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女神の箱庭II =ツナガルセカイ=  作者: 山吹十波
序章 変わらない、いつもの世界
2/65

#00-02 動き始める時計

午後6時過ぎ。

会社の自分の席でギアを脱いだエイダイ――岸谷瑛大は深くため息をついた。


「はぁ……、こっち戻ってきちまったら仕事漬けになるんだけどなぁ……」


そう愚痴をこぼした瞬間に正面の扉が開き、女性が一人部屋に入ってくる。


「またゲームしようとしてますね社長!」

「うわ、彩子さん久しぶりだなぁ……」

「何かおっしゃいました?」

「いえ、なんでも」


この女性・香取彩子はいわゆる社長秘書で、この企業の社長であるところのエイダイの専属秘書に当たる人物だ。

それほど大きな会社ではないので社員数は少ないが、瑛大だけではどうしても手が足りないために――というよりも瑛大が少しでも楽をする目的で雇ったのだが、


「というかさ、正月から呼び出されてここで書類に目を通してたわけだけど――いや、随分向こうに居たせいで最早何をしてたかもあいまいなんだけど――なんで呼び出されたんだ?」

「言ったじゃないですか!今日はコガネの本社で新春パーティーがあるって、なんで普通のスーツ着てきてるんですか!?」

「言われてたっけ……」

「言いました!」

「……というか年越しパーティーみたいなのについさっきまで出てた気もするんだが、その辺どうよ」

「それは別の会社です。とりあえず、急いで準備してください」

「あいよ、メールだけ確認したらな」


そう言って瑛大が携帯端末を覗く。

そこには3通のメールが。


「遥人からなんで2通も来てるんだ?それとこっちは……オヤジか」

「珍しいですね。そういえばご実家には帰らなくてよかったんですか?」

「お前、オレが実家に寄りつきたくないの知ってて言ってるだろ」

「ええ、理由は伺ってませんが」

「お前の方こそ実家に顔出さなくていいのか?都内だったら送ってやるぞ。ついでに挨拶もしたいしな」

「え!?っと、それはどういう……」


顔を赤らめる割と純情な彩子をにやにやと眺めながら、遥人のメールに添付されていた電話番号に電話を掛ける。


「さて、どういう意味だろうなぁ」

「え!?ちょっと!?」

「ああ、ちょっと電話だから」


通話になった画面を確認して耳にあてる。


「先日はどーも、岸谷です」

『ああ、うん。今日の招待客の名簿の中に瑛大の名前があったから。来るよね?』

「あー……わり、少し遅れそうだわ。すっかり忘れてたから服用意してないんだわ」

『ああ、そのことなら気にしなくていいよ。こっちで用意するから。香取さん?も連れて来るといいよ』

「マジか。すごい嫌な予感がする。行くのやめて良いか?」

友達(・・)を呼んどいたからぜひ来てほしいんだけど』

「……まあ、オフ会のつもりで行ってやるよ。ほんとに服良いのか?」

『うん、これでも金持ちなんだよね』

「イラつく奴だな。じゃあ後で」


電話を切って溜息をつく。


「さて、と。行くか」

「えっと、どこへですか?」

「パーティー。正装じゃなくていいってさ、向こうで服借りるわ」

「それはいいんですが、私もですか?」

「たまにはいいだろ。先に車行ってるから」


机の上の鍵を掴み、コートを羽織ると瑛大は困惑する彩子を置いて部屋を出ると、エレベータに乗り込む。

地下にある駐車場に止めたシルバーのドイツ車。鍵を開け、エンジンをかけ、しばらくしてから少し化粧を直した彩子がパタパタと駆けてきた。


「あの、私、服これしかないんですけど」

「それも向こうで何とかしてくれるだろ……というかさせる」

「コガネの方に知り合いがいらっしゃったんですか?」

「まあ少しな。大した奴じゃないんだけど」


車を発進させる。

行く先も所詮は都内それほど遠くはないのだが道はやや混んでいる。


「さて、何時からだっけ?」

「19時ですね」

「さすがに間に合うよな?」

「それはどうでしょう……というよりも車で乗り付けて良いんでしょうか。いつも通り私が送って、終わってから迎えに来る予定でしたけど」

「何とかなるだろ」

「どうしてそう楽天的なんですか?相手は私たちよりも100段は上の超大企業ですよ?」

「100段は言いすぎだろ。桁一つ間違ってんじゃねーか?」


そんなことを言っているうちに都内一等地に巨大なビルを構えるコガネ本社へと到着する。

しかし、駐車場に入ろうとすると案の定止められるわけで、


「ほら言ったじゃないですか!」

「あー……ちょっと待ってくれるか?」


案内役に少々待ってもらえるように頼むと再び先ほどの電話番号に電話を掛ける。


「おーい、車で乗り付けたら止められたんだけど、駐車場あるか?」

『誰かに送迎頼めなかったの?』

「いや、いつも彩子に任せてるからさー」

『わかった。電話かわってくれる?』

「おう、頼むわ」


そう言って電話を案内役に投げ渡すと、すぐに顔色が悪くなり、少しして奥の駐車場に通された。


「無事停めれた」

『そりゃよかった。今、人を迎えに行かせたから少し待ってて』

「わかった」


電話を切ると、彩子がこちらをじーっと見ていた。


「どうかしたか?」

「いえ、その……何をしたんですか?」

「いや、何もしてないけど」

「そんなはずはないです。電話を替わった瞬間のあの人の怯えようを見るに」

「気のせいだって……ほら迎えが、ってお前か」


そういうと、車の窓を開ける。


「久しぶり、でもないか」

「いや、初めましてだよ。耀史」

「まあ、元気そうで何より。じゃあ、入ろうか。上で零さんがそっちの秘書の子の服用意して待ってるよ」

「なんだ零までいるのか」

「????」


車を降り、頭の上にクエスチョンマークをたくさん浮かべている彩子を連れて、エレベーターで会場よりも上の階まで上がる。


「さて、じゃあ瑛大はこっち。香取さんは……あ、あそこね」


1つ奥の部屋の扉が開き、中から見知った顔が現れた。


「瑛大、久しぶり?ね」

「そうだな。彩子さんを頼むわ」

「え?え?え?」


未だ理解が追いつかずに半ば強引に扉の向こうへと連れ去られる彼女を見送ると耀史と共に部屋へと入る。


「そういえば遥人はどうした?」

「さすがにアイツは忙しいんじゃないかな、瑛大の衣装これね」

「ああ、すまない。というか、お前はアイツとどういう関係?」

「部下(予定)みたいな感じ?」

「なるほど。そりゃ大そうなご身分で」

「何言ってんの?君もだよ?」

「マジかよ」

「零さんともあの繋がりで提携取ったみたいだし、そのつながりで妹さんたちも」

「妹って言うと……」

「彼女の家は4人姉妹なんだけど上からデザイナー、建築士、弁護士、モデルでね」


そう言いながら部屋に入ってきた遥人。


「父親に勝つために駒集めてるわけか」

「そうそう。まあ、僕の場合は白銀の爺様にも勝たないといけないから大変なんだよ」

「なるほど……それで、わざわざ連絡取ってきたってことは何かあるのか?」

「まだないよ。これからあるかもしれないってだけで」


着替えを終え、ソファに腰掛ける瑛大とその正面に座る遥人。耀史は三人分のコーヒーをテーブルの上に置くと瑛大の隣に腰掛ける。


「そういえば時間大丈夫?」

「コーヒー入れてきたお前が言うのか」

「うちの爺様と、あと数人来てないみたいだからそれ待ちになるね。まあ、君の秘書もまだ用意終ってないみたいだし、ちょうどいいよ」

「というかさ、この服着てから気付いたけど恐ろしいほどピッタリなんだけど」

「ああ、うん。まあ、零さんが選んだからそうだろうね」

「納得いかねぇ……」

「まあ、オレみたいについた途端身ぐるみはがされて全部計測されるよりましじゃないかな」

「耀史、お前そんな事されたのか……」

「なんか向こうに居た時よりも身長がやや高いとか、足が大きいとかそんな理由で」

「瑛大も向こうに居る時よりも肩幅少し小さくない?」

「よくわからん」


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