#02-01 あなたへの加護
戦闘が終わった後、すぐにコガネから迎えの車がよこされ、奏達は異常に高いビルの高層階の一室へ案内された。
「ああ、ごめんね。結局来てもらって」
「それはいいんですけど……ここどこですか?」
「うちの本社ビルだね。え?何か問題あった?」
「このビル高いんですよ……何ですか76階って」
「大阪の某ビルよりも高い日本最大のビルだよ」
「いや、そんなこと言われても……」
「というか、君らなんでそんなに疲れてるの?」
「戦闘の直後に呼び出したらしんどいわ!」
「まったく、これだから無能な指揮官は……」
「瑛大も翔も辛辣過ぎない?というか、明日香さんはどうしたの?」
「車酔いです」
「……乗り物弱いもんね、明日香」
「龍は大丈夫だったんですけど、車はダメでした」
「まあ、そもそも竜に乗ることが稀有な事態だからね……」
「稀有というか、普通ありませんよね。それより、遥人さん。呼び出した本題を」
「あー、うん」
そう言いつつ、遥人がモニターを見せる。
「今回の侵攻なんだけど、正直今までの奴とは正直規模が違ってね」
表示された日本地図に赤いマークが点々とついていく。
「都内だけで15か所。まあ、これは女神がかたまってるせいで、次元が歪んでるというキクロの説が有力なんだけど」
「えええ!?唐突に私たちのせい!?」
音羽が抗議の声を上げる。
「でも都内だけで、静音さん、奏さん、音羽さん、明日香さん、瑠衣さんに鈴音――あれ?日本にいる女神全員都内にいるの?」
『今頃気づいたのかよ!』
全員にツッコまれつつも遥人は続ける。
「で、今回は都内以外にも、静岡・神奈川・埼玉・山梨・長野・愛知でもほぼ同時間に発生していてね。クーゲル隊がこっちで頑張ってくれてたぶん、ハンザー隊がかなり大変だったみたいで、シャッテンも随分飛び回ってたし」
「まあ、こちらもクーゲル隊がいないとかなりやばかったですし、埼玉の方面は無理言ってメッサー隊に対応させましたし」
「まあ、それでも都内以外はかなり被害が出てるみたい。やっぱり戦力増やさないとヤバいかなって」
「それを私たちに言ってどうするの?」
「静音さん、ちょっとその辺の――自衛隊とか鍛えてみない?」
「え?嫌だけど」
「えええー、じゃあ瑛大にやらすしか」
「お前、労働基準法って知ってるか?」
「え?コレ労働なの?」
「おい、耀史。コイツほんとに賢いのか?」
「さあ?オレも将来がかなり不安になってきたよ」
「というか、暇な奴にさせればいいんじゃないの?――ほら、遥人とか」
「あのね、僕がどれだけ頑張って国と交渉してるか……」
遥人がわざとらしくため息をついて見せる。
「メッサー、ハンザー、シクル、クーゲルはもう増員決定だから、翼には働いてもらうけど」
「はあ!?」
「いいじゃないか、可愛い彼女と一緒にがんばれよ」
「そうだそうだ!」
「洋と翔もね」
「「えええええ!?なぜ!?可愛い彼女いないのに!?」」
「そこじゃないだろ……」
「じゃあ、タロは?アイツも暇だろ!?」
「いや、だって、タローは今奏さんの旗下みたいなもんだし……」
「貴様、何故そんなに羨ましいことに!?」
「オレも高校に戻りたい!」
「今、奏さんが女神だという事を再認識した」
「良かったな、お前」
「あとは杏理さんと利里さんにも手伝ってもらうかも」
「私は良いのか?」
「漸苑さんは静音さんの護衛……まあ、燕真だけでもいい気がするけど」
「護衛とはまた大層な……」
「というか新戦力として自衛隊を投入するのか?」
「あー、まあ、一応危険だからね。女神の加護持ちはめったなことで死なないけど……」
「ん?ちょっと待て」
瑛大が制止する。
「オレ、今そんな加護持ってないぞ?」
「え?あー、戦神の加護は解除状態だしね」
「まて、つまり、オレは死にやすいという事か!?」
「いや、瑛大は、見た目はあれだけど一応半竜の性質もってるから大丈夫じゃない?」
「じゃあいいや」
「よくないですよ!オレが死ぬじゃないですか!」
「そうだそうだ!というか、他の奴もそんなに加護持ってないだろ!?」
「え?」
遥人がモニターに全員の名前を表示させる。
「まず、僕だけど、“銃神の最愛”と“陽神の友人”の二つだけだけど持ってる」
「え!?私いつの間に遥人に加護を!?」
「さあ?」
「私の方がLv.5の加護、音羽さんの方がLv.2の加護ですね」
「常人の7倍死ににくい計算だよ」
「今ここで殺してやろうか?」
「落ち着くんだ、洋。で、それはどうやったら手に入るんだ?女神に貢げばいいのか?」
「一番持ってる人に聞いてみれば?」
「一番持ってる人?」
「奏さん」
「え?私そんな称号持って……増えてる!?」
『月神の最愛』 加護Lv.5/MP +15%/魔攻 +15%
『弓神の親愛』 加護Lv.5/HP +15%/敏捷 +15%
『陽神の姉』 加護Lv.5/物攻 +15%/魔攻 +15%
『裁神の妹』 加護Lv.5/魔攻 +15%/魔耐 +15%
『剣神の敬意』 加護Lv.4/HP +12%/物攻 +12%
『護神の敬愛』 加護Lv.5/物耐 +15%/魔耐 +15%
『牙神の敬愛』 加護Lv.5/物攻 +15%/器用 +15%
『魔神の敬愛』 加護Lv.5/MP +15%/魔攻 +15%
『銃神の戦友』 加護Lv.4/物耐 +12%/器用 +12%
「いつの間に!?というかここにいない人の分も」
「常人の43倍死ににくい計算ですね」
「何故ほどほどという事を知らないの……」
「これに関しては私のせいじゃなくない!?」
「奏さん、私の方に“幻神の最愛”があるんですけど喜んでいいんですよね?」
「というかオレたち大体奏さんか紫苑さんの加護ついてますよね?」
『うん』
大半の人間が頷いたところで、加護無組(瑛大、翔、洋)の三人が困惑する。
「えええ!?なんで私を見るんですか!?」
「奏なら加護をくれそうな気がして」
「そんなこと言われても、どうやってあげてるのかわからないけど!?大体加護称号自体も今初めて出てきたし」
「認識しないと出ないのかも……あ、増えてるわ」
「え!?あ、オレも増えてる!」
瑛大と翔が自分のステータスを見ながら声を上げる。
「“幻神の戦友”、Lv.4加護だな」
「え、オレの“幻神の友人”でLv.3なんですけど……」
「おーい、なんかオレも増えてたぞ……“幻神の憐憫”加護Lv.1」
「憐憫って……」
「憐れに思われてるんですね」
「お、なんか増えた……“月神の侮蔑”、あれ、これLv.3なんだけど加護じゃなくて“呪詛”なんだけど」
「打ち消されてるじゃん、憐憫」
「え?え!?マジで!?誰かオレに加護プリーズ!」
「おお、増えてるぞ!“裁神の拒絶”と“陽神の嘲笑”」
瑛大が洋が表示している表示枠を覗き込みながら声を上げる。
その隣で大郎が爆笑している。
「どっちも呪詛じゃん!しかもLv.4とLv.2!誰か他の……鈴音はダメだし……」
「お、余計なこと言ったから“銃神の嫌悪”が増えたぞ」
「まだなんもしてないじゃん!?しかもLv.5て!」
「やったな、今、“剣神の憐憫”もゲットしたぞ」
「憐憫シリーズはもういい!というか呪詛だけバリエーション豊か!こうなったら明日香ちゃん!」
「え!?私!?」
「やめとけ、嫌そうだぞ――ほら、Lv.2呪詛“弓神の謝絶”ゲットだ」
「(加護①×2)-(呪詛②×2+③+④+⑤)はマイナス12ですね。やはり、鈴音さんのLv.5が痛いですね」
「いや、そういう問題じゃなくない?」
「海外組に期待するしか……」
「イーリスとシルヴィアなら憐憫はくれるだろう。クロエは100%“殺意”とかそんなんだと思うが」
「クロエさん、洋さん嫌いですからね」
「え?そこまで嫌われてんの!?」
「というか、勝手についちゃったんだけど、どうやって消すの?さすがに洋でも死ぬ可能性を上げるのはちょっとあれなんだけど」
「え?消せるの?」
「お祓いとかしてみたらどうですか?」
「もしくは、全員で憐れんであげるか」
「それだ」
「それだ、じゃなくて」
「おお、称号がみるみる憐憫に変わってゆく」
「嬉しくねェよ!でもありがとう!」




