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「十八章・クローン兵器」

私の粛正以降、人はますますカシスに従順となった。

誰一人逆らう者もなく、彼をあがめるものすらでてくる程だ。


そう、ただ、1つの地区を除いて。


第20地区は強力な自警団と豊かな国力を背景に

神の支配下から完全に独立した国家へと発展していた。


カシスは、実際に反乱がおきるまでは何も動かない。

あきらかな敵対勢力となりつつあっても、人が反旗を翻すまで

武器を手に取り立ち向かうまでは、何もせずに傍観する。

それが、カシスなりの神の定義なのかもしれない。


私たちは神と名乗っていても、人が反乱をおこさなければ

ただ、黙々と自らの知識をたかめるため研究と思考を繰り返すことしかしない。


私は相変わらず戦いの研究を続け、フリオは脳波の研究に専念している。

カシスが何を研究しているのかはわからない。

私たち神が誕生する条件と、神を越える力の可能性を

探っているようだけど、実際にどこまで何をやっているのかはわからない。


これなら、何も人を支配しなくてもよかったのではないかと思う。

カシスは、カシスなりに考えがあるようだが、私にはわからない。


私が13地区を粛正してから3年の月日が流れた。

そんなある日、部屋に懐かしいカシスからの一方的な通信が入り

最上階に私とフリオが収集された。


「反乱だ。第20地区がとうとう反乱を起こした。」


部屋に入るなり、カシスは単刀直入にそうつげる。

また、私に粛正をさせようというのか。

しかし、その割に珍しくカシスの表情は真剣で余裕がない。


「ふーん・・・。ここ最近は静かになったと思ったんだけどね。

 で、カシスは誰に粛正させる気なのさ。」


あのころよりは少し、子供っぽさの抜けたフリオが、

冷めた口調でカシスに問いかける。


「今度は全員でいく。真剣にかからないと、俺ら全員殺されるぞ?」


カシスはいつになく真剣な表情で答えた。


「どうしたのさ。人相手にカミサマともあろう人が、

 いやに真剣じゃないか。」


カシスらしくないのは確かだ。今までは人の反乱を楽しんでさえいた。

それは、人には絶対にまけないという確信があったからだろう。

だが、いまはそれが失われている。

私ですらまだカシスとの差をうめられずにいる。

人がわずか3年でどれだけのものをなしえたのか、興味はある。


「奴らに、俺の武器がいくつか盗られている。

 それらを使われて攻めてこられたら、ちょっとやばいかもしれねぇ。」


カシスの武器を盗る・・・?あぁそういう発想はなかったわね。

私たち異能の者は、みな脳波をつかってデバイスを操る。

でも、その脳波というのは十人十色。それなりに似ている所はあっても

やはり細かなデバイスの制御をするためには、違いが大きすぎると言わざるを得ない。

つまり、私ではカシスの武器は操れないし、その逆もまたしかり。


脳波ってのはそうそう変えられるものでもないし、私はあきらめていた。

でも、それは人も同じ。というより、脳波の微弱な人にはとても

デバイス制御に必要な出力はだせないと思うのだけれど・・・。


「武器を奪われたって、脳波パターンがあわなきゃただのガラクタだろ?

 それに、人の脳波で操れるわけないじゃん。」


フリオが私も思った疑問を口にする。


「クローンだよ、クローン。

 あいつら、俺様のクローンをつくりやがった。

 同一体なら脳波がほとんど一致するから、俺のデバイスなら簡単に扱えるんだよ。」


クローン?対抗の手段としてその可能性は考えたけれど、

実用化するにはまだはやいと思う。

神の存在を気づいたのが3年前。そこから培養したとしても、

たった3年で戦力となるまでには育たないんじゃ・・・。


「あぁ、クローンから脳波だけを抽出するようにしたのか。

 うへ・・・・よくやるね、そんなこと。」


フリオが苦々しい顔をした。脳波を抽出・・・。

つまり、生後まもないクローンから脳髄を摘出して

脳波を発生させるためだけの機械として、生かさず殺さず利用する、ということだろう。


常識では考えられない非人道的な兵器。

それを第20地区・・・フィルの地区でつくられた・・・。

・・・・いや、私が彼らを非難することはできない。

私たちこそが、彼らに耐え難い恐怖をあたえ、そこまで追いつめたのだから。


「わかったら、おまえらもとっとと準備しろ。

 いいか、俺様の放送では、世界を支配しているのは

 俺ら3人ってことで人間達に植え付けてるんだ。

 今更、裏切ったって、人間共は受け入れちゃくれねーからな。」


カシスはよほど追いつめられているのだろう。

彼にとって予想外の事態に余裕を完全になくしているようだ。


「ちぇっ・・・カシスのへまの尻ぬぐいじゃないか。

 武器をとられるなんて、間抜けすぎるんだよ。」


フリオがカシスに聞こえないよう小声でつぶやきながら部屋に戻っていた。

私も自室に戻り、準備をしよう。

カシスを裏切るのはいつでもできる。その前にフィルにあっておきたい。

この非人道的な兵器を、彼がどういう気持ちで生み出したのか。


もし、この兵器を平然と生み出せる者が支配者になるのであれば、

それは、カシスが支配していた頃よりも、なお恐ろしいことだ。

人が人を支配すれば良い、とは思わない。

人であっても、神であっても、そこに恐怖のない世界がきてほしい。


フィルとの約束を誓ったはずなのに、私の心には、迷いが生まれていた。

私があきらめたくなかったのは、なんだったのだろう。

今はその答えが見えなくなってしまった。

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