その少女は死地で微笑む
その少女は死地で微笑む
「わたし、今から告白をするね」
海辺で座りながら、彼女は僕に向かってそう微笑んだ。
「わたしは、もうとっくのとうに死んでいるの」
潮風でその長い煌く銀髪を揺らしながら、彼女は優しく笑う。
「あのね。実はわたし、いつか波になりたいなあ、って思ってたんだ」
とんでもないことをさらっと口に出した少女を僕は見た。
「……それって」
「貴方は生きている、わたしは死んでいる」
「……言ってることがわかんないんだけど」
あは、と少女はクスクス笑う。
「そんなの気にしなくていいの」
だって、そう小さく言って、彼女は空を指差した。
「貴方はここにいる。わたしはあそこにいるんだから」
***
思い返せば、僕はよく変な子に絡まれていた。
なぜだかは知らないけど、この前、海辺で一緒に過ごした子もそうだった。
クラスメイトの白浜さん――
『わたしはね、もうとっくのとうに死んでいるの』
いきなりなにを言う。僕にはわけがわからなかった。
「――?」
と、突然。ぼんやり授業を聞いていた僕の机に一枚の紙飛行機が飛んできた。
なんだろう、と思いながら開けてみると、
『今日も海辺に来てね。お話したいことがあるの。ちなみに今はまだ死んでいないんだからねっ! 白浜雪菜より』
なんでこんなものを送ってくるんだろう……
「僕たち席となりどうしなんだから、直接言えばいいじゃないか」
「ふふふっ……恥ずかしいからそんなこと、わたしは言えない。分かる?」
「…………そう」
……よくわからない子だ。
***
「そして、今日の話はどんな……?」
「あ、聞いてくれるんだ! 嬉しい!」
「そりゃ、ね。……で、どんな話?」
「はい、質問! わたしはどこに行ったのでしょう?」
いきなりそうやって話を振ってくるのか。
ていうか、どこって……昨日自分で言ってたじゃないか。
「あそこ」
「――変態っ」
「なっ、違っ!」
もう自分でも何を言ってるのか、わからなくなってしまった。
波打つ音を耳にしながら、気持ちをどうにかして落ち着かせる。
「昨日自分で言ってたじゃないか、空だよ、空」
そう答えると白浜さんは首を振った。
「違う。波だよ、波。わたし、波になりたいなあ、って言ってたの覚えてるかな?」
「……覚えてるけど」
「あは、よかった」
足をジタバタさせ、嬉しそうに目を細める無垢な少女。
「でも、ごめん。それ嘘だから」
「はい?」
「それ、全部、嘘だから」
可愛らしくウィンクを送ってくるが、やはり僕はその言葉を理解できない。
「つまりは……、」
「――貴方、昨日誰に喋ったの?」
「君だよ、白浜雪菜」
目を輝かせ、白浜さんは頷いてみせた。
「ううん、違うね。それ、わたしのお姉ちゃんなのかも」
それを聞いた瞬間、僕は無言になることしかできなかった。
***
次の日、僕はまた白浜雪菜と海辺で座っていた。
夕焼けの中、大きな太陽が水に反射する。
「君は誰?」
僕はそう訊いた。
「白浜雪菜だよ」
彼女はそう答えた。
「本当に白浜雪菜なのか?」
僕は念を押して同じ質問をもう一度口にした。
「お姉ちゃんなんていないから、私は正真正銘の白浜雪菜だよ」
そうして彼女は立ち上がると。
「ううん、違う。――嘘つき雪菜、なのかも」
ということは……、
「いままで言ったことには二つ、嘘が混ざっているんだ」
『もう死んでいる』とか、か。
「あはっ、わたしね、正直者な貴方と話せて楽しかったよ」
「それは……どうも」
「でもね。嘘つきなわたしから最後に一つだけ言わせて」
そう呟き、銀髪を揺らしながら立ち上がると、彼女は僕の方を向いた。
「わたしの死地。ここに決めたの」
ふんわりと微笑んで見せた、嘘つき少女。
だけど僕にとって、彼女は――少しの正直者にも見えた。
この作品は半年にも及ぶ長いスランプを脱するために書きました。
勢いに任せて書いたため、かなりグチャグチャになっているとは思いますが、読んで頂けたら幸いです。