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女神の箱庭II =ツナガルセカイ=  作者: 山吹十波
閑章A 桜咲く、春へと
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#A-07 綻ぶ蕾たち

入学説明会、といってもそれほど大業な物でもなく、高校生活についての指南や制服や教科書類の販売などを行うのがメイン。

保護者も来ているため人の数が相当多い。我が校は駐車場が少ないため、グラウンドに設けた臨時駐車場の整理などもしなけれならない。

そういうことで、駆り出された生徒会と風紀委員、そして顧問の指示によって集められた運動部の部員たち。

奏たちの仕事は生徒、保護者がの誘導。それと主に女子の制服の採寸、販売の手伝い。さらに、教科書の販売である。

風紀委員会はなぜか信用が高いらしく、会計的な仕事を率先して回されることとなった。なお、生徒会は先生たちのフォローで走り回っているのであまり役に立たない。

奏は連絡用のトランシーバーを持たされているが、先生たちから特に指示はないので変更なくこのまま進めればよいだろう。

スマートフォンで飯田、黒田、河田それと紫苑にに同時発信する。この4人が各要所を配置しているのでそこから指示をしてもらう作戦だ。


「今、体育館での工程はすべて終わりました。そろそろ河田君の所に1年生が着くと思います。特に変更は聞いてないので予定通り男子は北階段から2階の多目的教室Aで採寸、その後、2階の小ホールで教科書販売。女子は北階段から上がって3階の会議室で採寸、そのあとは中央階段から降りて小ホールに行くように誘導お願いします。小ホールからは南階段を使って外へ行くように。ここまで一連の一方通行で、逆走はできるだけさせないようにお願いします。委員は中央階段のみを使って移動するようにお願いしますね」

『了解しました。多目的教室A準備入ります』

『会議室了解しました』

『校舎1階の河田です。1年生の誘導開始しました』

『池内です。こちらも準備開始します。おそらく、制服を買わない方もおられますので』

「こちらも、全員出たのを確認してから副委員長の所に合流します」


あまり長々と話す暇のないので簡潔に用件のみを交換して、通話を解除する。


「あと20組ぐらいかな」

「奏さん!」


体育館を見渡していると見覚えのある顔がこちらにやってきて飛びついてきた。


「わ、あぶないよ、萌愛」

「奏さんなら受け止めるなり避けるりしてくれると思って」

「まあ、大丈夫だったけど……今日はお母さんと?」

「ううん、今日はなぜかお父さんが」

「そうなんだ……制服の採寸大丈夫?」

「えーっと……どうしましょう」

「何処かに姉さんと音羽がいるはずだから見てもらうといいよ、ほらあそこに」


保護者側として来ている静音と音羽、そしてそれに完全に遊ばれている大郎の姿が最後に残っていた。


「姉さん、萌愛の制服も見てあげて」

「いいわよ」

「というか、音羽も制服買うんですか?」

「えーっと……なぜかお姉ちゃんたちの奴がサイズ合わなくて――胸囲とか」

「ぶふっ」


隣で噴出した大郎が音羽に蹴飛ばされる。


「何がおかしい」

「いや、なんでもない。きにするな――いって、母さんやめろって」

「まったく、アンタにはデリカシーってもんがないのか」


母親に頭をひっぱたかれた大郎は、そのまま引っ張られて先に向かう。


「じゃあ、音羽たちが最後だね――こちら響です。体育館全員移動完了しました」

『了解』


トランシーバーから返答を確認し次第、奏も次のポイントへ向かう。


「お姉ちゃんは次はどこに?」

「教科書売り場かなー。じゃあ、また後で」


校舎入ってすぐの中央階段の前に立っている河田を激励した後そのまま2階へと上がる。

既にホールでは数人が教科書を購入し終え、指示に従って南階段へと移動していっている。


「紫苑、どんな感じ?」

「滞りなく。今何人かに準備してもらってるんですけど、数学の問題集が2箱ほど足りないようなので取りに行ってもらってますが、当分は持つので問題ないかと」

「そっか」


教科書とその他教材のブースに分かれて販売を行っているもっとも、教科書の方は名前を確認して受け渡すだけだが。

後ろの箱から委員が持って来たものを確認し、紙袋に入れ、手渡すまでが奏の仕事。その教科書の中に入学前の課題という薄い冊子を混ぜ込むのはご愛嬌。


応対しているだけの奏の姿に一年生たちはなぜか驚いたような顔をしていたが、理由はわからない。時折こちらに視線を送っているお父様方が奥様に小突かれているのはどうしてなのか。


『藤原です。保護者会の集まりの入場開始しました。響さんそちらどうですか?』

「え、あ、すいません――紫苑」


後ろで作業していた紫苑がす、っと奏の立っていたところに入ると何事もなかったかのように受付を再開する。紫苑のいた場所には奥で箱を片付けていた委員が入り、問題なく続ける。


「響です。こちら、7、8割終了ですかね。教材の方も、問題なく」

『了解です。大野先生、グラウンドの方は?』

『既に結構出て行った。おそらくそれほど数は残らないと思う』

『わかりました。予定通り、少し椅子の数を減らします』


「紫苑」

「あ、もうそろそろこちらは終わるので大丈夫ですよ」


紫苑がそういうので列を見ると、最後尾に音羽達の姿が見える。


「確かに、そうみたいだね」

「そういえば、音羽さんも制服を購入し直しているようですが」

「うっ……ちょっとそのことについては触れないでよ紫苑さん」


紫苑の疑問に目の前にやってきた音羽が口元をゆがめる。

先に教科書を受け取った大郎は笑いをこらえながら隣の列へと逃げる。


「えーっと、音羽で最後だよね?」

「うん、そうだよ」

「じゃあ、撤収の準備だね」


電話で他の場所にいる3人に声をかける。

一応この場所が片付いたら今日の仕事は終了だ。


「とりあえず、隣に並んできなよ。私たちしばらくここで片付けしてるし。萌愛も」

「はーい。行こうお姉ちゃん。あのやろー笑ってやがったから蹴っ飛ばしてやらないと」

「ふふ、ほどほどにね」


音羽達が行くのを見送った後、後ろを振り返る。

空の段ボールが大量に積まれている――はずだったが、既に9割方片付いている。


「あれ?」

「あ、委員長。こっちはもう終りましたよ」

「えっと、いつの間に……」

「少しずつ進めてただけです。池内さん、その資料僕が職員室まで届けておきます」

「え、ありがとうございます」


紫苑と同じクラスの某君指導の下、新2年生たちがてきぱきと動いて撤収作業を終わらせる。気が付いたら後ろにあったはずの長テーブルすら片付けられていた。


「えっと、お疲れ様です。じゃあ、ここはもう帰っても大丈夫だよ。車の出入りがあるから気を付けてね」

「わかりました。お疲れ様でした」


去っていく後輩たちを見送る。

隣の列はほとんどなくなっているが、なぜかこちらをぼーっと見ている人たちがたくさんいる。


「……どうしたのかな、みんな。少し騒ぎ過ぎた?」

「いえ、尋常ならざる練度に驚いてるのだと思います」

「そんなこと言ったって私何もしてないよ?」

「しかし、起こるであろうハプニングも含めて概ね奏さんの予測通りに終わりましたからね……」

「偶然だよー、きっと」

「お姉ちゃん!終わったよ!」

「音羽、走らないの。萌愛もお疲れさま」

「奏さんももう帰れるんですか?」

「ちょっと職員室によってからになるけどね。トランシーバーも返さないとダメだし」

「あ、音羽に誘われたんですけど、この後お邪魔しますね」

「うん、いいけど、お父さんどうするの?」

「荷物持って先に帰ってもらいます。帰りはお兄ちゃんを呼ぶか電車で帰ります」

「あ、でも。音羽、今日ロブさんのところで晩ご飯食べるの忘れてない?」

「忘れてた……てへ」

「え?ロブさんの所ですか!?私も行きたいです!」

「えっと、でもそうなると遅くなるから……」

「今からお兄ちゃんに電話してきます!あと、できればお泊りしたいです!」

「私は別にいいけど……あ、紫苑も来る?」

「行きます」

「おねーちゃん、私、ロブさんに人数増えるかもって電話しておくね。ふふふ、萌愛、今夜は寝かせないよー!」

「元気ねぇ、高校生は」

「姉さん、年寄りみたいになってるよ……」

「せっかくだから漸苑にも声をかけておいて、大郎も来る?」


少し距離を取っていた大郎が突然の振りに驚く。


「え!?オ、オレも!?」

「どうせ燕真も混ざるだろうし、男一人じゃないわよ」

「じゃ、じゃあ……夕飯だけ一緒に」

「決まりね。そういう事だから燕真」

『ああ、判った。こちらも一人客を連れていこう』

『ハロー、ヨウジだよ。ナイスタイミングだったね。ツいてるよ』


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