「二十章・再会」
私はさっきから、微動だにしない最後の一人。
忌まわしきクローン兵器を身につけた人を見据え、訪ねる。
「あなた達をまとめていた、フィルという男に会いたい。
今、どこにいるのか教えてくれたら、あなたのことは見逃してあげる。」
目の前の人が答えるより先にカシスが怒鳴りあげる。
「システィナ!てめぇ、なにしてやがる!
こんなやつさっさと始末しろよ!」
「カシス、技術はまだまだあなたの方が上だけど、
今の戦いを見ていたら、私あなたに負ける気がしないんだけど?」
私が凍えるような紅い眼で、カシスをにらみつけてやると
カシスは少し、ひるんだ様子をみせる。
カシスがまだ何か言いたそうにしていると、目の前の人が答えた。
「俺だよ、システィナ。
こんな風になるとはおもっていなかったんだけどな。」
そういって、目の前の人はヘルメットを脱ぎさった。
そこにいたのは、紛れもないフィル・ティンクルその人だった。
私が忘れかけている、人の心を唯一つなぎとめてくれる存在。
「フィル、あなたに聞いておきたいことがあるの。」
フィルは黙っている。私はかまわずに問いかける。
「あなたが身につけているその出力デバイス。
それを操るためのクローン兵器。
それらはあなたの意志で、それは実現したものなの?」
「そうだ。俺の意志だ。
こんな手段をとることでしか、俺はおまえを救う力を手に入れられなかった。
これが汚れた、間違った手段であることはわかっていた、
でも・・・・それでも、俺はおまえをあきらめきれなかった!」
彼のまっすぐな眼は、昔と変わらず私を見据え、心を捕らえる。
あぁ、これが・・・私はこれが見たかったのか。
なんと単純なことか。
「おれと・・・俺と一緒にきて・・・くれるか?」
フィルの問いかけに、私は今身を委ねる。
これは逃げだったのかもしれない。
彼は、私を救うためにあの忌まわしき兵器をつくったという。
自分の欲望を満たすため、他者の尊厳を踏みにじり、利用する。
その程度の器の人間を長として、世界がうまくまわるわけがない。
人の幸せを望むべくあれば、今の方がまだ見せかけの幸せを享受できるであろう。
でも、これは理屈じゃない。
私は・・・私の存在は誰にも受け入れられないと思っていた。
この忌まわしき力が故に。
どこかでフィルも私のことを恐れているんじゃないか、そう思っていた。
でも、そうじゃない。私の力をしって、受け入れ必要としてくれる。
私が必要としていたのは、ただそれだけのことだった。
神の力をもってはいても、欲していたのは、ただそれだけのことだった。
「カシス、あなたはイヤな奴だったけど、
それほど嫌いじゃなかったわよ。」
私は今までの友にわかれをつげる。
嫌な奴とはいえ、世界で3人しかいない同種の一人。
もうあえないと思うと、少しさみしくもある。
「けっ、なんだよ、それは。
なんなんだよ・・・これは・・・。」
カシスの眼にはあきらめの色がみえた。
「俺は、これでもおまえのことを・・・・。
けっ、なんだよ。そんな優男のどこがいいんだか。」
私は出力デバイスを彼に向ける。
カシスはそれを見ても抵抗の構えすらしない。
この距離で私の速度で攻撃を放てば、カシスでは防ぎようがないだろう。
「カシス、お互いの歳がもっと近ければ
いい仲間になれたかもね。」
「いってろよ・・・・。
はぁ・・・・意外と早くおわっちまったな。
俺の祭りは。もっと派手にやっておくんだったぜ・・・。」
フィルの元に下るのなら、彼は生かしてはおけない。
私の神速は私の涙が流れ落ちるより早く、彼の命を奪い去った。
カシス・ミリキュアール。
世界で最初に神の力をもって生まれ、世界を支配した混沌の神。
その最後は、あっけなくも、潔いものであった。




