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ラプソディー  作者: 遠夜
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乙女は逆境に強し

お暇潰しにどうぞ~。

命短し恋せよ乙女。


―――そして本当に私の命は短かった。






私が高校を卒業するのと同時に、母は長年望まれていた相手の家に後添いとして嫁いで行った。


実の父親は昔から放浪癖がある人でちょくちょく姿を消しては周囲を騒がせ、ついには私が小4の時に出ていったきり戻ることがなかった。


母が怒り狂ったのは言うまでもない。


それまで散々苦労を掛けさせられて愛想が尽きていたところに、この出来事。

せめて離婚届にハンコ押してから居なくなれ!と、それはもう怒髪天の勢いでありったけの罵詈雑言を吐き散らしたものだ。


そしてやっとの事で法律的に親の再婚が成立したのを機会に、私は一人立ちすることに決めた。

別に義父と不仲という訳じゃなく、二度目の春に浮かれまくった二人のテンションについて行けなかっただけの事なんだけど。


大学卒業までアパートの家賃を肩代わりしてもらう代わりに生活費はバイトで自力で稼ぐ事にして、ようやく新生活を始めた矢先の出来事だった。






「ねえ冬木さん、ちょっといいかしら」


大学校内で数人の女子に呼び止められた時、あんまり良い予感はしなかった。

普段全くと言っていいほど交友が無い相手で、しかも自分とはかなり人種タイプが違う。


外見も私生活も華やかで、望んで叶わない事なんか無さそうな肉食系お嬢様達。

『パンが無いならお菓子を食べれば良いのよ』とか本気で言いそうな感じ。


何の用だか知らないけどこっちはようやく軌道に乗り始めたカフェのバイトに遅刻寸前で、内心焦りまくっていた。


「あの、私今急いでるから手短にお願い」


するとお嬢様達は白けたように一瞬鼻で笑って、用件を切り出した。


「あなた最近―――先輩に付きまとってるみたいだけど、それやめてくれないかしら」


「いくら―――先輩が後輩の面倒見が良いからって、調子に乗るのはどうかと思うわぁ」


「図々しいにも程があるんじゃないの」


「…は?」


『―――(ほにゃらら)先輩』というのはバイト先で知り合ったやたら顔の良い人だ。

同じ大学だとは聞いてるけど学内で顔を合わせた事は一度もない。

そして自分的にはわりとどうでもいい。

それほど親しくもしていない相手について、何故牽制されなきゃいかんのか。


ちょっとばかしイラッときた私はハイハイとテキトーな返事をして会話を強制終了させるつもりだった。


くるりと踵を返すとお嬢様達の「待ちなさいよ!」というお怒りの声が追ってくる。

肩に誰かの手がかかり、振り向かせるようとしたのかグイと力がこめられた。


普通ならここで嫌味のひとつも応酬しあってお仕舞いのはず……なんだけど。

ちょっと場所が悪かった。


私達が言い合いをしていたのは階段の手前。


階段を下りかけていた自分は急に肩を掴まれてバランスを崩し―――――そのまま落下した。




私が覚えていられたのはそこまで。

















気が付いたら周りは真っ暗。おまけに何の音もしない。

こんな状態は生まれて初めてだ。

自分が階段から落ちたのは何となく覚えている。

もしかして私、打ち所が悪くて目や耳がおかしくなっちゃったの!?

大慌てでペタペタと身体に触れて確認しても、どこにも異常は―――……あった。


……………階段の天辺から転げ落ちて無傷ってあり得なくない?

結構な高さがあったでしょ、アレ。

骨が折れてないまでもタンコブや打撲くらいは負ってなきゃおかしくない?私どんだけ頑丈な女!?


「もしかして私……三途の川渡っちゃった?」


もしかしなくてもそうなのか。

そう思ったら途端に、悔しくて悔しくて涙が噴き出した。


「うわああああぁぁん!あんまりだー!!」


何もかもこれからだったのに!

灰色の青春に区切りを付けて、ようやく人並みなキャンパスライフを満喫する予定だったのに!!

恋愛はしたいけど男に頼り過ぎるとろくな事にならないから色々と資格を取って公務員試験を受けて、とかあれこれ将来設計も立ててたのに!!


おかーさん…先に死んじゃってごめんなさい。

華朱はねずは貴女の娘で幸せでした。


どちくしょおおおぉう!!!!


「あんのお嬢共っ……末代まで祟る!!」











暗闇に目が慣れてくると、ぼんやりとだけど周囲の様子が見えてくる。


ここがあの世かどうかは置いといて、ずっとこのままの状況が続くのはありがたくない。

自分が生きてるのか死んでるのかもいまいちよく分からない状態だけど、ちゃんと思考できる頭があって五体満足なら、とりあえず動かなければ何も始まらない。


( 深呼吸、深呼吸っと…… )


すーはーと呼吸を繰り返してふと気が付いた。


やけに自分の呼吸音が跳ね返る。

まるで狭い洞窟の中にいるみたいなこの感じ。さっきまでパニクってて気にする余裕も無かったんだけど。

しかも。


「―――ところどころ天井から…光りが…もれてる」


光りというにはあまりにかすかなそれ。

それでも今の自分は地獄に垂らされた蜘蛛の糸にすがる亡者の心境で。


「…っ。よし!」


ここよりましな環境がほかにあるなら、足掻いてみる価値はある。

死ぬまで(もう死んでるかもだけど!)こんな暗がりでメソメソしてるなんてヤダ。


どうにか自分を奮い立たせて立ち上がると手探りでソロソロと移動を試みる。


( …なんも見えん… )


ゴツゴツする地面の感触と岩壁の手触りから、やっぱりここが洞窟だと予想。

どこかに出口みたいなものがあるんじゃないかと期待する反面、真っ暗な足下にポカリと穴が開いていて飲み込まれてしまうような恐怖もぬぐえない。


( うぅ、やっぱり怖いよー… )


ぶるりと震えがきて立っていられなくなり、壁を背にズルズルと尻餅をついてしまう。


その拍子に自分の身体の下で何かがジャラリと音を立てた。


「なに…これ………鎖?」


手探りでもそれと分かる形は明らかな人工物。

しかも極太。


「!?!?!?」


……どーいうこと?


鎖の用途って…ナニかを繋いだり、ナニかを固定したり、ナニかをぐるぐる巻きに…したりするものだよね。

ゲームとかアニメの影響かもしれないけど、個人的なイメージとしては《牢獄》とか《奴隷》とかっていう単語しか思い浮かばないんだけど。


( 不穏だ… )


おかしな妄想で頭が暴走しかけたその時。


天井の割れ目とおぼしき箇所から突然強い光りが射し込んで、洞窟(?)の内部をザッと照らし出した。


「――――月明かり…」


それは暗闇に慣れた目には真昼のような明るさにも感じられる光りだった。


「いま外は夜なの?……そっか、月が割れ目の上に移動して来たから光りが届いたんだ…」



月明かりでようやく見渡す事が出来たその場所は、思いの外狭い空間だった。

まるで鳥籠みたいなドーム状で精々直径5~6メートルくらい。

そしてわずかにほっとしたのも束の間、月が移動してしまえば再び真っ暗闇になる事に気がついて、私は慌てて辺りを見回した。


「――――出口…出口はっ…!?」


じっくり調べるまでもなかった。

ぐるりと一度見渡せば全てが視界に入る広さだ。


「うそっ……どこにも無い…っ!そんな―――」


そんなはずは……だって人の手で作られた道具くさりがあったよ!?

どこかにきっと出入り口があるはず――――…。


そう考えて足下の鎖の先を視線で辿り、唐突にそれが視界に入った。




岩壁に打ち付けた鉄の杭に、鎖でがんじがらめにされ吊るされた人間ヒトらしきもの。


「いっ……いやあああ――――っ!!死体ぃぃっ――――!!死体イヤぁあああ!!!!」


ぎゃあああああああああ―――――――っ!!!!!!






「…悪いが死んでない」






なんか聞こえた!!!!


死んでない!?死んでないってゆった!?


「いや――――っ!空耳までえぇぇぇっ!!」


「…………………話を聞け、小娘」


小娘…小娘って。


「失礼な!!私は来年には成人予定の立派なレディよっ……死んじゃったかもだけど!!」


「…はぁ………喧しいわ…」


「なんですとー!!」


と、ここまで会話をしてハタと気付いた。


―――――その死体、死んでなくね?




たっぷり数十秒は溜めてから声が出た。


「…………………………あのー…どちらさまで…?」


すると死体(だった人)に呆れたような口調で逆に問い返された。


「それはこっちの台詞せりふだ……。お前どこから湧いて出た。――――ここは牢獄だぞ」




まさかのクリーンヒットでした。








































































































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