「二十三章・選ばれなかった者」
クローン計画には2つの側面がある。
1つには、我々では扱えない脳波入力のデバイスを扱うため、
クローンの脳髄のみを使い、脳波出力デバイスとして利用する。
こちらは、結果を急ぐためにとった邪道で、
本来は神のクローンを育てて
人に味方する神を創り出そうとしたのだ。
ソニアは、そのクローンを10名程連れ出して
俺達の前に立ちはだかった。
クローン達はその歳が3歳程度であっても、すでに
我々の中でも一番知識があり、脳波レベルも高い。
神と呼ぶにはまだか弱いが、人としてならば、誰よりも優れている。
「フィル総帥、監禁中の神々をつれて、
どちらへ行かれるのかしら。」
ソニアの口調は今までにない冷たいものだった。
「まだ、おれを総帥と思っているのなら
ここは何も言わずに通して欲しいんだけどな。」
「あぁそうね・・・・。S級戦犯を脱走させたのだから
たとえ、総帥であっても、罪は罪。
この場で、総帥の座は解任ってことでいいかしら。」
システィナとフリオは、すんなり通してくれないとさとると
拘束具を外し戦闘の構えをとる。
先ほど、システィナに渡した簡易デバイスは、
目の前にいる幼いクローン達がつくりだした試作品だ。
当然、この10名のクローン達も同じものをもっている。
「リリア、みんなと協力して
あそこの三人を捕まえなさい。」
リリアと呼ばれたクローンの子供が、他の子供を引き連れて
こちらに向かってくる。女であるからシスティナのクローンであろう。
「やだやだ、子供の自分を相手にするなんて・・・。
まったく、なんだってこんなことになったのかしらね。」
システィナにしてみれば、目の前のクローンは
自分の子供の頃にうり二つなので、複雑な気分であろう。
「システィナ、僕も手伝おうか?」
「子供相手に、二人がかりとか大人げないからいいわ。」
フリオは確かにデバイスがないから、力にはなれないだろうが、
それにしても、一人で大丈夫だろうか・・・。
「おい、あいつらを子供と思って甘く見ない方が・・・。」
「最初に言ったでしょ。あの子がもってるデバイスなんて、
おもちゃみたいなものなのよ。」
システィナがそういうと、ソニアがクローン達をせかした。
「ほら、リリア!さっさとあの女をころしちゃいなさい!」
リリアがうなずき、システィナに向けてデバイスを向ける。
だが、それらは一向に反応しない。
あれ、どうしたんだ・・・・何故何も起きない・・・?
「その子が私のクローンっていう時点で、
もうあなた達に勝ち目はないのよ。
1つのデバイスに2つの同じ脳波が入力された場合、
より強い脳波の方が優先される。
つまりは大人と子供の違いって奴ね。わかって頂けたかしら?」
そういって、クローン達がもっているデバイスが
その持ち主自身を攻撃した。
「くっ・・・こんな・・・こんな!
また・・・またあなたに負けるなんて!」
ソニアは動かなくなったクローン達を前に泣き崩れる。
「システィナ、あなたさえ・・・・あなたさえ、いなければ・・・。
フィルはずっと、私のそばにいてくれたのに・・・・!
せっかくあの偽神に連れて行かれて、もう私だけのものになったと思ったのに・・・!」
システィナはそんなソニアを、嘲るでもなく、庇うでもなく、
ただ無表情にみつめていた。
「いきましょう、フィル。
人が集まってくるとやっかいだわ。」
「あ、あぁ・・・。」
システィナは、俺が返事をする頃にはもう歩き出していた。
俺とフリオが彼女の後に続く。
「ちぇっ、こんどはあんたの色恋沙汰に巻き込まれるなんてさ。
まったく、こっちは良い迷惑だよ。」
フリオが俺に聞こえるようにぼやいてくる。
俺とソニアは確かに婚約者ではあったが、親が決めたものだし
彼女もきっと迷惑がっているだろう、と勝手に思いこんでいた。
だが、彼女はそうではなかったようだ。
システィナが憎らしい程には、俺のことを思っていてくれたようだ。
彼女が俺を選んだように、俺はシスティナを選んだ。
ただ、それだけのこと。
それだけのことなのに・・・、俺の心は尖った針で突き刺されたように
激しく、鋭い痛みがまとわりついて離れなかった。




