聖女になりたかったと妹は言うけれど、聖女の座なら喜んで差し上げましたのに
ネタ出しにAI使用
『病弱姉は毒殺未遂を乗り越え、王太子妃教育をやり直す』
――私が毒を盛られたのは、妹に婚約者を奪われる、ほんの少し前のことだった。
公爵令嬢である私、エリシア・フォン・ルーヴェルトは、幼い頃から「病弱」と言われ続けてきた。確かに体は強くない。すぐに熱を出し、長時間の外出もままならない。
けれど、それだけだった。
本当は、私は誰よりも努力していた。王太子妃となるための教育――礼儀作法、政治、外交、歴史、経済。寝込んだ翌日でも、必ず遅れを取り戻すために机に向かった。
それなのに。
「お姉様は無理をなさらないでくださいませ。わたくしが代わりに……」
そう言って微笑んだ妹、リリアは、いつの間にか周囲から「健気で優秀な妹」として扱われるようになっていた。
そして私は――「かわいそうな病弱な姉」。
気づいた時には、すべてが遅かった。
王太子殿下の視線は、私ではなく妹に向けられるようになり、側近たちもまた、妹を「将来の妃」として扱い始めていた。
……それでも、まだ諦めてはいなかった。
あの日までは。
事件は、静かな午後に起きた。
体調が優れず、部屋で休んでいた私のもとに、妹が訪ねてきたのだ。
「お姉様、お加減はいかが?」
そう言って差し出されたのは、私のために用意したというハーブティー。
――普段の私なら、疑いもしなかっただろう。
だが、その日はなぜか、香りに違和感を覚えた。
「……ありがとう、リリア」
カップを手に取る。
そして、一口。
……その瞬間、喉が焼けるように熱くなった。
「っ……!?」
視界が揺れる。呼吸が苦しい。全身に広がる鈍い痛み。
毒だ。
そう理解した時には、すでに体の自由が利かなくなっていた。
床に崩れ落ちる私を、妹は静かに見下ろしていた。
「――ごめんなさいね、お姉様」
その声は、今まで聞いたことのないほど冷たかった。
「でも、お姉様がいる限り、私は“代わり”でしかいられないの」
遠のく意識の中で、私は悟った。
ああ、これは――事故でも陰謀でもない。
妹自身の意志だ。
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……だが。
私は死ななかった。
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「奇跡的に一命を取り留めました」
医師のその言葉を聞いた時、部屋の空気がわずかに歪んだのを感じた。
誰が驚き、誰が焦ったのか。
それは、見なくても分かる。
私はゆっくりと目を開けた。
体は重い。だが、意識ははっきりしている。
(……なるほど)
状況は最悪だ。
毒を盛られた証拠は残らないだろう。犯人を告発すれば、逆に「病弱ゆえの妄想」と片付けられる可能性が高い。
そして何より――
(このままでは、本当に婚約者を奪われる)
王太子妃の座も、これまでの努力も、すべて。
だが。
私は静かに、口元をわずかに持ち上げた。
(――いいえ。むしろ、ここからですわ)
病弱?
結構。
毒を盛られて倒れた?
なお結構。
ならば、それすらも利用してみせる。
「お嬢様、まだ安静に……」
「いいえ」
かすれた声で、しかしはっきりと告げる。
「明日から、王太子妃教育を再開します」
侍女が息を呑んだ。
「ですがお体が――」
「だからこそ、です」
ゆっくりと上体を起こす。
毒を盛られてなお生きている私を、誰もが「か弱いだけの令嬢」とは思わないだろう。
――印象は、塗り替えられる。
「“病弱な姉”ではなく、“死にかけても立ち上がる女”として」
その日から。
私の反撃と、“やり直しの王太子妃教育”が始まった。
『病弱姉は毒殺未遂を利用して、王太子と妹を世界に晒す』
――私は、被害者で終わるつもりはない。
むしろ、“被害者であること”こそが最大の武器になる。
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私が最初に呼びつけたのは、医師でも侍女でもなかった。
「新聞社の者を呼びなさい」
「……は?」
侍女が固まる。
「国内最大手と、国外にも流通網を持つ社を優先して。できるだけ“話を大きくできる者”を」
貴族の不祥事は、普通なら隠すものだ。
だが私は逆を行く。
――隠さない。むしろ、売る。
数日後、私の寝室には数名の記者が集められていた。
彼らは半信半疑の顔で、ベッドに横たわる私を見ている。
「単刀直入に申します」
私はわざと弱々しく咳き込みながら、しかしはっきりと告げた。
「私は毒を盛られました」
部屋の空気が凍る。
「証拠は?」
「ございます。医師の診断書、毒物の検出結果、それから――」
そこで、わずかに間を置く。
「“誰に”盛られたかについての、状況証拠も」
記者たちの目が一斉に光った。
――食いついた。
(ええ、その顔が見たかったの)
「ただし、条件がございます」
「条件?」
「記事は、国内だけでなく国外にも流してください。王家の名を伏せる必要はありません」
「なっ……!?」
記者の一人が思わず声を上げた。
王家のスキャンダルなど、本来なら命がいくつあっても足りない案件だ。
だが。
「ご安心ください。責任はすべて私が負います」
にこり、と微笑む。
「その代わり、“売れる記事”になることは保証しますわ」
そして数日後。
世界は揺れた。
――王太子妃候補、公爵令嬢毒殺未遂。
――犯人は実妹か。
――背後に王太子関与の疑い。
各国に流れた記事は、瞬く間に話題となった。
特に「王太子関与」の一文が、人々の想像をかき立てる。
真実を断定しない書き方にしたのは、あえてだ。
――疑惑は、確定よりもよく燃える。
王城は即座に混乱に陥った。
「これはどういうことだ!」
王太子は激昂し、私を呼び出した。
だが私は、あえてゆっくりと現れる。
まだ回復しきっていない体を装いながら。
「……エリシア。貴様、何をしたか分かっているのか」
「ええ、もちろん」
私は静かに微笑んだ。
「“事実”を、公表しただけですわ」
「ふざけるな! 証拠もないくせに!」
その言葉に、私はわずかに首を傾げる。
「証拠、ですか?」
そして、用意していた書類を差し出した。
「毒物の購入記録。使用人への指示書。そして――」
最後の一枚を、ゆっくりと広げる。
「殿下と妹の、密会の記録」
一瞬の沈黙。
王太子の顔から血の気が引いた。
「……なぜ、それを」
「調べましたもの」
当然のように答える。
「病弱ですから、外で動けない分、“内側”を徹底的に」
帳簿、人の動き、使用人の証言。
時間はいくらでもあった。
そして何より――裏切られた後の私は、容赦がなかった。
「最初から、妹に婚約者を替えるおつもりだったのでしょう?」
静かに言い放つ。
「そのために、邪魔な私は“病死”にする――違いますか?」
王太子は何も言えない。
それが、答えだった。
「ご安心ください」
私は優雅に一礼した。
「すでにこれらの資料は、新聞社にも渡してあります」
「な……!?」
「もし私に何かあれば、“続報”が出る手筈ですわ」
逃げ道はない。
揉み消しも、不可能。
その後の展開は、早かった。
王家は国際的な非難にさらされ、王太子は地位を剥奪。
妹もまた、貴族社会から完全に追放された。
――“転落”は、一瞬だった。
そして私は。
静かな部屋で、一人紅茶を飲む。
「……さて」
カップを傾けながら、小さく呟く。
「これでようやく、“やり直し”ができますわね」
もう、誰にも奪わせない。
私の努力も、未来も。




