#01-02 戦闘再開〈リスタート〉
すぐに教員や生徒会なども動いたため、避難自体はすぐに終了した。
しかし、いったいこれが何に対しての避難なのか全く見当がつかない。
「おねーちゃん!」
「音羽、それに2人も。何が起きてるかわかる?」
「ううん、外に出たらすぐに放送だったから……」
三階の窓からグラウンドの方を見下ろすが、特に何か変わったような様子はない。
「委員長!」
「河田君、どうしたの?」
「いえ、先生たちに事情を聞いてきたんですが、政府機関から突然外出禁止の命令が来たようで、職員室も大混乱でした」
「そうなんだ、ありがとね。わざわざ聞いてきてくれて」
「いえ、おきになさらず」
「おねーちゃん!アレ!」
外を見ていた音羽が叫ぶ。
「―――え?」
先ほどまでなかった黒い揺らぎがグラウンドに存在していた。
そして、そこからは見覚えのある影がゆっくり這い出てきた。
「アレは……スケルトン?」
「奏さんもそう思いましたか」
「え!?どうなってるの!?」
窓の外を見ていた一同が困惑する。
「何処かで見たことがあると思ったら、GMHのスケルトンのデザインに似てますね」
「……悟、それ詳しく」
「えっと、百々は知らないかな?結構有名なVRMMOなんだけど。確か静音さんがやってるっていう噂聞いて僕も始めたんだけど」
「それが、どう関係するの?」
「んー……なんか1月のアップデートからトッププレイヤーとか有名なプレイヤーとかが軒並みログインしてなくて、何か起きたんじゃないかって言われてたけど、そのゲームのモンスターのデザインにそっくりなんだよね。しかも、結構高位の闇の神殿の近くにしか出現しないようなモンスター」
「え?よくわかんないけど、ゲームなの?」
「まあ、そうだといいなぁ、って感じだよね」
スケルトンたちはその性質上鳴き声を上げるようなことはないが、不気味な骨の擦れる音や、錆びた剣を引きずる音が生徒たちの不安を煽った。
「……黒田君、ちなみにそのGMHは今どうなってるの?」
「今、ですか?この前のアップデートで消えたプレイヤーそっくりのNPCが大量投入されてまして。龍の試練に打ち勝つと会える女神が超絶可愛いって評判でしたよ。あとは、アップデートで一気に都会になった最初の街の自警団とかいうNPC集団が異常に強くてですね――ああ、これは関係ないですね」
「そうなんだ……」
嫌な予感しかしない。グラウンドのそれも合わせて。
「奏さん、上」
「上?」
少し薄暗い夕闇の中、ライトを下に向けたヘリが通り過ぎる。
「自衛隊、とかかな?」
「そうだといいですけど、嫌な予感しかしないですね……」
ヘリはグラウンドの上空で停止し、そこから人間が2人、パラシュートもつけずに飛び降りた。
「ええ!?」
「あの高さは普通死にますよ」
生徒たちの動揺の声をよそに、その影は上手く着地すると、一人は鉈のような形の大剣を構えスケルトの群れに向かい、一人はスケルトンを蹴散らしながらこちらに向かって来た。
「嫌な予感がしてきた」
「同感です」
「あれ?お姉ちゃん、アレってえいd……」
核心に迫る名前を出そうとした音羽の口を瑠衣が塞ぐ。
「でも、とりあえず何が起きてるのかは問い詰めないとだよね……」
「そうですね」
「あ、奏さん。お兄ちゃんも静音さんも漸苑さんも無事みたいですよ。連絡取れました」
「そう、よかった」
「平然とそこに混ざってる姉に私は吃驚ですけど……」
「まあまあ、いいじゃない」
「そーです。漸苑さんぐらい美人ならお兄ちゃんも満更でもないと思いますよ」
「それでも、よくはないと思いますが。あ、こちらにたどり着きましたね」
下で手を振る男性。
かつての世界でカケルと呼ばれていた青年。
「さて、誰が行く?」
「お姉ちゃん、さすがにこの中を行く勇気は私にはないよ」
「え?音羽が行くと思ってるのに」
溜息を一つ吐くと、奏は窓を開ける。
「じゃあ、行ってくるよ」
「お供しますよ」
奏は窓からふわりと飛び降りる。
「ええ!?奏さんここ3階!」「うぇ!?紫苑さんも!?」
驚く瑠衣と萌愛+その他一同を無視して、奏は何度か足を掛けられるところで勢いを殺しながら下に着地する。
その後、少しバランスを崩したシオンを受け止め、スカートを直してから正面の青年に向き直る。
「お久しぶりですね、カケルさん」
「本当に……というか生身でやることじゃないですよ――スカートの中丸見えでしたけど……」
「忘れてください」
「全然動じませんね。とりあえず、これをどうぞ」
青いランプの点るかなり小型のインカムを2人分手渡される。
「こちら、シルト2。一般人の避難を確認、ついでに目標の人物との接触成功」
『おー、こちらシルト1。こっちは終わったぜ』
『魔物の掃討、こちらでも確認しました。お疲れ様です』
『いやいや、デスクワークばっかりで体動かしたいと思ってたとこだよ。もう着陸できるよな?』
グラウンドにはスケルトンは残っておらず、魔力が消滅するときの青い光が空へと昇っていっている。
グラウンドからこちらに移動してきている瑛大とグラウンドへと着陸をするヘリ。
そのボディにはKoganeの文字が。
「……終わったと思ったらまた巻き込むんですか?」
「場所が悪かった、と思ってください。あ、改めまして――北条翔です」
向こうの世界とそう変わらない容姿の青年。そして、後ろから近づいてくる男は向こうの世界よりは少し細身に感じる。
「久しぶりだな、2人とも。岸谷瑛大だ」
「えっと……まあ、どうしたらいいのかな」
「お二人ともお久しぶりです」
向こうからも見覚えのある人間が2人ほどやってきているが、
「とりあえず、先生たち呼んでくるんで説明をお願いしてもいいですか?」
「おう、久々だなシオンの冷静な反応」
「えっと、じゃあこちらにどうぞ――ああ、その物騒な武器は片付けてくださいな」
「物騒とはなんだ。誰が作ったんだよ一体」
「耀史さんです」
「まあ、そう言われると言い返せないんだけど」
紫苑がこちらに向かってきている2人の方に駆け寄ると、名刺のような物を受け取ってから校舎の中に入っていく。
「やあ、響奏さん。案内お願いしてもいい?」
「……はぁ、どうぞ」




