#02-03 美貌の羅刹
一瞬固まったプレイヤーたちだったが、奏が獰猛な、そして蠱惑的な笑みを浮かべるのを見て一斉に武器を構えた。
そして一部の“解析”を使えるプレイヤーたちが凍りつくのをよそに、前衛職がギルドの方へと集まり始める。
奏と紫苑とレベルは、それぞれLv.85とLv.42。現在のトップからしてみれば大したことはないレベルだが、“解析”を行うとそのステータスの異端さがよくわかる。
2人とも、一度は100を突破しているステータスなのだ。そして、大量に取得した称号によってそのステータスは200%以上強化され、どんな防御専門の戦士であろうと紙同然に斬り捨てるだけの攻撃力がある。それは、奏ほどひどくないとはいえ紫苑もそう変わらないことだ。
しかし、このクエストは奏達を倒すか、20分経過するかしなければ解除されない。
死亡して、復活したとしても、この街の転移門に落とされるため無限の地獄が続く。
そして、このクエストに置いて注意すべき点は、死亡によるペナルティがなくともアイテムが消費、破壊されれば自己責任となる。
つまり、武器や防具を破壊されれば抵抗ができなくなる。
NPCのショップでは金銭の取引が発生するため修理できず、生産職もプリマに集まりがちなためあまり期待できない。
「一番槍、この烈槍のガトウが行かせてもらう!」
それなりに有名なプレイヤーが自身に万全のエンチャントをかけて突っ込む。
ひらりと屋根から降りた紫苑――ルリアがその槍を軽く払い、ガトウと名乗った男を両断する。HPバーが一瞬で削りきれ、光の塵となって消滅する。
ステータスが見えてい居ないプレイヤーもすぐに、単騎で勝てる相手でない事を悟った。
「ルリア」
「はい、なんですか?」
「後衛、よろしくね」
「喜んで」
奏――アリアも地上に降り立つと、刀を抜く。
「二刀流なんて、使うまでもないよね?」
アリアの煽りで数人が飛び出したが、刀の峰で打たれ武器を取り落す。
驚くべきことに発ったそれだけの攻撃でそのプレイヤーたちの体力は8割喪失する。
「案外もろいなぁ」
「アリアさん。相当加減しないとダメかもですよ?」
「やりにくいなぁ、逆に」
無謀なソロプレイヤーたちを数人斬り捨てていると、作戦のまとまったのかギルド単位のプレイヤーたちが武器を構えてこちらの様子を見ている。
「ルリア、どうしたい?」
「とりあえず、近接戦はやめましょうか」
「まあ、私もルリアも魔法の方が強いんだけど……」
「殲滅戦ですね」
刀を鞘に戻したカナデが、数千の魔法陣を一度に展開する。
それほど強力な魔法ではないにしても、この数はまずいと瞬時に判断したプレイヤーたちは一斉に障壁を張るが、その行動もむなしく100発も耐えることなく障壁は砕け散り、プレイヤーたちに降り注いだ。
魔法の雨で万遍なくプレイヤーを潰すと、彼らはこちらに攻撃することをやめ、一か所にまとまって作戦を立て始めた。
「ふふふ、どんな手で来るのかな」
「10分過ぎましたけど、全然まともに戦闘してないですね」
「そうだねぇ。まあ、残り5分になったらフルバーストしてみようかな」
「アリアさん耀いてますね」
レイドボスを狩る規模のプレイヤーの群れが一斉にこちらに攻撃を仕掛けてきた。
正直な話、受けても1も効かないのだが、一応魔法の弾幕を避けて、前衛とかちあう。
「AからE班はそのまま!魔法は絶えず撃ちつづけろ!」
「D、E下がるな。あと攻撃は受けるなよ!」
「FからHはルリアの方を抑えろ!というかそっちを叩け!アリアは無理だ!」
「くっ、オレのスキルクリーンヒットしたはずなのに!自動回復の方が多いのか!?」
「結構うまく連携取ってるけど、まだまだ!」
奏が真っ黒な魔法陣を展開し、それを踏んだ瞬間奏の姿が10に増えた。
『嘘だろ!?』
「くっ!?一回門まで下がれ!」
「あああ!?美女に追いかえられてるのにこんなにうれしくないなんて!」
「というか逃げ切れん!」
奏に追い立てられていくプレイヤーたち。
そして、紫苑の方へと向かった彼らも、一瞬で消し炭にされ転移門へと戻っていた。
「アリアさん、残り5分切りましたよ」
「じゃあ、やっちゃおっか」
アリアの分身のようなものが消滅し、好機と思ったのも束の間。
アリアの身体に赤黒い刻印が浮かび上がり、凄まじいプレッシャーを放つ。
「奥義・鬼姫繚乱(覇気龍気のせ)」
「私は援護射撃をしています」
「お願いね」
奏の振るった一刀は、数百というプレイヤーを一瞬で消滅させた。
ただの一閃だったのだが、その速度もその威力も常軌を逸していた。
「こんなバグキャラ勝てないだろ!」
「運営頭おかしい!」
「ぬああああああああ!?」
そして、残り時間が0になるまで大虐殺は続き、精神的疲労が限界に達したプレイヤーが膝をつく中、奏もゆっくりと脱力していった。
「アリア」
「ごめん、はしゃぎ過ぎたかも」
紫苑に支えられながらゆっくり立ち上がる。
「みんな、お疲れ様。まあ、ちょっと期待外れだったけど」
ルリアに肩を借りながら、アリアは疲弊したプレイヤーたちの間を歩く。
そして、3人の肩を叩くと。
「君たちには少しお話があるから、来て」
驚いた顔をしたプレイヤー3人の目の前に“ギルド2階会議室・入室許可”とうウィンドウが出現する。
「他のみんなには、少しの間ボーナスを上げるね?」
そう言いながらウィンクすると、3人を除いたプレイヤーの目の前に“24時間経験値1.2倍”と書かれたウィンドウが開き、報酬として“アリアのブラックポーション”と“ルリアのシルバーポーション”が届く。
アリアとルリアの姿を追って、3人――長剣使いの男“黒砂糖”、短剣使いの女“三毛猫”、棍使いの男“赤火”が立ち上がる。
不安を感じながらも、内容は気になるし、報酬もほしいのでついていくことにする。
すると、ギルドの前には転移させられてきた他の町での合格者4人が立っていた。
お互い顔を見合わせてからギルドの扉を開き、2階へと上がる。
そして、会議室のドアを開くと、中央に腰掛けた自警団副団長――ティアナが腰かけていた。
「あら、アリア。3人も合格にしたのね」
「姉さんたちが厳しすぎるんだよ」
「まあ、私のところは2人だけど、テクラの所は?」
「私は、ちょっと暴れすぎたというかぁ」
「みなさん、あちら固まってますよ」
「あ、ごめんね。適当に座って」
アリアに勧められ、椅子に座る7人。
「7人かー。少ないかな?」
「思ったよりだったわね」
「それより説明はいいのかい?」
「アリア」
「丸投げ!?」
奏が指をぱちりと鳴らすと、全員の前にウィンドウが開く。
その内容は、“日本国特殊災害対策部入部試験合格通知”と書かれている。
理解できず混乱する7人。
「大丈夫強制じゃないから。とりあえず、内容読んで質問あったら言ってね」
「その前に1ついいですか?」
「なんでしょう、“ゼプト”さん」
「貴方たちはNPCじゃないんですか?」
「残念だけど、私たちはPCだよ。それにこのアカウントデータも不正はしてないよ。コツコツあげた奴だね」
「了解しました」
「相方の“ゼタ”さんは質問はないかな?」
「い、いえ、ないです!」
ゼプトとゼタは漸苑の所でスカウトしてきたプレイヤーだ。おそらく兄妹だろう、よく似ている。
「質問いいですか?」
「いいよ、“黒砂糖”君」
「この特災ってのはやっぱり最近頻発してるアレですよね。ということは、アレと戦うための「おっと、詳しいことは契約してからになるかな」
奏は“黒砂糖”の後ろに回り込むと肩に触れながら。
『だから今は黙っててね“黒田悟”くん』
「!?」
念話で彼の名前を呼んだ。
「貴方たちを選んだ理由は、統率力と対応力。まあ、ステータスの高さもあるけどね。参加する意思があるなら後日郵送する資料にサインして送ってね。まあ、不参加の場合でも返事はしてもらうんだけど……」
「アリア、そろそろ時間」
「うん。じゃあ、向こうの世界でもあえることを祈ってます」
そういうと、7人はギルドの外へと転移させられた。




