山
暖かい日差しの中で私は山に到着していた。緑生い茂る広大な景色は巨大な絨毯にも見える。土で汚れた車からテントを取り出して平らな地面に設置する。独りでの作業は厳しいものだったが小鳥の囀りに見守られながら行ったのでやりがいのある物になった。昼は事前に持ち込んでおいた握り飯を喰らい、水筒の中身を飲み干した。ゆっくりと流れる雲を眺めながら食事をする。これ程までに贅沢な物がこの世に存在している筈が無い。私は人の居ない世界で孤独を楽しんでいるのだ。
此処からが問題なのだが、食糧が無い。自給自足に憧れていた為当たり前なのだ。取り敢えず動いて川を探すことにする。釣具だけは用意してあるからな。序に薪も拾い集めておこう。純粋な気持ちで楽しむ子供のように私は小さな冒険に挑む事になった。
坂道を歩いて数分後、優しい流れの音が聞こえてきた。近付いているのだろう。底の見える透明な川に飛び込む私を想像していると足が軽くなる気がしてならない。待ちきれない私は勢い良く走り出した。
私の想像を遥かに上回る素晴らしい景色が広がっている。緑の絨毯を濡らし、光を反射する鏡の様な水は私の喉を潤してくれた。大きな淡水魚が泳ぎ続けている。今夜のメインは決定だ。ルアーを取り付けて撓る糸を投げ込んだ。
踊りだす魚達は面白い程釣れる。バケツの中が銀光する鱗の塊になった。意気揚々とテントへ戻る私の視界に窖が映った。底の見えない暗闇からは不気味な空気が感じられる。神秘的にも見られる到達地点にはきっと美しい自然の世界があるのだろう。ロープ等を拠点から持ってきて入ろうと私は考えた。
テントに戻った私は一通り必要な物と共に先程の窖を目指した。目印として気に傷を付けたので辿り着くことは容易だった。岩にロープをしっかり括りつけ、命綱を作る。懐中電灯を持って降りることにしよう。心踊る洞窟探索の始まりだ。位闇を照らす灯りを頼りに私は侵入した。
結論から言うと辿り着けなかった。底無しの窖が醸し出す暗黒の深淵は私を悍ましく包み込んだ。ゼリーを思わせるぷるぷるとした壁には偶に目玉の様な模様が描かれている気がする。落ちないように気を保ち、幻覚だと自らに言い聞かせるしか無かった。何者かの刺激臭を放つ吐息が私の目を眩ませた。思い切って下を覗く……何だ!あの尖いナイフを思わせる巨大な存在は!窖に潜む奴はナニモノだ!赤くて長いヌルヌルとした物が私を嘗める……