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女神の箱庭II =ツナガルセカイ=  作者: 山吹十波
閑章A 桜咲く、春へと
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#A-04 明日の空へと


2月の下旬、奏たちの高校では卒業式の準備が進められている。

奏と紫苑もその準備のために奔走しているのだが、既に受験の終わっている静音は暇を持て余しているようで、


「ねぇ、奏。こっちの椅子少しずれてない?」

「え?あ、本当だ……じゃなくて、3年生はまだ登校時間でもないはずなのに、なんでいるの!?」

「だって家にいてもやることなくて退屈なんだもん」

「音羽は今日休みだから家にいるんじゃ?」

「まだ寝てるわ」

「え?寝かしたまま置いてきたの?」

「朝ごはん食べてから二度寝してた」

「えー……」

「委員長!こつち終わったんで確認おねがいします!」

「うん、わかった。姉さんも教室に行った方がいいんじやない?もうそれほど時間も余裕ないよ?」

「そうね、じゃあ、残り準備頑張ってね」


奏の肩を叩くと、静音は最後の準備が進められる体育館を出ていく。

奏たちが手伝っている準備と言うのも音響や照明などの最終チェックだけである。

基本的に放送部や生徒会が主体となって進められているのだが、人手不足を理由に呼び出されたのである。しかし、特に断る理由もないので奏は引き受けた。委員たちからのクレームの一つや二つは覚悟していたのだが、案外不満の声は上がらず、部活などで準備がある数人を除いて皆参加してくれた。


今の報告で奏達が任された仕事は大方終ったため、委員たちは引き上げさせ、奏は生徒会に報告を行う。


「藤原君、こっち終ったよ」

「ありがとう、響さん。ごめんね、急に頼んで」

「気にしないで、みんな快く受けてくれたし」

「そう、なんだ――――ところでその状態は?」


藤原が奏の後ろに張り付いている紫苑を見て言う。


「こうしてると暖かいの」

「いや、うん。そうだろうけど……まあ、いいや。深く突っ込まない方がいい気がしてきたし」


この場を去ったはずの風紀委員たちからの殺気を感じて、藤原書記は会話を断念する。


「じゃ、もどろっか」

「そうですね。といってももう十数分すればまたここに戻ってきますけど」

「体育館寒いんだよね……何とかならないかな」

「魔法で暖かくできたらいいんですけど」

「そうだねー」


3月の初旬の気温はかなり低く、桜どころかちらほら雪が舞っている。

しかし、空は晴天とは言い難くとも雪雲の間に青色を覗かせている。

紫苑と別れ教室へ戻る奏は窓の外の空を見上げる。静音が卒業すると思うと少し寂しくも感じるが、来年には音羽達が入ってくるはず。


「奏、こんなところで何ぼーっとしてるの?もう移動するって」

「え?尋?……私今上がってきたところなんだけど?」


背後から突然話しかけてきた尋。

その後ろには移動を始める級友たちの姿が。


「今年は静音様と城内さんが卒業か」

「上位3名のうち2人も卒業となるとはなぁ」

「まあ、オレらの学園には響さんがいるからいいけど」

「それな」


「なんか、みんな盛り上がってるね」

「まあ、アイツらは邪悪なこと考えてるだけだから気にしなくていいよ」

「そうなの?」


卒業式は粛々と行われる。

生徒会長が送辞を読みあげると、続いて全生徒会長が答辞を読む。

仰げば尊しや蛍の光の斉唱が済むといよいよ退場。

響家の両親は仕事の事情で不在である(父だけは1週間前に帰ってこようとしたらしいが飛行機の機材トラブルでホーチミンに足止めを食らい、帰国する機会を失った)が、保護者席では感動で涙を流す親たちが多くいた。


「卒業生退場」


1組から順に担任に続いて体育館を出ていく。

拍手に包まれながら、涙をこらえながら、歩いていく卒業生の姿を見送る。

奏も出ていく静音の後姿を見た時、泣きそうになったが何とか堪える。あまりこういう場で泣くのはキャラじゃない。


「奏、泣きそうになってたでしょ」

「ちょっとうるっと来たかな。でも泣いてないよ」

「この後どうするの?静音さんたちと家でお祝い?」

「お父さんが帰って来てたらそうするつもりだったけど、無理そうだから。それと知り合いに無理行ってレストラン貸切で押さえてもらってるからそこでパーティーでもしようかなって」

「……どうやったらそうなるの?」

「あはは、偶然ね。結局風紀委員のみんなと集まるんだけど、尋も来る?」

「いいの?実は弓道部の先輩たち皆静音さんに誘われてて」

「そうだったんだ。流石姉さん、顔広いなぁ……あ、黒田君ちょっといい?」

「はい。今日の事ですか?すみません、無理言って僕らも参加させてもらって」

「いいよ。気にしないで。人多い方が都合も良かったし。今日の会費1人3000円ぐらいでお願いしてるんだけど、もしかしたらもう少し上がるかも。できれば男子全員から、とりあえず3000円ずつ集めてもらえない?女子は私の方でやるから」

「わかりました。任せてください」

「……もう完全に黒田を支配下に置いてるよね」

「そうなのかな?でも、同じクラスだし、他の委員よりは喋りやすいかなぁ」

「そういうこと言ったら誤解を生むから……」


本日は午前中の卒業式のみ。

風紀委員会主催・送別会の会場となるのは少し隠れ家的な雰囲気を出しているレストラン『BOX』。

一度家に帰り、少し気合を入れた格好に着替える奏。すぐに紫苑と、場所を伝えていない尋が合流し共に向かう。

制服のままというのも良いかと思ったが、大量の学生服が出入りするのも店のイメージ的にどうなのかと考えたからなのだが、あとから考えてみれば、ここの店主はそんなことを気にするタイプでもなかった気がする。


さて、奏がわざわざ先にやってきた理由は、店主に挨拶をしておきたかったからだ。

向こうで(・・・・)店名は聞いていたが突然連絡して快く受けてくれた礼もしておきたい。


「……思ってたよりすごいですね」

「さすがだね……」

「奏、この店1人3000円でいけるの?無理じゃない?」

「と、とりあえず入ってみよう」


ドアを潜る。チリン、とドアについたベルが鳴る。

普段はあまり昼は開けていないらしく、店員の姿はない。


「いらっしゃい」


奥から背が高く、がっしりしたスキンヘッドの男性が現れる。

隣の尋の方がびくり、とはねる。


「すいません、無理を言って」

「お久しぶりです」

「奏も紫苑も相変わらずの美人さんだな。まあ、気にしなくていい。友人の女の子のために場所を貸してやるのは慣れてるんでな。で、こっちの子は?」

「あ、友人の尋です」

「橋上尋です。ハジメマシテ」

「緊張しなくていいよ。いい人だから」

「まあ、見た目が厳ついのはわかってるから気にしないが。ロバート・ボクサーだ。ロブと呼んでくれ」


恐る恐るロブさんと握手をする尋。


「それで、ロブさん。場所代含めて今日どれぐらいになりそうですか?」

「一応、100人来ても大丈夫なぐらいには食材はあるが、どれぐらいの人数になった?」

「53……尋を入れて54人ですね」

「それぐらいなら1人2000円でいい」

「……いや、それはちょっと安すぎです」

「気にするな。友達価格だ。それに今日はウェイターが居なくてな。オレは厨房に籠るから料理を運ぶのを手伝ってほしいんだ」

「そのぐらいなら全然しますけど、こんないいお店なのにその辺のチェーン店より安くて大丈夫なんですか」

「まあ、いいだろ。その代わり贔屓にしてくれ」

「わかりました。また、友人(・・)と出会えたら連れてくることにします」

「ああ。じゃあ、早速で悪いが軽くテーブルの配置を変えてくれないか。立食形式でいいだろう」

「わかりました。ここは私が」

「あ、私も手伝います」

「え?私も手伝うよ?」

「奏さんは御代の事を連絡してあげてください」

「あー、うん。わかった」


代表者にメールを送る。

3年生を取りまとめている静音と、男子代表の黒田、女子代表の飯田へ。

するとすぐに着信が。


「はい、響ですけど」

『もしもし?響さん。飯田です』

「どうかしましたか?」

『いえ、メール見たんですけどね……というか女子メンバー全員目的地についてるんですけど、ほんとにここですか?とても1人2000円でどうにかなるとは』

「私も安すぎるって言ったんだけど……とりあえず事情説明するから入ってきて?」

『はい』


ベルが鳴ると恐る恐るの表情で入ってくる女子メンバー。


「あ、響さん。よかった間違ってなくて」

「ごめん早速なんだけど、今紫苑と尋がやってる机のセットを何人か手伝ってあげてくれる?それと、ウェイターさんとかいないから厨房に料理を取りに行くのを手伝ってもらうかもしれない。あとは……13時から17時までだけだから。30分前には片付けとか手伝ってもらうかも」

「わかりました。じゃあ、みんな私たちも準備を。片付けは男子たちにやらせましょう」

「お願いね。私はちょっと厨房に行ってくるから」


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