「六章・神の居城」
その男、カシス・ミリキュアールが住む場所は
人の眼からみれば、贅沢の粋を極めた、
しかし同種の眼からみれば、技術力を誇示した建造物で溢れていた。
黄金の庭園、ダイヤモンドの外壁をもつ巨大な城。
そこに行き交う、裸体の奴隷達。
太古の王族でもここまで酷くはないだろう、という行き過ぎた贅の数々。
黄金やダイヤモンドは、その量からみて、通常の製法ではなく、
原子変換技術で大量に量産されたものであることは容易に想像できる。
また、裸体の奴隷達も、外皮は人のそれに近いが大半は人造生命体だと思う。
何故って、それらの生命体が片手で軽々と持ち上げ運んでいる
巨大な黄金の固まりは10メートル四方を越えている。
これを支えることは、人体の構造からは不可能と言っていいだろう。
ここを見ただけでも、あの男が私より技術的に優れていることは認めざるを得ないし
向こうの目的もそれを知らしめるためであろう。
「こちらでございます。どうぞ足下にお気をつけて。」
私を案内しているのは、そこらをうろついている馬鹿力の人造生命体ではなく、
普通の人間のようだ。なぜあの男に従っているのかはわからない。
力ずくで強要されているかもしれないし、打算的に取り入っているだけかもしれない。
他にもちらほらと、人造生命体の中に普通の人が紛れているようでもある。
「ねぇ、ここには何人ぐらい、あなたみたいな普通の人がいるの?」
私はそれともなく聞いてみた。
あの男がどれぐらいの規模で人を囲っているかも気になる所ではある。
「申し訳ありません。主の許可なく問いに答えることはできません。」
しかも従順。あの男、どこまでなにやってるんだか・・・。
そこからは会話もなく、やがて城の入り口がみえてくる。
「ここでお待ちください。まもなく主が参りますので。」
外でお出迎えとは・・・。友好的でないことだけは確かなようだけど
はてさて・・・どう出てくるのやらのやら。
そこから待つこと数十分。って、完全になめられてるし・・・。
ようやくあいた門からは、あの空に映し出されていたふてぶてしい男が、
相も変わらないふてぶてしさで近づいてきた。
「お、なんだ。
人に突き出されて連れてこられたっていうから
眼の色でも無理矢理かえさせられた、哀れな生け贄かと思ったんだがな。」
そういえば、さっき私を案内した人も、眼にかすかな赤みがかかっていたような・・・。
無理矢理かえさせられた・・・か・・・。今の状況ならあり得なくはないし
あの男に惹かれてここにいる、とか言われるよりは納得できる話ではある。
「私も、映像に出てた男が、あまりにも品がない奴だったから
きっと、無理矢理言うこと聞かされてる人なんだろうなって
同情してたぐらいなの。まさか、本人だとは思わなかったわ。」
言葉にトゲがあるのは、わざとだ。でも品がないと思ったのは本当。
「がっはっはっは!
おまえ、粋がっているが、わかってるんじゃないのか?
俺とおまえの年の差は、少なく見ても5年はあいてるぜ?」
くっ・・・・5年とかどんだけサバ呼んでるのよ、このオヤジ!
でも挑発にはのらない。ここでうっかり10年以上はどうみても差があるでしょ!?
とかいって、無駄に力の差があることを教えてやる必要はない。
「頭の使い方を、あなたが知っているとは思えないんだけど。
500年ぐらいは差がないと、負ける気はしないわね。」
トゲがあるのは、わざとだけど、無理に言葉を考えなくてもスラスラでてくる。
ただ、挑発しているものの、男の顔は相変わらず余裕のままだ。
私に負けるわけがない、と確信しているのだろう。
「500年とは、えらく大きくでたじゃねぇか・・・?
なら、その頭の使い方とやらを教えてもらおうかね!」
男はそういって、私に向かって攻撃をしかけてきた。
ここは、負けられない。私はあの男に隷属する気はない。
私は・・・私は諦めないと、約束したのだから。あの時あの場所で。