婚約破棄されたらなぜかイケメンたちに次々求婚された私、混乱して無関係な隣国の王子様を選んでしまいました!
ため息が出るほど美しい装飾に満ちた王宮の大広間で、アリスは身動きできず固まっていた。
右も左も正面にも、シャンデリアのきらめきに負けないほどにキラキラしい美形たち。
一人は目の前にひざまずき、一人は手にキスをして、一人は髪を撫でながら甘い声で囁く。
「どうか私を選んでほしい」
「俺の妻になってくれ」
「ずっとアリス様のことが好きでした」
「お、お待ちください。私、私は……っ」
競うように愛を求められ、もうどうすればいいのか分からない。
どうしてこんなことになっちゃったの――!
◇◇◇
「アリス・グランジュ伯爵令嬢、貴女の美しさに僕の心は撃ち抜かれてしまった。そのサファイアのような瞳に、いつまでも僕の姿を映していてほしい」
社交界デビュー後に初めて参加した王宮の夜会で、アリスは第四王子マルセルに求婚された。
次から次へとひっきりなしにダンスに誘われ、俺が先だいや私だ僕だと目の前で小競り合いがいくつも起こり、皆こんなとんでもない数のお誘いをこなしているのね……とへとへとになっていたところに声を掛けてきたのが彼だった。
(もっと素敵な人はたくさんいるのに、どうしてこんな平凡な私に?)
驚いたが、「王子様に求婚されるなんて素敵!」とすぐに受け入れた。
「おてんばなアリスに王子妃なんて無理だろ」
「そうですわ、この子がどれだけ危なっかしいかお父様もお母様もお忘れですか!?」
「『飴をあげるからおいで』だの『一緒に猫を見に行こう』だのと甘言に何度ついていきそうになったことか」
「こ、子供の頃の話ですから!」
兄と姉は猛反対だったが、両親は諸手をあげて喜んでくれた。
すぐに始まった王子妃教育はつらいことも多かった。
「背筋が曲がっています。もう一度」
「……こんな簡単な問題も分からないので? いや失礼、王太子妃様は子供の頃にマスターされたと仰っていたものですから」
「指先まで常に見られていることを意識しましょうね。大丈夫、この鞭はただの飾りですよ」
一日中みっちりしごかれる日々。
ある日のこと。その日のレッスンを全て終えても立ち上がる気になれず、アリスは誰もいなくなった部屋でぐったりと机に突っ伏していた。
「やっぱり私に王子妃なんて無理だったのかしら……」
「そんなことないさ」
「マルセル様!」
ビクッとして姿勢を正すと、いつの間にかマルセルが部屋の入り口に立っていた。
「アリスはよく頑張ってるよ」
「でも、今日も何度も注意されてしまいました……。ダンスのレッスンでは先生が鞭を手元でパシパシしてるのが気になって仕方なくて」
「それでも逃げ出さずにいるじゃないか。……鞭の件は注意しておこう」
そう言いながらマルセルは優しくアリスのミルクティー色の髪を撫でる。
「僕はそのままの君を好きになったんだから」
「マルセル様……」
「無理しなくていい。できることから少しずつやっていけばいいよ」
「……はい。私、マルセル様にふさわしい王子妃になれるよう頑張りますね。明日のレッスンもしっかりやらないと!」
「少しずつでいいって言ったばかりなのに。本当に可愛いな、アリスは」
アリスが両手の拳を握って意気込むと、彼は眉を下げて笑った。
昔からこっそり一人で街へ行くのが好きだった。マルセルの婚約者になってからは一度だけ息抜きに出掛けたけれど、それ以降はきっぱり止めた。
言葉遣いを直し、寝る時間を削って語学や政治の勉強に励み、最近はやっと第四王子の婚約者にふさわしい振舞いだってできるようになった、と思う。
気を抜いたら素が出てしまうけど。
でも、いつ頃からだろう。彼の態度が変わり始めた。
「……え? マルセル様は、いらっしゃらないのですか?」
「ええ、なんでも『どうしても外せない用があるから城で待っている』と」
「そうですか……」
今日は王宮で夜会が開かれる。最近はマルセルに会えていなかったから、久々に会えるのを楽しみにしていたのに。
綺麗だよと言ってもらいたくて、髪もメイクもドレスだって完璧に仕上げてもらったのに。
王宮からアリスを迎えに来た馬車の中には誰も乗っていなかった。空っぽの馬車の前で、御者だけが気まずそうに立っている。
(……忙しい人なんだから仕方ないよね。お城で会ったらきっと、ごめんねって言ってくれるわ)
きっと大丈夫。今日も可愛いねって、言ってくれるはず。
誰もいない馬車の中を見回す。本当ならこの向かい側には彼がいてくれたはずなのに。
アリス一人だけを乗せた馬車は、彼女の心を映し出すかのようにトボトボと走り出した。
◆
「アリス・グランジュ、貴女との婚約を破棄させてもらう」
王宮の大広間。大勢の貴族たちが注目する中でマルセルは冷たく告げた。
会っているときはいつも優しく笑っていたのに、久々に会った彼は別人のようだった。
城に着いたときにはすでに彼の姿はなかった。アリスを待たずに会場へ入ったという。
戸惑いながら一人で中に入ると、貴族たちの視線が一斉にこちらを向いた。年の近い令嬢から髭をたくわえた侯爵、異国の王子にマダムまで。
気圧されそうになるのをどうにか堪え、深く息を吸って吐く。顎を少し引いて胸を張り、一歩一歩ゆっくり足を前に進める。
そうすれば、あちこちから「なんて美しい……」「相変わらず綺麗ね」とヒソヒソ話す声が聞こえてきた。
よかった。なんとか優雅に振舞えているようだ。
心の中でホッとしていると、称賛に混ざって「お可哀想に」という誰かの呟きが耳に届いた。どういう意味だろうと不思議に思ったが、マルセルの姿を見つけるとすぐに頭の片隅に消えた。
「マルセル様!」
アリスが顔をほころばせて話し掛けると、彼は面倒臭そうにため息をついた。そして彼の口から飛び出したのが、先ほどの婚約破棄を告げる言葉だったのだ。
それまでざわめいていた大広間はしんと静まり返っていた。
「……え?」
頭が真っ白になり、体が小刻みに震えだす。
婚約破棄って、どうして急にそんな。気づかないうちに何かしてしまったの?
「なっ……なぜですかっ? 私に何か至らないところがあったなら直します、ですからどうか」
「僕は運命と出会ってしまったんだよ」
「え」
ふと気づけばマルセルの隣には口元のほくろが色っぽいグラマー美女が寄り添っていた。マルセルに腰を抱かれた彼女はおっとりした笑みを浮かべながら、ちょっとだけ困ったように彼を見つめている。
彼は思いっきり鼻の下を伸ばして高らかに宣言した。
「イザベルは本当に素晴らしい女性なんだ。美しくて気立ても良い。僕のことを分かってくれるのは彼女だけだ。彼女を僕の妃とする」
「光栄ですわマルセル様。でも少しお待ちになって」
「遠慮しなくていいんだよイザベル、君こそが王子妃だ」
「遠慮ではなくて……あらまあどうしましょう……」
グラマー美女には色んな意味で敵わない。どう考えても完敗だ……とがっくり肩を落とす。
どうすればいいんだろう。婚約破棄されたなんて、父様と母様になんて言おう。
社交界に噂が回るのは早い。このまま黙っていてもきっと今日のうちに全て伝わってしまうだろう。良くて謹慎、悪くて勘当されてしまうかもしれない。
あんなに好きだって言ってくれたのに。どうしてですかと縋りつきたいけれど、これ以上みっともない姿はさらしたくない。
マルセルはすでに興味なさそうにこちらを見ている。このまま大人しく引き下がるしかできない。
「……承知、いたしました。私は身を引きます」
震える声でかろうじてそう答えると、彼は鼻で笑った。
「君に王子妃は荷が重いだろう。見た目だけで頭も要領も悪かったからな。これからは全てイザベルがやってくれるから、安心するといい」
カッと顔が熱くなる。そんな風に思われていたなんて……。
くすくすと誰かが笑う声が聞こえる。恥ずかしい。消えてしまいたい。アリスはスカートの裾を握り締めて俯いた。
(マルセル様にふさわしくなれるようにあんなに頑張ってきたのはなんだったの)
ぎりっと唇を噛む。
泣きたくなんかないのに勝手に涙が込み上げてきた、そのときだった。
「――それなら私は貴女に結婚を申し込みます、アリス・グランジュ嬢」
輝くプラチナブロンドの青年がひとり、人だかりの中から進み出てきた。
緊張しているような、神妙な面持ちでアリスの元へ向かって来る。
「えっ?」
「アリス嬢、ずっと貴女のことを想い続けてきました。私が貴女のことを知ったとき、貴女はすでに殿下の婚約者だった。何度も諦めようとしたがどうしても諦められなかった。どうか……」
「え、あ」
聞き間違いだろうか。美の権化みたいな青年が、今何かとんでもないことを言った気がする。
たしかこの方は、氷の貴公子と呼ばれており大変人気のある公爵様である。彼はとろけるような、信じられないほど美しい微笑を浮かべて――その瞬間、それをまともに浴びてしまった令嬢が何名か倒れている――アリスの手をとった。
そしておもむろに口元に近づけ、手の甲にキスを落とす。
悲鳴を上げなかったことをほめてもらいたい。
(ななななな何事!? 氷の公爵様がどうして私なんかに? うっ眩しい)
何か言わなきゃ。何か。何かって何? はいとかいいえとか、ちょっと待ってくださいとか、何でもいいから言わないと。
頭の中では高速で色んな言葉が浮かんでいるのに、まともな返答になってくれない。
「公爵様。私は、」
それでもなんとか返事をしようとしたところに、別の声が割り込んできた。
「待った、彼女は俺が貰い受けたい」
声の主は宮廷騎士団長だった。マルセルと出かけた際に何度か護衛についてきてくれたことがあるので彼のことは知っている。
歴代最年少の若さで騎士団長に就任した青年だ。実直な性格でおまけに顔も凛々しく、訓練場が彼目当てのレディで溢れているところを何度か目撃したことがある。
(待ってほしいのは私もです! 二人目!? どういうこと!?)
「グランジュ嬢の護衛に就くときが一番の幸せだった。今後一生、俺が貴女をお守りしたい」
「えっ、あの」
騎士団長は公爵に構うことなく目の前にひざまずき、獰猛な瞳で射抜いてきた。
今までにそんな目を向けられたことなど無く、思わずたじろぐ。
「お二人とも、そんな急に」
「騎士団長殿、邪魔しないでもらえるかな」
「それは俺のセリフだ」
「あの、ねえちょっと、話を聞いて」
二人の間にバチバチッと火花が散る。アリスを置いてけぼりにして。
「待ってください。彼女が選ぶのは俺です」
そこへさらに別の声が割って入った。声がした方を向くと、ローブを纏った宮廷魔術師がこちらへ近づいてきている。
直接話したことはないが、彼も何度か王宮で見かけたことがあった。強大な魔力の持ち主で、並みの魔術師が十人がかりで唱える魔法を一人であっさり放てる天才魔術師。他人と関わるのも騒がしいのも嫌いなため、隠れながら彼を推しているファンも多いのだとか。
(三人目ってそんなことある!?)
彼が自分のフードを取り払うと、その硝子細工のような麗しさに周囲は息を呑んだ。長い指でアリスの髪を一房すくって髪先に口づけ、乞うような声色で告げる。
「いつも遠くから眺めていました。自由の身となった貴女の人生を俺にください」
「ま、待って……」
怒涛の展開についていけない。アリスは限界まで眉を下げて困り果てた。
(だって私ついさっきマルセル様に婚約破棄されたばかりで、そうだ婚約破棄されたんだった、普通に落ち込む……じゃなくて、えっと、何なのこの状況!?)
三人はじっとアリスを見つめている。三人どころではない、この大広間にいる全員が呆気に取られて彼らを見ていた。マルセルすらもぽかんとして。
「どうか私を選んでほしい」と、公爵様が。
「俺の妻になってくれ」と、騎士団長様が。
「ずっとアリス様のことが好きでした」と、宮廷魔術師様が。
えっ。
だ、誰かを選ばないといけないの? この状況で? 急にそんなこと言われてもどうすればいいの。ドッキリじゃないの? だって私だよ!?
アリスはどうしようどうしようと、この異常事態でまともに回らない頭でぐるぐる考えて考えて考えて――、
「お、お待ちください。私、私は……っ、この方を選びます!」
「……ん? 俺?」
パニックになったアリスがとっさに掴んだのは、この国に留学に来ている隣国の王子、ノア・ランカーヴェルの腕だった。
なんだなんだと一歩引いて面白がっていた彼は目を瞬かせた。
サッと全身から血の気が引き、光の速さで手を離して直角よりも深く頭を下げる。
「ま、間違えました、申し訳ございません……!」
――なんてことをしてしまったの!
いくら混乱していたからとはいえ、とんでもないことをしてしまった。
ああもう終わりだ。こんな不敬を働いた私をランカーヴェル様は許さないだろう。一族郎党打ち首のうえ国際問題になってもおかしくない。どうか私の首だけで許してもらえないかしら。ごめんなさい父様母様、私は不出来で親不孝な娘でした……。
と思ったのに。
「喜んで。では貴女を俺の妃に迎えよう」
「えっ」
ノアはにこ、と人好きする笑顔を浮かべてアリスを三人の中から引っぱり出すと、お姫様抱っこで抱え上げた。ふわっと足が浮き、驚いて体が固まる。魂も口から抜けた。
「それでは俺たちはこれで。式の準備があるからすぐに国へ帰らねば」
唖然とする人々にノアは優雅に微笑むと、その足でスタスタと大広間を出ていった。アリスを抱っこしたまま。全員が口をぽかんと開けたままそれをただ見送った。
「よかった。まさか君も俺と同じ気持ちでいてくれたとは」
「あ、あの、ランカーヴェル様」
「よそよそしいな。ノアで構わない」
「そんな滅相もない、じゃなくて私、先ほどは混乱していてランカーヴェル様にとんでもないことを」
「……」
「ランカーヴェル様、あの、ひとまず降ろしていただけませんか? 改めて謝罪をさせてくださいませ」
「……」
「ランカーヴェル様?」
「……」
「……ノア様?」
「何だ?」
何だじゃなくて!
すれ違う誰もが目を丸くしてこちらを振り返っていた。そうこうしているうちにホールを抜け、驚く人々の真ん中を進み外に出る。
外にはすでに豪華な馬車が待機しており、アリスはそのままそれに乗せられた。
(わ、わー……ふかふかだぁ……)
今までに味わったことがないほどふっかふかの座り心地に思わず感動してしまう。あまりの展開に現実逃避しているのだ。
窓から外を覗くと、公爵に騎士団長に宮廷魔術師、ついでになぜかマルセルまで追いかけてきているのが見えた。
しかし馬車は彼らに構うことなく走り出す。あっという間に王宮は小さくなり、彼らの姿はすぐに見えなくなった。
(とんでもないことになっちゃった……)
アリスは馬車のすみっこに小さくなって、おそるおそる隣に座る異国の王子様をちらりと見た。
彼は隣国の王太子で、一年ほど前にこの国へやって来た。その際一度だけマルセルと共に挨拶に伺ったことがあるが、アリス自身はその場にいただけで言葉は交わさなかった。その後顔を合わせることもなかったためこちらのことは覚えてない……はず。
高い鼻筋に長い睫毛。前髪をかき上げる仕草は気だるげで、見惚れてしまうほど色気があった。
ふと彼がこちらを向いた。ノアの透き通るようなエメラルドの瞳と目が合ってしまい、慌てて逸らす。
「あの、どちらへ向かっているんですか?」
「俺の国だ。帰ったらすぐに式を挙げよう」
「そんな! 違うんです、私、さっきはどうかしていて」
隣に座っていたノアはぐいぐい距離を詰めてくる。アリスはひいぃとぷるぷる震えた。その様子を見た彼はくす、と小さく笑う。
「……どうしてそんなに乗り気なんですか? 私なんてただの平凡な伯爵令嬢でしかないのに。しかも人前で婚約破棄された傷物ですよ」
「君は自分の価値を分かっていないな」
「私の価値?」
どういうことだろう。そりゃあ貴族としての身分はあるけど、第四王子の婚約者になれたのはたまたまマルセルに気に入られただけのラッキーでしかないし。
アリスがセキセイインコくらい首を傾げていると、ノアはおもむろに口を開いた。
「この国に来てすぐのとき、一人で街を歩いたことがあるんだ」
「一人で、ですか? 護衛や侍従の方は……」
「撒いた」
「撒いた!?」
王太子が他国で一人きりになるだなんて考えられない。おてんばな伯爵令嬢でもあるまいし。そのときの侍従の心労を思うだけで胃が痛くなってくる。人のことは言えないけど。
「その国のことを知るには民の様子を見るのが一番だからな。そしたら、街中のショーウィンドウにいちいち張り付いている女の子がいたんだ。明らかに良いとこのお嬢様だろうに供も付けず、一人で」
ノアはそこでアリスを見やり、ニッと口端を上げた。
「その女の子と次の日王宮で再会したときは驚いたよ」
「……まさかそれって」
「君だ、アリス・グランジュ」
「やっぱり!」
おそらくこれで最後にしようと誓って街を散策したときだ。目に映る光景すべてを覚えておこうと思って、人も店も景色もじっくり見て回ったあの日。まさか見られていただなんて。
「あの日からずっと気になっていた。幼い子供みたいに目を輝かせていたのに、社交界では次期王子妃として気を張っている君のことが。といっても第四王子殿の婚約者にどうこうするつもりもなかったんだが」
ノアはまたしてもニコ!と人好きのする笑顔になって、
「いやあ本当に幸運だった。そっちから勝手に飛び込んできてくれて」
「飛び込んでなんて」
「俺を選んだのは君だろう?」
「そ、そうだけどぉ!」
ノアは上機嫌でアリスの髪を弄っている。このままだと本当に王太子妃にさせられてしまうかもしれない。
「う、うう。無理です、私に王太子妃なんて絶対務まりません」
「王子妃教育は受けていたんだろう。なら問題はない」
「問題大ありです! 家に帰……あ」
もうおうち帰る! と子供のように駄々をこねようとして、重大なことを思い出す。衆人環視の中で第四王子に婚約破棄された自分は、もう家族に合わせる顔がないことを。
「勘当か王太子妃かの二択……!」
「選ぶまでもないな」
「まだです、まだ何か抜け道が」
「ないな」
一刀両断されてもめげずにポンコツな頭を働かせる。ノアの中ではすでにアリスが王太子妃になるのは決定事項のようで、彼からは逃げ出せそうにない。逃げ出したところで他に行く当てなんてないのだけど。
(公爵様たちに頼るのは……気持ちを利用するみたいで嫌だし)
どうやら本当に腹をくくるしかないのかもしれない。
キッとノアを見上げると、彼は幼子を見るように目を細めた。
「わ、分かりました。私、ノア様と結婚……やっぱ無理ぃ!」
「はははっ。着くまでまだ時間はたっぷりあるから、その間に覚悟を決めておけ」
楽しげな王子様に髪を撫でられ、髪先にキスを落とされる。この先どうなってしまうんだろうという不安とほんのちょっとだけの期待が、アリスの中で入り交じるのだった。
お読みいただきありがとうございました。
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