「序章・回想」
私にとって、最も幸いだったのは、その異能を気づかれることなく
自我に目覚めたことだと思う。
私という存在を自分で認識できるようになった時、私が生まれてから
すでに2年の月日が流れていたようだった。この2年の間に、
私はこの世界の理の多くを理解していた。
そして、私自身が持つ性質と、"人"という生き物の性質を比較することで
如何に自分が人とはかけ離れた・・・姿形こそ
人のソレではあるが、もはや人とは異なる生命体であると、思い知らされた。
生誕から2年の間、私が犯してしまった、人とはかけ離れた異能の片鱗は
都会と離れたのどかな村の雰囲気のせいだろうか。村の人の目には
まだ”かしこい子”としか映っていなかった。
以後、私は”かしこい子”を越えることのないよう偽りながら
15年間、人として時を刻むことができた。
それは私にとって、最も穏やかで、最も満たされた日々であった。
私にとって最も不幸であったのは、あの男より
10年も遅れて生まれてしまった、ということになるだろう。
私は自分の異能に気づいた時、一つの可能性を考えざるを得なかった。
この力を持つ者は、果たして私一人なのだろうか?
異能をもって生まれる原理が未だに解明できていない以上、
他の異能者が存在する可能性を否定することはできない。
他の異能者が居たと仮定した場合、それは、私にとって敵か味方か。
私がもし、同じ力を持つ者に出会ったとしたら・・・。
私なら、数少ない同胞にあえてうれしい、という気持ちよりも
自分の忌むべき優れた能力が、他者も兼ね備えていることの恐怖。
世界の全てを思うがままに操れるであろう、この異能を
自分以外がもつことの恐怖を決してぬぐい去ることはできないだろう。
同胞の異能者がどれほどの力をもつのかはわからない。
ただ、仮に同程度の力であると過程すれば、
その優劣は、異能の力を如何に使いこなすか、によって決まるであろう。
異能の力を引き出す理論を確立し、如何に早くそれを引き出す物質や道具を生み出すか。
人が解明した理には、これらの方法は何一つない以上、
独学で導き出した理論のぶつかり合いになる。
当然、先に生まれるほど多くの理論を確立しているであろうし
私とあの男の違いは10年もあったことから、
この差を埋めることは絶望的であったと言える。
いや、むしろその差が10年程度であったことを、
幸運と思わなければならないのであろうか。
私の生誕がもし、あと1年・・・いや半年すらも遅くとも
私はあの男の力に屈服し、隷属させられたであろう。