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女神の箱庭II =ツナガルセカイ=  作者: 山吹十波
序章 変わらない、いつもの世界
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#00-01 魔法のない世界

奏が目を醒ましたのは1月1日18時05分。

ほとんどログインした時刻と同じだった。ギアを頭からはずし、まず確認するのは姉と妹の安否である。


剣と魔法の世界にほんの数秒前までいたのだと思うと頭がおかしくなりそうだ。心なしか異世界で過ごしたここ数か月よりも体が重い。


「音羽!姉さん!」

「聞こえてるわよ」

「あーあ、帰ってきちゃったんだね」


ほとんど同時に2人がそれぞれの部屋から姿を現す。

今日の昼(・・・・)に見た姉の姿のままだ。間違いない。


「そういえば、ハルトからメール来てたよ。アカウントを一気に更新することになるからしばらくログインしないでほしいって」

「ほんとだ私の所にも来てる……って、電話?」


携帯電話を通話状態にする。

相手は、池内紫苑。


『か、奏さん。戻ってますよね?』

「うん、大丈夫だよ」

『よかったです。あ、姉さんが電話繋がらないって言ってるんですけど、静音さん通話中ですか?』

「うん。えっと――」

「大丈夫よ。こっちは全員無事。もし二人に何かあったら黄金(コガネ)財閥ぶっ潰してたわね……そっちは萌愛は無事?――え?まだ、連絡してない?」

「燕真さんと話してるみたい」

『わかりました、姉さん時間を置いた方がよさそうですよ』


えー?という漸苑の声が電話の向こうから聞こえる。


『奏さんの声を聞けて安心しました。他の皆さんに連絡を取る手段はないですが……大丈夫ですよね?』

「大丈夫だよ、きっと」

『ありがとうございます。また後日、姉さんと伺わせていただきますね』

「大歓迎だよ。しばらくゲームもできないからね」

『ふふ、ですね。それでは』


紫苑との通話を終える。音羽も静音もまだ話し中の様なので、カナデは一足先に一階へと降りる。

色々とあったおかげで手を付けていないお節料理があったはずだ。今日の夕飯はそれでいいとして、と考えながら階段を下っていると不意にインターホンが鳴った。


「はーい?」


直接ドアまで行った方が早かったので玄関を開き確認する。


「お、お母さん!?UAEかベラルーシかどこかの国にいたんじゃないの!?」

「あら、奏。ちゃんと手紙に書いてたでしょう?正月には頑張って帰るって」

「あれが読めると思ったの!?」

「あの、奏。お父さんもいるんだけどな」

「ああ、お父さんお帰りなさい」

「お父さんは偶然空港で拾ったのよ」

「律さん、その言い方はひどいと思うな」

「それよりも、静音と音羽は?」

「え、えっと、今二人は電話中で」

「ああ、新年のあいさつ?」

「そ、そうそれ!さあ、2人とも早く上がって。私は音羽と姉さん呼んでくるから」


2人を玄関に残したまま、奏は階段を駆け上がる。

姉と妹は先ほどの位置から動かずに電話をしていた。


「姉さん、音羽。お母さんとお父さん帰ってきたんだけど」

「え!?あ、ちょっとごめん。急用ができたみたい、あとでかけ直すわね」

「うそ!?ごめん、お母さん帰ってきたから一回切るね!」

「なんかあの読めない手紙に正月に帰るって書いてたらしいよ」

「せめて読める言語で送って欲しかったわ……じゃあ、夕飯にする?」

「えっと、私たちご飯食べずにログインしてたんだっけ?」

「なんかもう感覚がよくわかんないね」


3人そろって階段を下り、リビングへと入る。


「お帰りなさい、お母さん、お父さん」

「お帰り二人とも!お母さんはともかく、お父さん帰って来るって言ってたっけ?」

「二人とも何?寝てたの?寝癖ついてるけど」


母親には色々と聞きたいことがあるが、ここには父もいるので保留して食卓へと着く。

姉妹合作のお節料理のほかに、母がどこかで購入してきたらしい華やかな料理と父がどこかの国で買って来たらしい明るい色の菓子が並んでいる。


「うわ、お父さんこれ何?」

「アメリカで買って来たお菓子だけど」

「すごく体に悪そう……」

「だよね。父さんもそう思ったよ」

「じゃあ何で買ってくるのよ」

「さ、食べましょうか」


父の土産のチョイスに文句を言う奏と静音、マイペースな母、さらにマイペースな音羽は既に食べ始めている。


「なんかあんまり食欲ないかも」

「食後何時間たってるのかよくわからないものね」

「そう?私は全然いけるけど」

「3人で何話してるの?」

「「「いや、なんでもない」」」

「そう?あ、そういえば初詣には行った?」

「あ、私は行ったよ」

「私と音羽はまだ」

「そう、じゃあ明日みんなで行きましょうか」

「え、私も?」

「透さん、日本酒の買い置きなかったかしら?」

「料理酒しかないんじゃないかなぁ……買ってこようか?」

「無いなら別にいいわ」


家族全員が食卓に着いているこの現状は非常に珍しい。

あの日常から解放されてこれとは、何がどうなっているのかよくわからなくなって軽く混乱しそうだが、両親の声にやっと戻ってきたのだという実感がわき始める。


「あら、奏。全然食べてないけど大丈夫?」

「あ、うん。大丈夫。食べるから」

「そう。じゃあいいんだけど」

「……なんかお母さん絶好調だね」

「感覚的には一年ぶりだからかしら……」

「もう何が現実なのかわかんなくなりそうだよ」

「この二人も大概非常識だからね」

「お姉ちゃんたちがそれを言う?」


楽しく食事を終えた後、静音と共に片付けをし、ソファーに腰掛け通知が来ていたシオンからのメッセージに返事を返す。


「そういえば、結局のところ姉さんはいつから燕真と付き合ってるの?」

「え!?このタイミングでそれ聞くの!?」

「なんか普通に電話番号知ってたみたいだから」

「私も気になるー」


テレビの前に転がっていた音羽が起き上がる。

ちなみに今父は風呂で、母はコンビニに出ているため親に漏れる心配はない。


「オフ会で会った時にアドレスは交換してたから。付き合い出したのは最近よ」

「向こう行ってから?」

「その前からだと思うけど」

「なんで二人とも興味津々なのよ!?」

「何々何の話?」

「お姉ちゃんの彼氏の話―――はっ!?お母さん!?」

「いつの間に!?」

「へぇ……静音に彼氏ねぇ……」

「もう!二人のせいでややこしくなったじゃない!」

「私と奏お姉ちゃんはそういうのないから」

「うん。私は無関係」

「え、奏って紫苑と付き合ってるんじゃなかったの?」

「そうなの!?」

「奏も!?」

「ちょっと待って!?紫苑、女の子だよ!?」

「え、でもそう言われてみると二人の雰囲気はただの友達のそれじゃない気も……」

「奏、お母さんは別にいいと思うわよ」

「いや、親としては止めた方がいいんじゃ……」

「おー、何の話かな?お父さんも混ぜてほしいな」

「「ダメ!!」」

「……年頃の娘二人からの拒絶は来るものがあるなぁ」


半泣きの父を慰めながら、この話題は無かった事にしようと静音とアイコンタクトを取る奏。母はこらえながら笑っている。音羽には二人で威圧を飛ばして喋らないように抑えつけた。


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