「十四章・盟友」
応接室の二人がけのテーブルに私とフリオと名乗る少年は並んで座り、
長い間、お互いの身の上を話し合った。
お互い似たような境遇で育っていたため、話しやすかったのかもしれない。
1時間近くは話し込んでいたと思う。
「あぁそうだ。システィナのことを教えてくれた男の人が
俺はあきらめていないって伝えてくれってさ。
確か・・・えっと、フィルって人だったと思う。」
フィルがフリオのいたあの村にいたのは知っていた。
私は見えなかったが、フリオのいる村の映像をみながら
カシスがフィルの名前をわざわざ呼んでいたからだ。
当然、あのオヤジは、私を引き渡したのがフィルだと知っていて、
わざと私にその名前を聞かせて、反応を見ようとしているんだけど。
「そう、フィルがそんなことを・・・。
よかった、私も・・・まだ、諦めてないから。」
フリオが不思議そうな顔で訪ねてきた。
「ねぇ、そのあきらめてないって何なの?
何をあきらめないの?」
「決まってるじゃない。あの男から解放されること、よ。
これから一生、あのヒゲ面みないといけないかと思うと、うんざりだもの。」
カシスは、正直あごひげがやばい。
「でもさ・・・あいつには勝てないよ・・・。
あいつ、たぶん歳は30越えてるよ。僕なんか倍以上違うんだ。
システィナだって、10年は差があいてるだろ?
僕とシスティナの歳を足したって、あいつに負けてるんだ。
どうやったって、勝てっこないとおもうな・・・。」
フリオは少しいじけた調子でそう答える。
異能を持つとはいえ、まだ小さな子をこんな目にあわせるのは
正直、あまり気持ちのいいものではないわね。
「何も、技術や知識で勝とうっていってるんじゃないわ。
それに戦いは何も持っている武器の強さだけで決まるわけじゃないわ。
いかに戦うか、という作戦が大事ってことね。
それに当面の目的は勝つことじゃなくて、負けないこと、だしね。」
「勝てないのなら、負けてるってことじゃないの?
勝てないのに負けない、って意味が分からないよ。」
「ふふっ、そうかな。例えば世界中の人間達。
彼らは絶対にカシスには勝つことができない。
でも、負けないようにみんな必死でがんばっている。
人ってそういう所は、本当にすごいって思うわ。
私たちよりも遙かに強い心を持っているかもしれない。」
「そうかな・・・僕は普通の人間よりは強いつもりだけど。」
子供って、こういう所、素直じゃないのよねー。
「あらあら、さっきここで泣いていたのは
どこの誰だったかしら・・・?」
私が意地悪くいってやると、フリオは少しすねてしまう。
「もーそのことは忘れてよ!
システィナ、いじわるだよ!」
「ふふっ、ごめんごめん。」
そんな感じでじゃれあってると、ドアの向こうからノックが聞こえてくる。
あっ、リーナが部屋の外で待っていたんだっけ・・・。
「お話中に申し訳ありません。
そろそろ夕食のお時間ですが、どちらでお召し上がりになりますか?」
「じゃあ、私の部屋に運んでおいてちょうだい。
フリオの分と二人分ね。ちょっとまだ話しておきたいことがあるから。」
「かしこまりました。主にもそのように伝えておきます。」
そういって、リーナは深々とお辞儀をしてその場を後にした。
「ねぇ、これからどうする?
さっそくあのオヤジの対抗作戦でもたてる?」
「そうね・・・最初の作戦は、おいしいご飯を食べてお風呂にはいること、かな。」
「もー!僕はまじめにきいてるのに!」
そういってふくれるフリオ。本当にこうしてみると、ただの子供にみえる。
「フリオ。覚えておきなさい。
この城で話していることは、全てカシスには筒抜けなのよ。
だから、これ以上はナイショ。」
「えっ、い、今まで話していたことも全部・・・?」
「そう、全部。あのオヤジ、意外とめざといのよ?」
遠くから、あのオヤジの舌打ちが聞こえた気がした。




