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女神の箱庭II =ツナガルセカイ=  作者: 山吹十波
閑章A 桜咲く、春へと
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#A-08 異国の友


遥人は鈴音を伴ってドイツはフランクフルトまで来ていた。

仕事のスケジュールを縫っての強行軍なのであまり余裕はないが、これから忙しくなる前に一度会っておきたい人物がいたのだ。


「それで、遥人さん。ここからどうするんですか?」

「なんか空港まで迎えに来てくれるって言ってたんだけど、不安だなぁ」


遥人も鈴音も国の要人にカテゴライズされるので下手をすれば街を挙げての歓迎などということになる可能性もある。ただし今回はお忍びなのでそういった知らせは一切していない。そもそも財政界に明るくない人間からすれば、コガネなどと言う名前は少し珍しい程度だろう、というのが遥人の持論である。


「今のうちに電話しておこうか、」

「耀史さんにですか?」

「そうそう、向こうの事は全部アレに任せてきたし……」

「でも、遥人さん。アレはどうしますか」

「……あ、ほんとに来たんだ。というか本人来るんだ」


こちらに手を振りながらやってくるのは見慣れた顔、キクロ・ハーゼンバイン。

当然と言えば当然だが、彼の言葉はドイツ語で少し声にも違和感を覚えた。

どうやらあちらとは違うらしい。


「ああ、エット、ヒサシブリ?、ダネ。ハルト、スズネ」

「無理して日本語喋らなくていいよ。僕も鈴音もドイツ語分かるし、いざとなったら翻訳機使うから」

「そう、それは良かった。うちまでは車で行くよ。ついてきてくれ」


キクロに続いて彼の車(・・・)が止まっている場所まで来たのはいいが、一つ不安があった。


「一応聞いておくけど、キクロが運転するの?」

「そうだよ、と言いたいところだけど。止められてね」


そういったところで運転席の窓が開く。


「お久しぶりです。お二人とも。今日は私が運転しますのでご安心ください」

「あ、フィリーネさん。お久しぶりです」

「すごい安心だなぁ……鈴音、荷物は積んでおくから先に乗りなよ」

「ありがとうございます」

「ははは、僕に対する信用の無さについては後でゆっくり聞くとしよう」


車に乗り込んで、ドイツを南下し、ハーゼンバインの家を目指す。


「ハイデルベルクまで少しかかるけど、まあ、我慢してね」

「直接迎えに来るとは思わなかったけどね」

「本来は僕が運転するつもりだったのに」

「あなたの運転する車に遥人さんや鈴音さんを乗せる勇気が私にはありません」

「酷いな。これでも無事故なんだよ?」


助手席に座るキクロが憤慨するが、運転するフィリーネは気にしない。


「ところで、キクロ。ハイデルベルクっとことは、」

「ええ、僕もフィリーネもその大学に通ってます。後ついでに、うちの父と母と祖父、それとフィリーネの父と祖父がそこで教授をやってます」

「すごいご家系ですね……」

「まあ、遥人さんと鈴音さんの家には劣りますが……」

「そんなことはありませんよ。あ、遥人さん、電話はいいんですか?」

「え?ああ、忘れてた。悪いけど少し電話かけさせてね」

「構いませんよ」


耀史の番号をタップし、スピーカーに耳を付ける。


「耀史?遥人だけど」

『え?ああ、着いたんだ。合流できた?』

「うん、キクロに代わろうか?」

『スピーカーにしてくれればいいよ』

「……してもいいんだけど、周りなんかうるさくない?」

『今、レストランで食事中でね。テレビ電話にしてくれる?』

「ああ、うん」


カメラをONにすると、耀史の顔が映る。

その後ろにには画面を覗き込む音羽と萌愛の顔があった。

燕真らしき人影も見切れている。


「え?どういう状況!?」

『遥人も鈴音さんもキクロさんもフィリーネさんも久しぶりだね!音羽だよ!』


聞き覚えのある声に前の座席に座る二人も反応する。


「いや、音羽さんの声が聞けるとは思ってませんでした」

「音羽さん、鈴音です。どうして耀史さんと一緒に?」

『ロブさんのところでご飯食べるのに燕真を呼んだら耀史もついてきた』

「なるほど」

「え?今ロブの名前が聞こえた気がするけど、ロブって日本にいるの?」

『いたら悪いのか?』


カメラの視点が外側に切り替わり、ロブの顔が映し出される。

すかさず遥人は画面をキクロの目の前に動かす。


「うわー、久しぶりだなぁ」

『燕真の伝手、というか響姉妹のつながりで結構人集めてもらって、今こんな感じ。録画して、前の2人には後で見せてあげなよ』


言われた通り録画ボタンを押した直後に、順にカメラが動いていく。

ロブの顔アップから、後ろの萌愛と音羽、そして隣の燕真、静音、漸苑とカメラが動いていく。

漸苑の向かいには紫苑が、そしてその隣には奏、明日香、空席を二つ挟んで大郎が座る。


『錚々たるメンバーでしょ?』

「大郎の場違い感が」

『うるせーよ!』

「まあ、みんな元気そうで何よりだよ。というか、僕もそこに混ざりたい」

『こっちは楽しいよ、うん』

「みんな、御代は耀史が持つから好きに飲み食いしてもいいよ」

『ちょ!?』

『やったー、ロブさん、私デザート追加!』

「じゃあ、みんな。またそのうち」


そういうと、電話を切る。


「みなさん元気そうでよかったです」

「そうですね」

「……ところで、フィリーネさん。さっきから同じルートを周ってる気がするんだけど」

「いえ、何かほかに聞かれてはまずいことがあるのなら今のうちにと思いまして。このままいけば10分ほどで着いてしまうので」

「なるほど、鋭いね。じゃあ、少し本題に入っておくけど、先日自衛隊と米軍、それとロシアと中国にも協力してもらって調べんたんだけど……まあ、実際に見てもらった方が速いか」


そういうと、鈴音がキクロに資料の束を渡す。


「一週間分の太平洋中心部の観測結果です」

「……なんだか不思議なことになってるね」


資料をめくりながらキクロが呟く。


「残念ながらこの手の現象にはまともに使える“専門家”がいなくてね」

「そこで僕、ですか」

「そういう事。可能ならば、の話なんだけどキクロとフィリーネさんには日本に来て、それ(・・)についての研究を手伝ってもらいたいんだ」

「私もですか?」

「この男一人だと何するかわからないしね」

「なるほど」

「……僕への信用無さすぎじゃありません?でもまあ、ここまでの事なら、遥人が対応しなくてもいいと思いますけど」

「まあ、事の一端は僕にもあるだろうから。やるなら最後まで、だよ」


キクロが資料を一度鈴音へと返す。


「自宅に着いたらもう一度貸してください」

「わかりました」

「今日は、色々ご馳走を用意してますから。うちに着いたらまずはゆっくりしてください。僕はその間に、父への良い訳とシュヴァルツェンベックの家への言い訳を考えておきますから」

「ああ、私が同行するのは決定なんですね……」

「フィリーネさん。諦めが肝心ですよ」


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