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女神の箱庭II =ツナガルセカイ=  作者: 山吹十波
閑章A 桜咲く、春へと
14/65

#A-05 別れの宴


店の外観に緊張しながら男子たちが入ってきたころには準備も大方終っていた。

飯田たち女子メンバーによって男子は片付け全般をやらされることがその場で決定したが、“奏からのお願い”というジョーカーを切られたために逆らうことは許されなかった。なお、当の奏は紫苑と共に厨房でデザートの用意をしていたためその事実は知らない。


男子たちに遅れること数分、静音が卒業生たちを連れて店にやってくる。ついでに着いてきたがった音羽も混じっているが早くも溶け込んでいた。


「ロブさん、お久しぶり!」

「音羽か!こっちだと少し背が低いな」

「まだ中学生だからね!」


音羽が無邪気にロブに接している様子から彼に対する警戒心もいくらか解けてきたようだ。


「静音、卒業おめでとう」

「ありがとう、ロブ。今度は燕真も連れて来るわ」

「そうしてくれ。杏理も久しぶりだな」

「そうだね。じゃあ、私は次は漸苑と利里連れてくることにするよ。サービスしてね?」

「覚えておくよ。奏、紫苑、もうそろそろ始めてもいいんじゃないか?」

「そうよ、奏。あなたが今日は仕切ってくれないと」

「ええー、もう姉さんがやればいいのに……ま、それはないか。全員グラス持った?え?飲み物足りない?あ、足りてる?」


確認をした後、一度咳払いをする。


「えっと、それじゃあ、3年生の皆さんご卒業おめでとうございます。そして、お忙しい中来て下さってありがとうございます。短い時間ですが、高校生活最後の思い出として楽しんでくださいね!」


満面の笑みで奏がそう宣言する。

一瞬、時が止まったように静かになるがすぐに元以上の盛り上がりを取り戻す。


「あれ?なんで一瞬白けたの?私のせい?」

「えっと、響さん。そうではなくて、全員見惚れたというか、まあいいです」

「飯田さん、問題があったら言ってね?」

「問題はないんですよ?ええ、ほんとです」


奏に自らの容姿に対する自覚がないため伝わらないと判断し、飯田は解説をあきらめる。

何人かの1年生メンバーが紫苑に続いて次々と大皿を運ぶ。

どれも見た目も味も一級品の料理ばかり。3年生たちから歓声が上がる。

ロブの手間も考えて、簡単なものをお願いしていたが、作っている最中にプロ魂に火がついたのかかなり凝ったものも並んでいる。


「奏、すごいねこれ」

「そうだね、ここまでしてくれるとは」

「というか、何が一番すごいかってこれを1人で作ってるんでしょう?」

「まあ、仕込みはあらかじめしてたみたいだけどね。尋は先輩たちに挨拶できた?」

「うん、一通りは。あとは静音さんと杏理さんだけかな」

「……姉さんたちの所すごいならんでるね」

「そうだね……ま、並んでくるよ」


料理を何品かさらに盛ってから尋が列に加わる。


「紫苑、少しは休んでいいよ。というか、代わるよ?」

「大丈夫ですよ。奏さんはそこでゆっくりしててください」

「でも、今することなくて退屈で……」

「奏さんは企画とかロブさんに連絡とか全部してくれたんですから、今日は休んでくれていいんですよ?」

「そういうわれても……」

「あ、そろそろ次の出し物の準備した方がいいんじゃないですかね」

「次?……何かするっけ?」

「飯田先輩たちがビンゴゲームを企画してましたよ?」

「ああ、そういえばカード貰ったっけ」


少し広くスペースが取られたところで飯田たちが景品を置いている。

女子有志よる出資なのであまり高価なものはないが、手作りケーキ(奏作・限定2個)や、ハンカチ(紫のアザレアの刺繍入り・紫苑作)、さらに好きな相手とペア写真撮影権(先着3名)などの商品が置かれているため混戦が予想される。


「そういえば、男子たちが王様ゲームをしようとか言ってましたけど、どうなんですかね、風紀的に」

「まあ、あまりにひどい場合は止める感じで行けば……」

「はーい、ビンゴ―ゲームはじめます!あまり大した商品は用意できませんでしたが先輩方も振るってご参加くださいね」


飯田の声に一部メンバー(ほとんどが男子)がそんなことはない、と返したが飯田はそれを聞き流し、数字を発表し始めた。


「それではまずは……32です!どんどん行きますよ、次が10!」


紫苑は隣で既に3つ穴が開いている奏のビンゴカードを無言で見つめる。

なお、1つはFreeだ。


「続いて72!……まさか、リーチの方は……はい、いないですね。次は……19です!」


どうせいないだろうと高を括って飯田はリーチの確認をしなかったが、奏のカードは斜めに4つ穴が並んでいる。


「次は51!…………えっと、響現委員長どうされました」

「ごめん、揃っちゃった……」


ほぼストレートでゲーム終了。奏にとってはよくあることなので姉妹と紫苑は驚いた様子はない。


「確かに……景品、どれになさいますか?」

「どうしよう……というか、先輩たちに残した方がいいんじゃ」

「その辺は気にしないでいいですよ、ゲームですから」


飯田にそう促されると、奏は迷うそぶりも見せず、可愛く包装されたハンカチを手に取り元の場所へ戻った。


「えへ、うれしいかも」

「奏さん、私もうれしいですけど……相変わらずの豪運ですね」


自分の刺繍したハンカチを胸元に嬉しそうに抱える奏を見て紫苑は転げまわりたいほどの歓喜に包まれたが何とか制止し、できるだけ表情を隠しながらゲームを続けた。


結果としては紫苑もかなり早い段階でゲームをクリアし、迷った結果尋の持ち込んだ和柄のストラップ(ペア)を取ると奏の隣に戻った。

その後、2人で厨房を手伝いに行ったため、何が起きていたかは直接見ていないが、戻った時には撮影権を獲得した女子が男の先輩を指名して、ついでに告白を成功させたようだ。

なお、杏理が獲得した撮影権はすでに奏に指名が入っていた。


「さて、黒田君。撮影権を誰に使いますか?」

「飯田さんでお願いします」

「……………え?私ですか」


奏たちがデザートの準備を終えて戻った時にもサプライズイベントが発生していた。

まさかの司会者が完全にフリーズするという事態。


「今日告白するつもりはなかったんだけど、勢いで言っちゃおうかなって。僕と付き合ってください」

「え?え?あの、黒田は響さんの事が好きなんじゃ?」

「響さんの事は確かに好きだけど、高嶺の花というか、画面の向こうの女優さんを見てるようで……あ、響さんに手が届かないから妥協したとかそういうのじゃないよ?中学の時からずっと好きだったし」

「……えと、あの、えと」


顔を真っ赤に染めてオーバーヒートしている飯田をとりあえず、黒田と共に後ろに下げて、代わりに尋が前に出る。


「さて、さて。あの二人の事は後程結果を聞くとして、ゲームを続けますよー」


最終的に、黒田が男らしく飯田を口説き落とし、無事カップル成立となったわけだが、他の男子メンバーからの野次はものすごいことになっていた。

なお、黒田はこの後行われる、男子企画の王様ゲームへの参加権を当然失ったのだった。


どんな命令も可、ただし、女子のみパス有り、という静音の決めたルールによって女性陣の安全は守られることになったのだが、


「……王様がこねぇ」

「どうなってんだコレ」

「ちゃんと混ぜてるよな?」

「混ぜてるさ、混ぜてるけど3割の確率で響委員長の所にいくんだもん」


奏の“豪運”がゲームバランスを崩壊させ、面白がった静音によって男子数人が男子同士のキスという一生得たくなかった経験をすることとなる。


「よっし、オレが王様!」

「頼むぞ!河田!」

「6番に42番がキス!」

「またそれかよ!」

「男同士だと最悪だぞ、もう見たくねーし、されたくもねーよ」


6番を持っていたのは奏。

42番は紫苑。


男性陣からしてもこれは予定外だった。

一番の予定外は、パスが使われることなく、紫苑が迷う事もなく、隣に座る奏の頬にキスをしたことだったが。

会場内が一気に静まり返る。


「……場所の指定はありませんでしたので、これでいいですか?」

「あ、っはい。ご馳走様です……じゃなくて、次!」


その後も数回繰り返すが、男子たちの目論見が果たされることなくゲームは終了する。

その後、奏と紫苑が用意していたスイーツに舌鼓を打つと、しばらくの自由時間の後に終わりの時間が来た。


「じゃあ、男子はこの後すぐに片付け、してくれるんだよね?――うん、いい返事をありがとう。二次会とかは止めないけど、あんまりはしゃぎすぎないようにね。それじゃあ、今日はありがとうございました」


奏が簡単に締めると男子たちは驚きの速さで、後片付けを終わらせ、皿まで全部洗って帰っていった。


「……なんというか、奏の部下って感じだな」

「それはどういう意味ですか?まあ、いいや。ありがとうございました、ロブさん。次は音羽の高校の合格祝いにでも来ます」

「わかった。連絡をくれれば何か特別な料理でも用意させてもらおう」

「ほんとに?タローと萌愛にも絶対受かるように伝えとくね!」


姉妹でロブに挨拶をしたのち、家路についた。


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