「終章・人の尊厳」
「これからどうするの?」
フリオが、私たちに問い掛ける。
「そうね、人がいる所にはもう住めないし
どこか、誰も住んでいないような片田舎で
のんびりと暮らすことにするわ。」
「ふーん・・・。
ねぇ、僕も付いていっていい?」
フリオはそう、私に問い掛ける。
彼とも、ずいぶん仲良くなったし、最後の同種でもある。
「えぇ、もちろんいいわよ。」
「だってさ、フィルさんだっけ。
いつまでも、さっきのおねーさんのことばっかり考えてると
僕がシスティナ、もらっちゃうからね。」
フリオが、そういってフィルを挑発する。
フリオなりに、フィルを元気づけようとしてくれてるのだろう。
トルトナ村にいたころにはソニアがあんなに取り乱したのは
一度もみたことがなかった。
フィルも、それなりにショックだったのだとは思う。
私は、もう人の感情にはずいぶんと疎くなってしまったので
何も感じることはなかったのだけど、フィルはいろいろ思う所もあったのではないか。
「フィル。あなたはどうするの?
あなたは人間だし、私たちみたいに、隠れて暮らす必要は・・・。」
その言葉を言いきらないうちに、フィルは私の言葉をさえぎった。
「馬鹿!一緒にいくにきまってるだろ。
ソニアのことは、俺の中では最初から答えがでていたことだ。
もう、ふっきれてるよ。」
全然ふっきれてはなさそうだけど、彼がそういうなら、そうなのだろう。
「そう。じゃあ、私がフリオに乗り換えないように、
しっかりと、私をつなぎとめておいてくれる?」
「いっただろ、俺はおまえのこと、あきらめないってな。」
そうして、私たち三人は、人里離れた山奥でひっそりその生涯を全うした。
その後、人々は優れた才能をもつ神のクローンを大量に生み出し
彼らの優れた知識を利用するようになった。
技術水準は飛躍的に向上したが、それらの内容は人の理解を大きく超えており
人は何をするにも神を頼らなければならなかった。
それ故に人は社会で活躍することはなく、社会的な地位はどんどん低下していった。
やがて、種としての人は社会の底辺へと追いやられ、神の子孫らが世界を支配するようになった。
神との戦いに勝利し、人としての尊厳を取り戻したはずが、
その尊厳によって、人は自らより優れた神に、支配者の座を譲ることになったのである。




