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「二章・カケモチ」

「システィナ、頼まれてた石、集めてきたぞ」


窓の外をみると、フィルが牛車の荷台一杯に積んだ鉱石を指さし

フィルがこちらを見ててを振っていた。


「ありがとう、こういうこと、フィルにしか頼めないから助かるわ。

 いつもごめんなさいね。」


合成物質を作る時に必要になる原料は、フィルにお願いして集めてもらうことが多い。

それなりに、使える鉱石を集める目利きができる者は村に多くないので

そういう意味でも、フィルは私にとってなくてはならない人間となっている。


「まぁいってことよ。これ、いつも場所に置いとくぜ?」


「えぇ、お願い。後頼まれてたお薬、戸棚の所に置いてあるから。」


「おー助かるよー」


私は、様々な道具を作るために必要な材料を集めてもらう代わりに、

ちょっとした、薬をつくって、村の人に処方している。

技術水準を超えない範囲の薬しか作らないが

時たま、秘薬と称して3世代ぐらいは先の妙薬を処方することもある。

原料の収集は欠かせないので、このぐらいの謝礼はしかるべきとは思う。


「システィナはほんっと~に、家にこもりっぱなしだよなー。

 これじゃ、また来年も俺が守護者になりそうだよ・・・。」


荷物を運びおえたフィルが、玄関先に腰掛けて

汗を拭いながら話しかけてくる。狭いこの家では残念なことに

玄関から私の部屋が丸見えになってしまう。


「成人の儀までは、フィルにお願いっていってるじゃない。

 まだまだ私は勉強しないといけないことが、山ほどあるから、

 守護者を見つける時間は当分とれそうもないのよ。」


「システィナは、頭いいからなー。

 でも、成人の儀までっていっても、守護者なんてすぐ見つかるもんじゃないぜ?

 早いうちから色々な人と出会ってだなぁ・・・。」


「そうね・・・。でも、守護者を見つけることばかりが人生じゃないでしょ?」


「それはそうだけど、おまえ・・・。

 なぁ、もしかして、村をでるつもりなのか?」


この村では守護者のいないものは、不幸を招く存在とされるため

守護者を持たない者を村は認めていない。

守護者をかけもちさせてでも、そういう者をださないようにしている。

ただ、成人の儀を過ぎてしまうと、なかなか”カケモチ”というのも難しくなる。

婚姻関係の守護者とは別に、守護する者を持つことは

俗に言う、愛人のような関係と見られることもあるからだ。

そのため、成人まで守護者をみつけられず、”カケモチ”で凌いできた者は

やがて村に居づらくなり、村をでていくことが多い。


「うん・・・どうだろう、まだ決めてないんだけど・・・。」


この村でできることにも限りがある。

やがては、外へでていかなければならないだろう。


「システィナぐらい頭がよければ、街でもやっていけるのかもしれないけどさ・・・。

 でも、システィナは俺たちのお姫様だから・・・。やっぱり俺はこのまま村にいてほしいよ。」


「たぶん、私はこのままずっと守護者を決められないと思う。

 村の人がダメってわけじゃないけど、私にとって特別な人は見つからない気がするの。」


恐らく私は、ただの人間を、特別な存在として認めることはできないと思う。

自分の力に酔いしれた、くだらないエリート意識なのかもしれないけど。


「俺が見つかるまでずっと、守護者をしてやるからさ。気長に探せばいいよ。

 成人の儀がすぎたからって、すぐに村をでていくなんて、言わないでくれよ?」


「ばかっ・・・。そういうこと言ってると、ソニアに怒られるよ?」


ソニアっていうのは、フィルが親に決められて守護者になった、例の許嫁だ。


「ソニアだっておまえがいなくなるぐらいなら、

 俺が守護者になるって言っても賛成してくれるさ。」


私は研究の手をとめ部屋をでてフィルの隣にそっと座った。

あまり人には聞かれたくなかったのかもしれない。


「フィル、気持ちはとてもうれしいけど

 ソニアの前では、そういうこと言わないでね。」


「なんでだよ?」


フィルは私の顔をみて食いかかるように問いつめてくる。

私は態度を変えず、ただ前をみて静かに答える。


「女の子ってそういうものよ。

 今でも肩身が狭いのに、成人の儀をすぎても掛け持ちさせたら

 ソニアに合わせる顔がないわよ。」


「あのなぁ・・・そんなの気にするなよ。

 俺とおまえの仲じゃないか。言いたい奴には言わせておけばいいさ。」


「フィル・・・。ソニアの立場を考えてあげて、っていってるの。

 私は独り身だからどう蔑まされようとかまわないけれども

 あなたやソニアはそういう訳にはいかないでしょう?」


「システィナ・・・俺はおまえの力になりたいんだ。

 周りがどう言おうが関係ないんだよ。

 俺なりにおまえのためにできることをしてやりたい。」


「・・・ありがとう、フィル。

 でもね、そういう気持ちは、私にはもったいないの。

 その言葉はソニアにかけてあげて。彼女、そういうの喜ぶと思うわよ。」


人ではない、私には彼の好意を受け取ることすら・・・。


「あ、あのな!別に・・・別に、おれは、ソニアとは・・・。

 おれは・・・おれはソニアよりっ!」


「フィル!」


「っ・・・。」


勢いよく私の手をつかみ、”何か”を言いそうになったフィルを

私はあえて牽制し、言葉を途切れさせる。

フィルは、少し興奮しすぎている。


「フィル、この話はもうやめにしましょう。

 お薬、はやくお父様にもっていってあげて。」


「あ、あぁ・・・す、すまない・・・。」


最後にフィルは心底すまなそうに私にそう言い残し、

いつもの笑顔を少しだけ見せて、去っていった。


ソニアとの婚約について、彼があまり乗り気ではないのは知っている。

ソニアの親は村の有力者で、村の青年団で活躍しているフィルを

”娘に相応しい人物”と目をつけフィルの両親に話を持ちかけた。


ソニアの親に大きな借りのあるフィルの両親は、フィルの気持ちも聞かずに

二つ返事で承諾してしまった。今さら、この話を断ることはソニアの両親に

恥をかかすことになるし、フィルの両親の立つ瀬もない。

フィルとしては、乗り気じゃないが、断ることもできない、といった感じのようだ。


もし、フィルがソニアの守護者じゃなかったら・・・。

いや、よそう。もう過ぎたことを論じるのは意味がない。

フィルはソニアの婚約者で、私はただ、お情けで彼に守護者となってもらっているのだから。

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