1章④
「ふーっ……」
やがて数時間ほどすると、飲み会はお開きとなった。今は一人家へと帰っているところです。ちなみにベアトリクスさんとテトラさんはギルド近くに二人で部屋を借りていて、オーリーは少し離れたところに実家があるらしい。そしてそれぞれ別方向だ。
にしても、だいぶ酔っぱらってしまった。いや~まさかお酒がこんなに美味しくて楽しいものだとは思わなかったね。正直陰キャの俺にはもうちょっと怖いモノかと。飲み会もね。でも予想を良い意味で裏切られました。気心知れつつある仲間たちとだからかな?割と脚がふらつく。頭もぼんやりする。
「あ、いたいた!バンく~ん!」
さらには幻聴まで聞こえてきた。いやまぁ確かに?さっきまでワイワイしてたから一人で帰るのは寂しいなぁとか思ってたけど、流石にそこまで飲んだかとびっくりする。あ~でも、幸せかも。彼女、声も良いんだよね。酩酊した頭が生み出したとしてもむしろありがたい。ん~癒される~。
「待って待って!っていうかふらふらじゃん!大丈夫……?」
でも、それは全然幻聴じゃなかった。薄ピンクの可憐な髪が後ろから斜め前まで駆け寄ってきて振り返る。勢いでたなびく毛の一本一本はシャンプーのCMかってくらい滑らかで、さらにすぐ良い匂いが香ってくる。なんか甘くてドキドキするんだよな、これ。って、ん?え?マジ?え!?べべべべべあとりくすさん!?本物の!?
「へ?え?あ、あの、え?」
「あ、ごめん。急に来てびっくりしたよね。ごめんごめん」
「あ、いえ、だ、大丈夫です」
マズい。驚きすぎてすごいキョドってしまっている。いやでもこんなの無理だろ!色々想像しちゃうよ!だって飲み会の後だよ!?ていうかたぶん追いかけてきてくれたんだよ!?ってか何!?この状況なに!?理解が追い付かないんですけど!?
「えっと、解散する時、バンくん結構ふらふらだったじゃん?それが心配でつい追いかけてきちゃった」
「あ、ありがとうございます」
「それにちょっとあたしが飲むの煽っちゃったところあるじゃん?だから、せめて家まで送ろうかなって。あたしはそんなには酔ってないしさ」
「あ~。すいません、ご心配おかけして」
「ううん。全然」
うわ。優し。天使ですか?しかも「追いかけてきちゃった」って。「きちゃった」って。「つい」って。さらに首もコテっとして、上目遣いしてきて。なんだよこれ可愛すぎるだろ。
あと、本当に申し訳ないんだけど、酔っぱらってるからか胸へ目が行きそうになる。耐えろ。マジで耐えろ俺。それは普通に失礼だから。だから今はとりあえず視線を合わせろ。アッまぶしっ。
「あ~そうだ。あと――」
「へぁっ!?」
「回復魔法もかけとこうと思ったんだよね。あたしの、酔いも多少良くなるんだよ?」
「あ、そ、そうなんですね、あ、あ、ありがとうございます」
ん?あれ?なんか右肩の辺りを触られたぞ?あ。服越しでも柔らかい手の感触が伝わってくる。それにあったかい。人ってこんなにあったかいんだな。う~ん。落ち着く。あ。疲労どころか酔いにまで効くんですね~。ありがとうございます~。ってならないならない。っていうか酔っぱらってる中でこんな距離まで近づかれたせいで普段よりもっとドキドキさせられてます。頭もさらにぼんやりしてきた。あ、ってか酔ってるのかちょっと顔赤くなってるのかわよ。それに目がめっちゃ綺麗だ。赤くてキラキラしてて、ルビーでもはめ込んだのかい?ハハ。そして前世はやっぱり天使かな?
「いえいえ。あ、ちょうどいいし手繋ぎながらおうちまで行こっか」
「ッ!?」
って今度は服越しじゃなく直接手に手の感触が!?え!?これが陽キャというやつですか!?陽キャだと普通に異性とも手を繋ぐんですか!?回復魔法をかけるためだとしても!?それにしてもマジで柔らかいな。あとやっぱりあったかい。で、でも落ち着くとかじゃなくむしろ緊張しまくるぞ!?う。ヤバい。ホントにヤバい。倒れそうかも。
「それで……バンくんの家ってどっちかな?」
「あすいませんこっちです」
ってそんな場合じゃないだろ俺!せっかくのご厚意なんだから、心配させないようにちゃんと家まで帰るところを見せないと!うん。よし。歩ける。なんとか歩き始められたぞ。平常心、平常心。そうだ。街並みに集中しよう。いや~やっぱりファンタジーな世界だけあって街並みもいいよな。しかも大通りだから石畳の道に石造りの家々が並んでる。基本的に塗装とかされてなくてまさしく石っぽい色合いだ。それがかえって中世っぽくて――
「んふふ~」
「ん?どうしました?ベ、ベアトリクスさん」
「ん~?いや、なんかね。こうやって手繋いで歩いてると……」
あ待ってなんかマズイ予感ストップベアトリクスさん。
「恋人みたい、だね?」
「!?!?!?」
すいません。無理です。無理ですこれは。なんだァ?このイチャイチャ感はァ?しかもなんか照れてるみたいにほっぺが赤いぞ?心臓が口から飛び出るかと思った。思わず足も止まっちゃったよ。な、なんとかぎこちなくもっかい歩き始めるけど、なんか分かんなくなった。俺って今までどうやって歩いてたんだ?手と足が一緒に出そうだ。
「あ、ごめんやだった?」
「あいやそんなことはないですむしろ光栄っていうかなんていうか」
「あは。バンくんすっごい早口~」
「うぐっ。す、すいません」
「ん?なんで謝るの?面白いな~って思っただけだよ?」
「あはいそうですよね」
しかも優しいよぉ。え、好き。でも辛い。ドキドキさせられすぎて辛い。寿命がどんどん減っていってるのを感じる。もしかしたら俺、もうすぐ死ぬかも。まぁでもいっか!まだ何にもしてないけど、前世の死に方よ5億倍マシだ。ここで死ねるなら転生した甲斐あるってもんだよ!ってん?段々見慣れた景色になってきたってあッ!
「あ、つ、着きました。ここです。俺の家」
ふ~あぶね~。寿命が尽きる前になんとか自宅へと辿り着きました。ちなみに2階建てで結構デカいです。ありがとう女神様。いつものびのび暮らしております。
「え、バンくんこんないい所に住んでるんだ!」
「あ、えぇ、まぁ、ラッキーで」
「え~すご~い!」
そしてさらに、これのおかげで女の子からも褒めてもらえました。ホントありがとう女神様。あってか流石にそろそろ会いにいくか。確か教会か神殿に行けばいいんだっけか?
「あ、ねぇ。ちょ~っと失礼かもなお願いなんだけどさ……」
ん?
「中がどんな感じになってるのか、見せてもらってもいい?あたし、実は家の内装とか見るの好きなんだよね。ね?ダメ、かな?」
「えっ」
はい現実逃避終了。嘘でしょ?うちに人を入れるの?しかも女の子を?まだ誰も入れたこと無いのに?嘘だよね?最初が女の子ってホントにこれ現実か?正直初めて来るのはオーリーだと思ってました。酔っぱらって夢見てるとかじゃないよね?現実の俺は酔いつぶれて道でぶっ倒れてたり……ってちゃんと手の甲抓ったら痛いな。
「どう?バンくん?」
「あっおっけーです」
「ホント!?やった~っ!」
「あっ……」
はい。断れませんでした。だってベアトリクスさん、目ぇうるうるさせながらお願いしてくるんだもん。手を合わせて拝みながらさ。無理ですそんなの。童貞の僕には拒否することなんてできなかったです。
っていうかマジか。ついにか。いやでもまぁそんな大したことじゃない、よな?うんうん。小学生のころは友達の家行った事とかあるし、それと同じような事だよな。にしては俺らはもう大人って感じの年齢だけど。あちなみにパーティメンバーはなんと全員ちょうど成人したところで同い年です。……でも別にこれからそういうことをするわけじゃないしな?そうだよ。ただ中見せるだけっしょ?余裕余裕。うん。
「それじゃ……」
意を決して鍵を開ける。ちなみに電子錠みたいな感じとなっております。一応この世界には鍵の魔法もあるので怪しまれたりしないはず。
「ど、どうぞ」
「うん。お邪魔しま~す」
そうして俺は、ドアを開きたぶん意中の相手を先に中へと招き入れました。
「へっ?えっ!?」
だが次の瞬間、手首を握られ強引に中へ引っ張られる。背後で閉まる扉。すぐさまそこへ向かって押し付けられる。なんか力が強い。しかも一瞬の事で全く抵抗できなかった。あれ?何が起きてる?わけが分からない。
「ん~っ」
「んむっ!?」
続けて、なんか彼女の顔がすぐそこまで近づいてきた。マジで近い。頬と頬が触れ合う距離。鼻と鼻が当たっちゃう距離。目がすぐそこ。そしてさらに、なんと唇に柔らかい感触がぐんにゃりと当たっている気もする。あと、心なしかベアトリクスさんがうっとりしてる。
「ッ!?ふえっ!?」
ん?気のせいじゃないかも。
え?おん?ん~~~?は?えっと。あの。き。
キス、されてない?へ?キスってあのキス?はい。そうです。あのキス。口づけ。ちゅ~。ベーゼ。それです。どうやらそれをされてるっぽい?っぽいっていうかされてる。されてるなこれ!?え!?なんで!?
あ。なんかすっげぇ気持ちいいぞ。オラびっくりだ。え?嘘でしょ?何が起きてる?でもなんか抵抗できない。普通に嬉しいです。はい。だって女の子とこんなことしたことないし、してみたかったから。
「えへっ」
「え、あ、あの、ベアトリクス、さん?」
「ん?なぁに?バンくん」
「ッ……」
しばらくするとようやくベアトリクスさんは離れてくれる。でもなんか、さっきまでとちょっと雰囲気が違う。ん?あれ?なんか急に視線が鋭くなってない?肉食獣の目だ。ちょっと怖い。でも動けない。全身が緊張しきっている。というか動きたくないって気持ちもあるね。このまま待ってればアレが始まる気がする。アレってアレね。アレ。
「んふ~っ♡」
何もしないでいると、彼女の笑みは深まった。あとなんか目がえっちな感じになってきています。細められて、粘っこくじっとりとしてて。
生唾を飲んでしまう。一気に欲望が湧き上がってくる。背筋にぞわりと冷たいナニかが走っていく。頭が熱で蕩ける。
「あ」
ん?って俺、これ、食われ――
「いただきま~すっ♡」
召し上がれ。って違う。え?あ?ダメっ!らめぇ~ッ!
そうだ。思い出した。俺はこの晩、びっくりするぐらい搾り取られたんだった。ホントびっくりするぐらいされた。でもなんか幸せで気持ちよかったので、ずっとされるがままだったわ。そうだったそうだった。よしよし。やっと何が起きたか思い出せたぞ。




