強い光を放ち始める。
『こちら、起動確認しました』
「紫苑、瑛大。留守番お願いね?」
「オレは子供か」
「任されました」
「じゃあ、誰から行きたい?――あ、私は術の制御があるから最後ね?」
「よし、行け、大郎」
「はぁ!?まあ、いいけどさぁ」
大郎が光の中に飛び込む。
『大郎さん到着です』
「よし、無事着いたね。あ、言い忘れてたけど、行先は奈良県の山中ね――さ、次々どうぞ」
皆が躊躇う中、紫苑に何かを耳打ちされた明日香が、尋を引っ張って中へ飛び込んだ。
「え?何言ったの?」
「向こうの隊長はナナミさんです、って」
「ああ、仲良かったもんね」
「というかどこ行っても奏の部下がいるな」
「中国にはいないけどねー」
「そうだっけ?ま、これで今日一日で訓練された戦士ができるだろ」
「酷いスパルタですね」




