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「四章・無秩序という支配」

たった一日で瞬きするまもなく終わってしまった、世界中の制圧劇。

制圧対象となった所は場所によっては草木一本残らず灰となり

完膚無きまでに叩きのめされた。


人をゴミのように扱った、この制圧劇は、各地で激しい反発をよんだ。

世界中で神を名乗る男に対して、暴動が巻き起こり、

わずか一週間後には、世界中の反発組織が決起する、世界暴動が勃発した。


しかし、その暴動は1時間もかからずに鎮圧されることになる。

神の名乗る男が造った自走型戦闘兵器は圧倒的な性能をもって

暴動に参加した人々を次々に惨殺していった。


トルトナ村からは暴動への参加者はでなかったが

隣町や、そこに逃げ込んでいた難民の多くは、暴動に参加し、帰らぬ人となった。


この世界暴動は、人では神には傷一つつけられない。

神に逆らっても、死以外は何も残らない。そういう絶望を人々に植え付けた。

これより、以降、まさに地獄と言うべき混沌の時代が始まった。


自らを神と名乗った、カシス・ミリキュアールは、

神の眼と称する監視用の自律型ポッドを世界中に配備して

人の神への反抗を監視しているが、人の生活や、人同士の問題に関しては何も行わなかった。

旧体制の軍事施設、政治機関は全て破壊され、関係者もほとんどが惨殺されたため

実質、今の世界は無政府状態のまま、何十億という人が生活していることとなる。

治安はみるみる低下し、戦火による食料不足から残された食料を人同士が奪い合う時代へと移り変わった。


トルトナ村自体は昔から自給自足で生活しており、戦場とも離れていたため、しばらくは戦火の影響もなかった。

しかし隣町には首都からの難民が多く溢れて日々食料不足で苦しんでいる。

彼らの一部が徒党を組んでトルトナ村へ食料を奪おうとすることが次第に増えてくるようになる。

大抵は自警団がみつけ対処してきたが、数が多く相手が武器を持ち始めてからは

村人の中に怪我人もでてきたため、村で今後のことについて話し合いがなされた。


「あいつら、日に日に凶暴になってきやがる!

 このままじゃ村の食料はあいつらに強奪されちまうよ!」


「とは言え、彼らも悪しき神による被害者だからな・・・。

 隣町の食糧不足もかなり深刻だと聞くし、村の余っている物資は

 分けてあげるとかして、話し合いで解決できないかな?」


「甘い甘い、物資なんて渡したらつけあがるだけだ!

 倉庫がからっぽになるまで絞られるよ!

 隣町には難民がどれだけ流れてきてると思っているんだ!」


村の会議には、村長はじめ、村の有権者達、自警団のリーダー格が参加している。

私は、一応村で一番の博識、ということでこういう場には決まって参加させられる。


「なんで・・・なんでこうなんだ・・・。

 人同士が争ってる場合じゃないのに・・・。」


フィルは悲しそうに眼を背けている。

私はあの男と同類だからなのか、人が死に、神と名乗る者に蹂躙され、

行き場のなくなった怒りで自ら争い合ってる姿をみても、特に何かを感じることはなかった。

ただ、人とはそういうものではないのか、と思うだけだ。

でも、何故かフィルの悲しそうな眼をみていると、私も少し悲しかった。


「ま、またあの映像だ!

 空に人が!!」


外で見回りにたっていた村人が空を見上げて叫んでいた。

その声をきいて、皆顔を見合わせ、外へと飛び出して大空を見上げる。

そこにはこの世界が制圧された時と同じ、

大気映写技術を用いて、神を名乗るあの男が、鮮やかに映し出されていた。


「ここ最近、反乱もなくなり、そろそろ私に逆らっても無駄だということが

 無知な君たちにも理解できたようで、うれしく思っている。」


まぁなんというか、私はそんなことを言うために

10秒投影するだけでも、この村1つ買えるぐらいの手間がかかる

大気映写技術を使う、この男の行動にあきれていた。

しかも、いちいち身振り手振りが大きい、オーバーアクションな所がある。

この男、まるで遊びでやっているようにも見える。


私にとってはあきれる材料以外にはなりそうになかったが

普通の人の感情をあおるには十分だったようだ。


「あのやろう、何様のつもりだよ!えらそうに・・・。」


偉そうと言うのには賛成だが、彼が何様かと言えば、

この世界の支配者様なわけで、それに関してはどうしようもない事実である。

その支配者が、ようやく本来の目的を告げた。


「そんな物わかりのいい君たちに、1つ提案だ。

 私は君たち人間には興味がないが、紅い眼をもつ者には興味を持っている。

 そう、この私と同じ深い紅色だ。」


そういって空に映し出された男は自分の眼を指さした。

大気の色に混じっても、それとわかる、深い紅色をした目がこちらを見据えている。


その瞬間、私は思わず自分の眼に手をあててしまった。

特異な所を少しでも減らそうと、カラーコンタクトを絶えずつけていたため

紅い眼と聞いても、私の方を振り向く者はいないのだが・・・。


「この紅い眼をもつ者を、私に差し出せば

 その者には、いくつかの特権を授けてやろう。

 人が人を支配するためには必要なもので、私には不要なものだ。」


世界を無秩序に陥れ、秩序をエサに人の協力を取り付ける、か。


「あぁ、そうだな・・・。

 私に憎しみを持つ者は、あいつには渡すまい、と

 紅い眼を持つ者を殺してしまうかもしれないな。

 だが、私はそれでも一向にかまわない。

 人に殺される程度のものには興味はないので、な。」


普通の人間は、殺意をもった同族から完全に自分を守りきることはできない。

にも関わらず人に殺される程度、と言い切るということは、つまり

紅い眼を持つ者が、自分と同じ能力者である、とあの男は考えているのだろう。

確かに私やあの男であれば、人程度に殺される、といったことはありえない。


ただ、私はこの異能が色素にどのような影響を及ぼすかは、わかってはいない。

色素が抜けやすい、ということはありそうだが、そこまでだ。

だが、あの男はどうも確信しているようでもある。


「・・・システィナ、ちょっと話がある。」


気がつくと隣にいたフィルが耳元でそっとささやく。

まぁ今の話を聞いたら無理もない、か・・・。


「わかった、いつもの場所にいて。後で行くわ。」


それを聞くと、フィルは軽くうなずいてその場を離れて行く。

空にはあの忌々しい男の姿はもうなく、透き通るような青い空が広がっている。

私の心は、もうこの空のような晴れ晴れとした気持ちになることはないかもしれない。

先ほど、私に声をかけた時の思い詰めた顔のフィルを思い出して、そう感じた。

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