#A-02 第一次受験戦争(終結編)
静音の志望校は皇鍵学園大学という都内でもかなり大きな大学だ。
入るにはそれなりに学力が必要だが、静音ならば問題ないと奏は思っている。
そうして試験に向かった静音の帰りを音羽と二人で待つ。
父は仕事のため南米に、母はヨーロッパに向かったため不在。
父の方は愛娘の大事な時期なので家に居ようとしていたのだが、『父さんがいると仕事が増えるから』という静音の容赦ない言葉で一蹴され、泣く泣く仕事に向かった。
「おねーちゃんそろそろ帰って来るかな?」
「そうだね。一応、ご馳走は作ったんだけど」
「うん、ちょっと張り切り過ぎたね」
3人で食べるにはあまりにも過剰な量がテーブルに並ぶ。
そして、インターホンが鳴り来客を告げた。
「でも、ほら来たみたいだし」
「ほんとだ、どうぞ、入ってー!」
音羽がそう叫ぶと玄関が開く音がして、紫苑が入ってくる。
「すいません、少し遅れました。静音さんと姉さんまだですよね?」
「うん。少し前に出たって連絡あったけど」
「でも、合格発表なんだしおうちでお祝いしなくてもよかったの?」
「両親とも今日は仕事が抜けられないらしくて、その代り明日お祝いしようって」
「そうなんだ。うちと一緒だね」
「まあ、うちの場合は音羽もだから全部終わってからまとめてになると思うけど」
「二人とも忙しいからねー」
「あ、そうだ。ケーキ買って来たんですけど、冷蔵庫に入れてもらっていいですか?」
「うん、こっち持ってきて」
そんな風に話していると、表に車が止まる音がする。
「あれ?タクシーで帰ってきたのかな?」
「ごめん、音羽見てきて」
「わかった。お姉ちゃんと紫苑さんは料理のセッティングお願いね」
「皇鍵学園って遠かったですっけ?」
「電車で二駅ぐらいだと思うけど。駅は高校の近くだからそんなに大した距離じゃないし」
「おねーちゃん!帰ってきたよ。あとお皿2人分追加ね!」
「え?うん」
どたどたと部屋に入ってきた音羽に続き、静音、漸苑が入ってくる。
「あ、姉さん。合格おめでとう」
「おめでとうございます、2人とも」
「ありがと、2人とも」
「これは豪勢な料理だね」
「ちょっとまってね、何やってるの?入ってきたら?」
「いや、いいのか?」
「そんなとこに居たら寒いでしょ?」
「おじゃましまーす!」
「お邪魔する。すまない、急に押しかけて」
静音が呼ぶのに応えて部屋に入ってきたのは萌愛と燕真。
「車で送ってもらったんだって」
「そうなんだ。燕真さんも萌愛も座って、今料理温めたところだから」
「え?いや、すぐに帰るつもりだったんだが」
「えー?せっかくだだからご馳走になろうよ、お兄ちゃん。あ、お酒はダメだよ。車だから」
「しかし、萌愛を帰すのが遅くなると親父に文句を言われるしな」
「私が言い訳するから!」
「ごめん、紫苑。そこの棚からグラス二つ出してくれる?」
「はい、わかりました」
「ねーねー燕真、写真撮っていい?」
準備を進める奏と紫苑、それをにこにこ見つめる漸苑。
戸惑う燕真と楽しげな静音、そして2人にカメラを構えて迫る音羽とそれを見て笑う萌愛。
「か、構わないけど、どうする気だ?」
「お母さんに送ろうかなって」
「音羽」
「じょ、冗談だよ、うん」
静音の冷たい声に音羽が動揺し、カメラを下げる。
「そうだ。奏さん、シオンさん。私たちも写真撮りましょう!イーリスに送りたいんです」
「いいよ、ちょっと待ってね」
「せっかくだから姉さんたちも一緒に撮りましょう。奏さん、こっちのお皿はここでいいですか?」
「うん、完璧。えっと、写真撮るんだっけ?」
既に集まっているところに奏と紫苑が加わる。
「行きますよ……お兄ちゃんもっと笑って」
「無理だ」
「まあ、いいや。3,2,1……はい、オッケー」
「じゃ、乾杯しようか」
全員合わせて7人いるため座ればやや窮屈になるが、グラスにジュースを注ぎ奏が音頭を取る。
「じゃあ、姉さん、漸苑さん、合格おめでとう!」
「ありがと」
「ありがとう、みんな」
「えっと、かんぱーい?」
やや締まらない号令だったものの、用意されている料理は奏と音羽が朝から時間をかけて用意したものでかなりのクオリティ。
そこにこの面子なので、盛り上がらないわけもなく。
「姉さん、あとでケーキも買ってきてますから」
「ほんとに?」
「漸苑さん、クッキーとマドレーヌも焼きましたから」
「ありがとー、紫苑、奏ちゃん。うん、可愛い妹が2人いてお姉ちゃんもうれしい」
「あれ?私そっちに含まれてるの?」
「漸苑、私の妹取らないで」
「いいんじゃん、音羽ちゃんも奏ちゃんも私の妹みたいなものでしょ。そっちには燕真さんがいるじゃないか」
「そうだけど、それとこれとは別」
「おお、お兄ちゃん。どうしよう、想像はついてたけどお母さんの料理よりおいしい」
「それ絶対家では言うなよ。母さん泣くから」
「燕真は萌愛と2人兄妹?」
音羽の問い掛けに燕真が萌愛に料理を取ってやりながら答える。
「いや、あと1人妹がいる」
「香愛は私の一個下だから来年中3だね」
「へぇー……というかなんで燕真緊張してるの?」
「まあ、これだけ綺麗どころが集まって男一人だと緊張もするよね」
「そういえば紫苑、河田たちが卒業式終ったあと壮行会してくれるって言ってるんだけど」
「ああ、あれですか。最後に奏さんと静音さんの二人と一緒に遊びに行きたいだけですよ」
「私これでも彼氏いるんだけど」
「ええ、それ伝えたら凍り付いてましたけど、それでもって」
「男子メンバーを斬り捨てて女子だけで行こうかって飯田さんが言ってたよ」
「行くとしたらそっちね。3年生には私が声かけておいてあげる」
「じゃあ、河田君には悪いけど、そっちで進めようか」
「わかりました」
「あなたたちこっちでもそういう感じに落ち着いたのね」
「どういう感じですか?」
萌愛がこちらに顔を出す。
それに続いて音羽が口を挟む。
「今、奏お姉ちゃんが風紀委員長で、紫苑さんが副委員長やってるの」
「えー、なにそれ。いいなー。私も風紀委員入りたい」
「まあ、姉さんに無理やり継がされただけなんだけど」
「だんだん7番隊のメンバーが揃ってきてるね、なんか」
「そういえば、静音。この前、ショウゴとミツルにあったぞ」
「へぇ、どこで?」
「どこだったかな……買い物してたら突然声を掛けられてな」
「結構会えるものね。そろそろ遥人とか接触してきそうなものだけど」
「この前耀史から連絡はあったけど。なんか近いうちに会いに行くかもって」
「あー、そうなんだ。その時は私も呼んでね。おもしろそうだから」
「わかった」
少し遅い昼食会だったが、大いに盛り上がり、気付けばあっという間に3時を過ぎていた。
「あ、っと。そろそろ開いてるお皿とか片付けるね」
「手伝いますよカナデさん」
「私も手伝うよ」
「姉さんはお茶でも飲んでてください。主役なんですから」
「そうですよ。音羽、手伝って」
「おっけー」
音羽がやたらと積み上げた皿を超人的なバランス力で運んでいく。
「片付けが終わったらお暇しようか」
「えー……なんかここに住みたいかも。奏さんもいるし、静音さんもいるし」
「そんなに家遠くないだろう。また来させてもらえ」
「……わかった」
「漸苑も、帰るなら送るが」
「いや、私たちは今日泊めてもらう約束だから」
「いいなぁ……」
「明日学校ですけど、着替えも持ってきてるんで」
「私も夜通しおしゃべりとかしたいです」
「奏さん寝ちゃうと思うんでたぶん無理ですよ」
「そうだった」




