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「五章・決別」

私とフィルは、ちょっと大きな声では言えない相談をする時、

決まって生誕の儀を行ったあの場所に集まって話をする。


あの場所が、私たちをつなぐ唯一の絆でもあるし

私が人の世界に縛られているただ一つの楔でもあるかもしれない。


日はやや傾き、かすかに赤みをましてきた。

夕日と呼ぶにはまだ早い、そんな淡い赤に照らされ

フィル・ティンクルという男が石碑の前で立っていた。


「さて、どうしたものだろうな。」


私の顔をしばらく眺めて、フィルはそうつぶやいた。

何が、というのは聞くまでもない。

彼は、カラーコンタクトを外した私の眼の色を知っているのだから・・・。


フィルは私と目を合わさずに話し続ける。

私と視線を合わせるのを避けているだけなのか、

私の眼の色を見ないようにしているのか・・・・。


「もう、5人から相談を受けた。

 みんなそんなにはっきりと覚えているわけでもないし、

 ちゃんと見たって奴は一人もいない。

 でも、確認しておいた方がいいんじゃないの?って奴さ。」


人前ではカラーコンタクトを外さないようにしていても、

ふとした時に見えてしまうことはある。それを思い出した者が、

だからといって直接聞く勇気もなく、守護者であるフィルの所に

相談にきているってわけだ。


「それで、青年団を代表してフィルさんが

 お姫様にお伺いをたてに来た、ってわけだ。」


私は軽く冗談めいて、そう答えた。

自分で言っておいて、なんだろう・・・・心が痛い。


「一応、俺も覚えてないってことにしてるし、

 まぁ確認したって事実は必要なんだよ。

 とはいえ、俺だって、いつまでごまかせるかわからないしな・・・。」


ごまかす・・・・その言葉が私の心を傷つける。

彼にそんなつもりはないのは分かっているのだけど。


「別に・・・・ごまかす必要なんて、ないんじゃないの。」


「そういうわけにいかないだろ・・・。

 おまえの眼のことが知れたら、あの変な男に連れて行かれるわけだぜ?

 あんな男の所へ行ったら、何されるかわかったもんじゃない。」


「そうかしら。割と想像はつくけど。」


私でも、同じことをする。同じことを考える。

私たちにとっては、同種こそが、最も懸念される問題。


「フィル、あなたはどうしたいの?」


私はカラーコンタクトを外し、あの男と同じ色の眼で

フィルをまっすぐ見つめる。


「この眼をもつ者をさしだせば、あの男はこの世界で

 人を支配するために必要な、兵器や物資を用意してくれるはず。

 それを使って、フィル。あなたはこの世界の新しい王になることもできる。」


今まで眼をそらしていたフィルが、私を・・・紅い眼を見つめ返す。


「システィナ!俺は何もそんなつもりで言ってるわけじゃない!」


「でも、あなたが言ったことよ、フィル。

 いつまでごまかせるかわからない、と。

 やがて、誰かに見つかりあの男に引き合わされるのなら・・・・。

 それはフィル。あなたの手で行ってほしい。それが私の望み。」


カラーコンタクトで覆われた脆いごまかし。

そんなものは、すぐにあばかれる。

覚悟を決める時がきたのだと思う。


「簡単に諦めるなよ!もっと考えればなにかあるはずだ!

 それに、俺の所に相談にきてる奴らだって、別にシスティナを売り渡そうなんて

 考えてるわけじゃないさ。逆に心配して声かけてくれてるわけで・・・。」


あきらめ・・・というのかしら。

これはもう、結果の決まってしまっているゲーム。

世界は秩序をもとめ、その秩序は紅い眼という生け贄によって得ることができる。

大気映写によって、そう宣伝されてしまった今となっては・・・。


「フィル、これはあきらめ、とかそういう問題じゃないの。

 噂には聞いているでしょう。難民、飢餓、貧困、犯罪。

 この世界がいまどういう状況にあるのか。」


「それがいったい今の話となんの関係があるんだよ!」


「フィル、世界は・・・人は統治者を求めているの。

 誰かが世界を統治し、秩序をもたらさなければ、人の世界は終わってしまう。

 それが、例え、偽りの神によってもたらされる汚れた力であったとしても・・・。

 それによって、世界が救われるのであれば、それをなさねばならないわ。」


「だ、だからって、おまえをあの男に差し出せっていうのかよ!」


「そうね、でもどうせなら、私はあなたにお願いしたい。」


「っ・・・・・!

 なんで・・・なんで・・・!!」


「もう一度聞くわね、フィル。

 あなたはどうしたいの?」


「おれは・・・・おれはっ!」


私は、黙ってフィルの言葉を聞く。

彼の意志で、世界を混乱から救ってほしい。

そうすれば、私は安心して、あの男と対峙することができる。

かなわないまでも、そう・・・あきらめることなく。


「おれは・・・・おれは・・・・おまえの守護者だ。

 おれは・・・おまえを守りたい・・・。

 守れる・・・守れる力が・・・ほしい・・・。」


「そう・・・そういう考え方もあるわね。

 私をまもるための力、手にはいると思うわ。」


「でも・・・でもそれじゃ、矛盾してる!

 おまえを守りたいのに・・・その逆のことをしないといけない!」


あの男が人に分け与える兵器や物資などでは、到底あの男自身を

うち倒すまでのものにはならないだろう。

でも、あの男から私を守る手助けにはなるかもしれない。

私とあの男の致命的な差をわずかでも埋めてくれるかもしれない。


「あなたが力を持たないまま、私があの男の前に連れ去られたなら、

 私はきっと、諦めてしまう。あぁもう助からないのだと・・・。

 でも、あなたが、力をもち、私を守ると誓ってくれるのなら。

 私は諦めることなく、それを待つことができる。

 わずかであっても、その望みを糧とすることができる。」


「システィナ・・・・おれは・・・おれは・・・・」


「フィル、汝、守護者としていかなる時もその身をつくして

 万難を排し、我が身を守り抜くことを誓いますか?」


私は石碑に手を当て、つい先日の儀式と同じ言葉を繰り返す。

フィルは、ゆっくりと石碑に手をあて、彼もまた同じ言葉を繰り返す。


「我、汝を守る盾となることを誓い、守護の力を授かり賜う。」


そうして、私たち二人だけの守護の儀式は幕を閉じた。


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