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女神の箱庭II =ツナガルセカイ=  作者: 山吹十波
第1章 世界と、世界
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#01-03 不穏な風



先行した紫苑が先生たちを掻き集め、会議室に押し込んでくれたため、奏は後ろの4人と他の生徒たちからの視線を気にするだけで済んだ。


「まったく、何人の高校生活脅かしてくれてるんですか……」

「あとで謝るから、ほら、大人たち大混乱だし」

「じゃあ、はやく会議室に入ってください!」


会議室に男3人を押し込み、鈴音に謝られながら奏はため息を吐く。


「奏さん、お疲れ様です」

「もうやだ、おうちかえる」

「退行して現実逃避しないでください」


覇気のない目で抱き着く奏の頭を撫でながら紫苑も溜息をつく。


「おねーちゃん!今のってやっぱり……て、何してるの?」

「いろいろ限界が来たみたいです」

「あー、まあ、しかたないよね……静音お姉ちゃんたちには萌愛から連絡してもらってるからあとで苦情は言ってくれると思うよ」

「黒田さんとかにはなんとなくごまかして伝えておいたので」

「ありがとうございます、瑠衣さん。ついでにもう帰っても大丈夫だと伝えてくれませんか?詳しいことは明日教員たちから説明するそうです」

「わかりました、ちょっと行ってきます」


瑠衣が黒田たちに伝言を伝え、他の生徒たちが帰宅を始めるころには事情の説明が終わったようで会議室から遥人達が出てきた。

そして、いつの間にか車に乗せられて、あっという間にこの場所に連れてこられた。

もちろん、音羽達も一緒なのだが、到着した先には耀史と静音たちが既に待っていた。


「で、なんでここなんですか」

「いやー、一回来てみたかったんだよね」

「あんたのせいか!」

「どうどう、落ちついてよタローくん」


何故か連れてこられたのは高めの年齢層をターゲットとしたカラオケ店の大部屋。

説明も聞かずに音羽が歌い始め、大郎が耀史に吼えている。


「で、なんですか、アレ」

「それについてはもうちょっと人が集まってから話すよ」

「貴方、どれだけ人を呼んだのよ」

「今日の所はあと3人だね。で、どうかなこのお店。僕がプロデュースしたんだけど」

「ごちゃごちゃした雰囲気が無くていい感じだが、学生に対しては値段設定が高すぎるような」

「まあ、学生向けで作ってないからね」

「おねーちゃん!何か歌って!」

「えー……」

「奏さん、歌ってください!」

「えー……じゃあ、紫苑も一緒にね」

「え、はい。じゃあ、“百合の愛唄(リリー・ラブソング)”を」

「「ごほっ!?」」


紫苑が曲をリクエストした途端端に座って飲み物を飲んでいた瑛大と翔が噎せる。


「どうしたの?」

「いや、なんでもない。気にするな―――おい、静音、漸苑、紫苑の奴まるで隠す気ないけど大丈夫なのか!?」

「いいんじゃない?」

「最近は奏ちゃんも許容してるしね」


「――貴女の輝く瞳が欲しい 他のモノはいらない」

「――この白く歪んだ愛を抱いて 貴女という快楽(ヨロコビ)を」


「……しかも、なんだこの曲」

「すごい上手いから聞き入っちゃうんですけど内容すごいですね……」

「まあ、教えたの私だけどね」

「何やってるのよ漸苑……あんまりやり過ぎると私が母さんに怒られるじゃない」

「……心配すべき点はそこなのか」


曲が終えると過剰なまでの拍手が送られる。

ちなみに音羽が勝手に入れていた採点の結果は99.96点だった。


「さて、と。そろそろ来る頃だからカラオケはいったん終了かな……」


そう遥人が言ったと同時に、部屋に3人の人影が入ってくる。


「ごめん、ちょっと数そろえるのに時間かかって」

「失礼します」

「あら、いいモデルがいるじゃない」


聞き覚えのある声と聞き覚えのあるような気がする声。

部屋に入ってきた零の声は向こうで聞いたものとほぼ同じ。

対してキクロとフィリーネの声は、同時通訳のせいかやや違って聞こえる。


「お久しぶりです皆さん」

「みんなと会えるとは、やっぱりこっちに来て正解ですね」

「ごめんね、呼び出して。でも、君の研究室は散らかり過ぎて人を呼べるような状態じゃないからさ」

「奏ちゃん、紫苑ちゃん。さ、御着換えしましょうか」

「まって、待って、レイさん。早いよ!」

「うえええ、私もですか!?」


奏と紫苑は現れた零によって隣の個室に攫われていった。


「それで、説明は?」

「奏さんたちが帰ってきてからね……」

「これが日本のカラオケというものですか」

「ドイツの曲入っているのでしょうか」


10分ほどして(うち5分は抵抗していた時間)カナデ達が戻ってくる。

着せられているのは現在鈴音が来ている物と同じ軍服のような服。


「なんで私たちなんですか」

「気にしない気にしない。じゃあ、説明を始めるよ」


そういうと、耀史が持っていたノートパソコンを開き操作する。

壁の大型モニターに世界地図が映し出され、


「えっと、現在太平洋の……ちょうどこの辺りだね。実はレスクリービアと繋がってるみたいで」

『え?』


集められたメンバーの大半が同時に声を上げた。


「いや、少し前からこの辺りでは不思議な霧が発生してて、ついに今月の頭辺りにつながっちゃったみたいで。そのせいだとは思うんだけど、世界各国で謎の霧と共に魔物たちが現界してるっぽくて」

「とても信じられる話ではないが」

「でも私たちはスケルトン見ちゃったしね……」

「このまま放っておくと、大陸が北太平洋の辺りに出てきちゃうんだけど、そうなるとそのあたりにあるグアムとかその辺りが消滅するかもしれないし、そもそも世界の衝突みたいな現象が起きてるわけだから、少し転べば世界ごと吹き飛ぶかもね、ははは」

「笑い事じゃないだろ」

「まあ、それでなんだけど。原因はよくわかってないから解決はしようがない。そこで手を借りたいのは、こっちの世界の魔物の掃除と、もう少ししたら安定して渡れるようになる気がするから向こうの世界に行って原因を調べて来ることかな」

「向こうの世界に行って分かるんですか?」

「正直今の科学では説明できない現象ですから、魔法的観念から見た考察が知りたいですね。幸い向こうにはフィーネがいることですし、接触できれば何かわかるでしょう」

「なるほど、それでこの制服なわけね?」

「でもどうやって戦うんだ?魔法使えないんだけど」


漸苑の疑問にキクロが持ってきていたアタッシュケースを開いて見せる。


「これを使ってもらいます」

「これ、さっきの……」


奏たちには見覚えのある小型のインカム。


「瑛大さんの会社にかなり協力してもらって僕が作った非常識の塊です」


キクロが胸を張る。


「まあ、簡単に説明すると、これを付けると向こうで使ってたステータスをこっちで使えるようになるってとこかな」

「じゃあ、これを付けて魔法で焼き払えばいいのか?」

「そうだけど、そうじゃないんだな」


遥人は自分でインカムを装着するとスイッチを入れる。

青いランプが光る。


同調(シンクロ)開始(スタート)


ランプが緑になり、遥人の手には見覚えのある鎖鎌が現れる。


「で、ここまではできるんだけど、問題はここから」

「どういう問題?」

「どうやらこっちの世界では魔法という法則がないせいで魔法使えないんだよね」

『ええええええ……』

「でも、 技能(スキル)とかはなんとか働くように法則ねじ曲げたから安心して」

「どうやって曲げたんだよ……」

「それで、手伝えばいいの?」

「できれば、ね。あ、給料は出すよ、国庫から」

「国から……」

「国からの依頼だからね。とりあえず、燕真と大郎、漸苑さん、萌愛さんにお願いしたい」

「なんで私たちはダメなの?」

「それは私から」


音羽が質問すると鈴音が一つインカムを手に取って前に出る。

スイッチを入れると青いランプが点灯し、


同調(シンクロ)開始(スタート)


緑のランプに変化し――た直後に赤ランプになり、電源が落ちてしまった。


「と、このように、調整が甘いせいか女神の皆さんが使うと出力に耐えられずに安全装置が働いて機能が使えません」

「もうすぐ改良が終わるのでしばらくお待ちください」

「ええー……」

「まあ、人手が欲しいから急ぐよ」

「急ぐと言っても、働くのはうちの社員とキクロとフィリーネだがな」


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