1章③
「それじゃあ、これからも頑張っていこうってことで、乾杯!」
「かんぱ~い!」
「乾杯!」
「乾杯っ」
4つの木製ジョッキが互いにぶつかり合い、カコンと音を鳴らす。勢い余って中に並々注がれたビールが少し零れたりする。そうして、パーティ初で、俺の人生でも初めてとなる飲み会というものが始まった。ちなみに今回は、ギルドでも評判だとオーリーが調べてきた酒場での開催となっています。
「んっ、んっ、んっ……あ~おいし~っ!」
「あ、ベア、あんまり飲みすぎたらダメだからね?」
「うん。分かってるって!」
最初に景気よくベアトリクスさんが中身をあおっていく。すげぇウマそうだ。え、実際ウマいのかなビールって。アルコール初めてだけど、とりあえず飲んでみるか。決してベアトリクスさんの真似をしたいわけではないですよ。ただどんな味か気になるだけです。えぇ。……本当はこの2週間ずっと好きかもって感じだったので真似したいだけです。
「んくっ。ん?うっ……」
いやまっず!魔法で冷やされてるからかめちゃくちゃ冷たくてその点に関しては美味しいんだけど、やたら苦い。いや、そういえばのど越しを楽しむとか聞いたことあるような。もっとガッと飲んでみるか。
「……お?」
あれ、思ったよりイケるかも?確かにのど越しが良い。あと冷たいし一気に飲むのもあってか苦さだってあんまり気にならない。ここに食べ物いけばもっといい感じかも?あと食べ物を流し込む感じも確かに良さそうだな。
「おぉ~いいねぇバンくん。意外といけるクチ?」
「あ、いえ、今日が初めてです。でも、こうしたら美味しいかなと思って」
「度胸あるねぇ。なら、記念だしどんどん飲んじゃおっか!」
「が、頑張ります……」
すると、対面に座るベアトリクスさんから褒められる。えへへ。じゃあ今日はいっぱい飲んじゃおっかな~っ!
それはそうと、座り方はパーティを組んだ時と一緒だ。というか俺たちの中で、気づけばこの席順は暗黙の了解みたくなりつつある。なので、いつもベアトリクスさんが俺の前に来ます。嬉しいけど正直照れる。だって、彼女は結構真っすぐに目を見てくるのだ。あと恥ずかしくて逸らすとたまに追いかけてきたりする。オイオイ。好き。
「バンさん。あんまり無理しないでくださいね?それにベアはすごくお酒強いので、付き合ってたら危ないですよ?」
「あ、はい。気をつけます。ありがとうございますテトラさん」
「いえ。そんな事より、ご飯も食べましょ?冷めちゃいますし」
「そうだね。さ、みんな食べて食べて」
そうやって俺がドキドキを日々高めている中で、2週間もあったのでテトラさんともある程度打ち解け始めていた。ちょっとずつだけどね。今では多少話せるようになった。用事とかきっかけが無いと話し始めないし、会話が続かなかったりもするけど。でも、人付き合いをこれまで殆どできてなかったというところから考えれば上出来じゃないか?
とはいえそうなったのはオーリーのおかげも大きい。何せ彼、戦闘もそうだけどやっぱり人付き合いも上手い。具体的には俺とテトラさんが話しやすい空気を作ってくれるし、話題を振ってくれたりする。そんな恩も相まって、彼に対する敬語や敬称はほぼ完全に抜けた。俺の心の防壁はそうしていいところまで下がったのです。このまま女の子ともそうなれるといいな。
「あ、美味しい」
「ホントだね」
「ん。うん。よくこんなとこ見つけられたねオーリー」
ていうかご飯うまっ。いやまぁ、この世界、というか俺らが今居る王都では塩コショウが無いので前世と比べたらそうでもないのかもしれないけど、味薄い病院食をずっと食べていた俺にとっては結構イケます。メニューはワイルドボアを焼いたやつ始め肉料理が多め。っていうかなんか少なくとも塩とかで味付けしてないはずだけど濃くないか?普通にウマいぞ?
「うん。せっかくだから、ギルドで仲良くなった人から聞いてね。みんなの口に合うなら探した甲斐があったよ」
「さすがイケメン。抜け目ないよねぇ~」
「いやいやそんな。ま、僕がかっこいいことは否定しないけどね!」
「うわ」
「うわ~」
「……」
みんなでオーリーを褒めたらすぐ調子に乗った。そういえば初対面の時も褒めたらこんな反応してたな。ということはこれはユーモアというより素なのかもしれん。でもま、あんまり嫌味無いんだよな。ベアトリクスさんに褒められてるのはちょっと羨ましいけどね。俺も褒められたいな。
「……っていうか、前から思ってたんだけどさぁ」
「へ?うん。なんだい?」
おっ。彼女の冗談っぽい睨みつけ顔だ。かわいっ。
「リビングアーマーって、どうやってご飯食べるの?」
「あ、それ俺も知りたい」
「私もっ……!」
「へ?あぁ、それじゃあ実際に食べて見せようか……って、今まで見せたこと無かったかな?」
「無いよ。なんだかんだ理由つけていつも隠してる。あとは逃げてる」
向けられた先はオーリーだ。……言われてみれば確かに、兜が頭の存在ってどうやって飯食うんだ?口あるのか?もしかして、あの中に普通に人間の頭があったりするのか?そういえば今まで見たこと無かったな。っていうか、呼吸とかってどうやってるんだ?視覚があるのも不思議だよな。だって目無いもんな。
っていうかていうか、別にこれって一般常識じゃないのか。でも、マジで亜人っていっぱいいるもんね。それぞれどんな生態かなんて、実際にその人といないと分からないもんか。
「逃げてるなんて人聞き悪いなぁ。ま、でも良い機会だし見せようか。ちょっと恥ずかしいけどね」
「え」
「わっ」
「えっ。なにな、へ?」
そうして考えていれば彼の正面に居る二人が驚く。咄嗟にテーブルへ身を乗り出しながら、俺も彼女らに続いて顔を見る。
……ひとりでにいわゆる面頬の部分が半分ほどずり上がり、中が見えるようになっていた。っていうかそこ、自力で動かせるんだ……。あの兜ってどうなってるんだ?
とはいえそれも驚きなのだが、もっと驚いたのは中だった。なんか、黒が広がってる。マジで黒い。全く光を反射していないからか立体感が無い。ただのっぺりとした黒だけがそこにある。頭がちょっとバグるな。そういえば前世で見た世界で一番黒い物質ってこんな感じだったかも。
「そ、そんな見ないでくれると助かるんだけど。さっきも言った通り恥ずかしいからさ」
いや、興味深すぎてそれは無理です。っていうかどこから声出てるんだ?確かに口元から出てはいるみたいだけど。
「……。じゃあ、食べます」
やがて観念したようにオーリーは食事をナイフとフォークで一口サイズに切り分け、「口」へと運んでいく。っていうか所作がなんか整ってるな。そういえばこのパーティ全員なんか全体的に品があるんだよな。たまに俺だけ、慣れないカトラリーを使ってるのも相まって綺麗に食べれなくて疎外感に苛まれる時があり――
「……え?」
ってヤバ!考え事してたら見逃した!
「すまんオーリー。見逃したからもう一回食べてくれ!」
「……。いいけど……」
「あ~ごめんすまん頼む。お願いしますオーリーさん」
「うん」
あぶね~。頼んだらもう一回食べてくれることに、って。
「……へ?」
消えた?え?あれ、フォークは消えてないな。ん?なんか咀嚼してるっぽい?あ、今飲み込んだかも。
「すごいな!ど、どうなってるんだそれ!」
「え!ね!そう!びっくり!何が起きたの!?」
「オーリーさん!教えてください!」
「はいはい。これからはあんまり僕が食べるところ気にしないでくれるならね」
「「「もちろん!」」」
「う……。キミたちの連携が良くてリーダーの僕としては嬉しいよ……」
いや。すごいな。亜人。面白っ。うわ。他の亜人さんも見てみたいな。どういう生態の人が居るんだろう。……生態ってちょっと失礼かな?
「それじゃ説明するね。僕たちリビングヘルムの口元は、転移魔法みたいな原理で『口』と繋がってるんだ」
「口?って、歯とかあるあの口?あたしたちと同じ?」
「うん。まぁ、それが一体どこにあるのかは自分でも分からないけどね。それで、そこからさらに、キミたちと同じように胃に繋がってるってわけ。だから、咀嚼もできるし飲み込むこともできるよ。あと胃もみんなと同じようにお腹にあるね」
「へぇ~」
「ちなみに、そういう理屈だから僕たちは転移魔法にある程度の才能を持つって言われてるよ。ま、僕はまだ使えないんだけど」
「ほぉ~」
「……というか、そろそろ僕のことは良いからご飯食べよ?お腹空いてるよね?」
あっ、面頬のとこ下がった。流石に恥ずかしかったのかな。心なしか兜が赤らんでるような気も……ってこれは酒場の中を照らすランタンのせいか?まぁでも、ずっと大口空けててそれを見られてるって思うと確かに恥ずかしいかもね。あと、オーリーは基本的にいつも長袖を着てる。なんでも彼らの種族は露出を嫌う傾向があるとかなんとか。てなると、ちょっとからかいすぎたかな。
「すまんすまん」
「ごめんね~。正直面白くてつい」
「正直だねぇベアトリクスちゃんは」
「あ、ごめんね?オーリーさん」
「ううん。怒っては無いよテトラさん。ちょっと恥ずかしかっただけ。だから、これからもあんまりじろじろは見ないでね?」
「はいっ」
そうして俺たちは食事へと戻っていく。あ、熊肉も値段するだけあってウマいな。あとやっぱり味が濃い。ビールとも合うね。口の中をさっぱりできるのがいいよ~。炭酸も面白い。




