1章①
「それじゃ、これからよろしくね、バンくん」
「よろしくお願いします。オーリカルクムさん」
転生するにあたって最も危惧していたことの一つ、果たして一人目の友人を作ることはできるか?という問題は、全くの杞憂に終わってくれた。
冒険者ギルド一階にある集会所兼酒場の一角で、俺と、先ほどちょうど同じタイミングで冒険者登録をしようとしていたオーリカルクム・レガリスさんはテーブルを挟んで座っている。これからパーティとしてどうするかについて話し合うために。なんと、転生して一日目で友人ができたどころかパーティメンバーまで一気にできてしまった。
「いや~それにしても助かったよ。まさか僕と同じこれから登録するって人が、同じタイミングでギルドに来るなんて」
「いやいやこちらこそ。正直俺、パーティメンバー探すのが一番大変そうだって思ってたので、こちらこそすごくありがたいです。助かります、オーリカルクムさん」
とはいえ、そんな偶然は実の所女神様によってもたらされたモノだ。「親友の加護」と名付けられたそれは、名前の通りこの世界で生活するにあたって、そして何より恋愛するにあたって頼りになるという人物と、最初に引き合わせてくれたらしい。
確かに彼は、俺と同じでここへ来るのは恐らく初めてだろうにやたら堂々としている。たぶん人付き合いにはかなり慣れているのだろう。これなら人間関係について相談しても参考になる答えが返ってきそうだ。
あとなんか声色が優しいし俺との距離感も適切だった。こちらが敬語を使って彼と距離を作っても、それを無理矢理取っ払おうとなどしない。きっとめちゃくちゃ良い人だ。まぁそもそも俺に人の良し悪しを判断できるような経験は無いんだけど。でも、加護によって出会ったって事は女神様のお墨付きがあるってことだよね。だから信用してしまっていいんだろう。
「じゃあおあいこだね。これから一緒に頑張ろう。というか、迷惑かけないように頑張るね」
「あ、はい。あ、ってかこっちも、頑張ります。あの、経験とか無いんでこっちこそ足引っ張っちゃうかもですけど」
「はは。もしそうなっても全然気にしないでね。パーティは助け合うものだからさ。それにむしろ僕の性格的には頼られる方が嬉しいし」
「あ、じゃあ俺もそうしてもらえたら嬉しいです。お互いにフォローしていきましょう」
「うん!」
う~んやっぱり良い人そうだな。親友の加護のことを聞いた時こそ別に友達とかいなくても恋愛できるんじゃね?って思ったけど、そんなこと無いかも。もし女の子と上手く仲良くなれなかったり、告白して玉砕したとしても、励ましたり味方になってくれる相手が居るって事だよね。しかもそれがこの人なら猶更挫けたりしなそうだ。なんてったって快活で明るい。あと多分人の事をよく見てる。
それに、彼はある身体的特徴から俺にとってめちゃくちゃ喋りやすかった。
「それにしても、その兜、いや頭?顔?めちゃくちゃカッコいいですね」
「おぉ!ありがとう!僕たちにとってはこれが顔だから、顔って呼び方で大丈夫だよ」
彼、オーリカルクム・レガリスさんは、この世界に数えきれないくらいのバリエーションが存在する亜人の一つである、リビングヘルムという種族らしい。つまり、名前の通り頭が兜だ。頭頂部から正面まで全体的に流線形で纏まった、いかにも西洋風の。「上級の騎士」っぽい感じの。しかもてっぺんからは金髪みたいなもじゃもじゃが生えていてかっこいい。
だからか?目がこちらからは見えないのだ。視線こそ感じるけど、目と目を合わせるという気恥ずかしさや、見られているという意識は結構薄い。要するにあんまり人間っぽくなくて俺にとっては怖くない。ちなみに首から下は普通の人間となっております。
「というか、僕たちみたいな亜人を見るのは初めてかい?」
「あ~……。まぁ、実際に見るのは初めてですね。ちょっと事情があって」
「そうなのか。なら、もっと見るといい。僕の端正な顔立ちをね!」
「あ、はい」
これで、さらにちょっと濁したところへすぐさま気を遣ってくれるのだから、なるほど転生者である俺の親友としてはこれ以上無い存在だと思った。っていうかユーモアもあるのかよ。かっこよすぎるぜオーリカルクムさん。これからよろしくお願いします。ちなみに彼、背も高い。これ、もしかしてめちゃくちゃモテるんじゃ?亜人種の方々がどんな相手に惹かれるのかってあんまり知らないけど。
「あの~、すいません。もしかしてパーティメンバー募集してるのってあなた達ですか?」
「ん?あぁそうですよ。僕たちです。もしかして……」
お。そんなことを考えてたら早速人が来たぞ。それにどちらも女の子だ。肩ぐらいまでの金髪で引っ込み思案そうな人と、ピンク髪ロングヘアの快活そうな人の二人組。端的に言ってしまえば、控えめ女子と優しそうなギャル?
「はい。あたしたちもパーティメンバーを探してて、どう、ですかね?」
「おぉ!……バンくん。僕はとりあえず話を聞いてみようかなと思うんだけど、どうかな?」
「あ、だ、大丈夫です」
でも、どうやら彼女たちはオーリカルクムさんに逆ナンを仕掛けてきたというわけでは無かった。むしろ目的は「俺たち」で、ということはこれからこの二人とパーティを組むことになるかもしれないということだった。まずい。もう緊張してきた。パーティ組んですらいないのに。とりあえず応対はオーリカルクムさんに任せよう。俺は神妙にしておく。っていうか彼、いちいち俺に確認取ってくれてありがたいな。
「うん。それじゃあ、こっちに二人で座ってください」
「ありがとうございます!じゃ、テトラ」
「うん」
ということで二人が対面へ来て、俺の親友(予定)は俺の隣へ来ることになった。ってかあ~ヤバいよ~。今回は普通に人間の顔だ。あんま目合わせられないかも~。頼むぜ親友予定くん。いや、親友予定様。ちなみにピンク髪の人が正面です。ん?っていうかめっちゃ美人じゃないか?さらに緊張してきたぞ……。
「それじゃあ自己紹介から。僕がオーリカルクムで、彼がバンくんです。どちらも前衛ですね」
ちなみに、転生記念としてある程度まとまった量が貰えた神様ポイント、KPの割り振りはとりあえず前衛寄りにしてみました。ただ、剣と盾を使えるだけだとなんか味気ない気がしたので、同時に回復や攻撃魔法も使えるいわゆる「勇者」っぽい仕上がりです。でも別の世界では勇者と呼ばれるステ振りなだけあってかこっちでもあまり居ないようで、オーリカルクムさんに伝えたら驚かれました。ちょっとマズいかな。悪目立ちしたりしないよね?でも、せっかく異世界転生した以上は流石に剣と魔法を使いたい。背に腹は代えられません。
「あ~!じゃああたしたちとぴったりですね!あ、あたしはベアトリクスで、こっちはテトラって言います。見ての通りどっちも後衛希望です」
「お。それじゃあ構成的にも良い感じですね。とりあえずまだパーティを組むかは置いておいて、よろしくお願いします。お二人とも」
「……お願いします」
「あっ、お、お願いします」
そうして転生してすぐの事を考えているうちに自己紹介は進んでいく。ピンク髪の人がベアトリクスで、金髪の人がテトラって言うらしい。っていうかテトラって人、第一印象通り結構人見知りっぽいか?なんかシンパシー。これならパーティ組んでも大丈夫そうかもしれない。少なくとも、人付き合いが苦手なことで何か言われたりはしなそうな気がする。ベアトリクスって人も、テトラさんと一緒に居るならある程度扱い方が分かってるだろうし。
というわけで俯いていた顔をちょっと起こします。
「お二人はそれぞれどんなことが得意ですか?ちなみに僕は見ての通り壁役で、隣の彼はなんと剣だけでなく魔法も回復と攻撃それぞれある程度使えるそうです」
「えっすごい!」
ウワッ!視線を上げた瞬間正面から眩しい笑顔が!
ウワッ!?思わず下げたら今度は僧侶っぽい厚手のローブからでも分かる大きな胸が!ま、マズい。見ないようにしないと。でもひたすら目が吸い寄せられる。とりあえずもう一回そっぽ向いて失礼のないようにしとこ……。
「って、バン、さん……?」
「へぁっ!?」
そうしたら彼女、ベアトリクスさんは自分から視界に入ってきた。驚いて変な声が出る。だって追いかけられるとは考えてなかった。でも、だとしてもやってしまった。失礼なことしちゃった。ていうかなんかめちゃくちゃ可愛いな?心配そうな上目遣いに息を呑んでしまう。え。好きかも。ってチョロすぎないか?俺。でも、うわ~このまま見てたいよ……ってそうじゃなくて!まずは謝んないと!好きかもなら猶更!
「あ、す、すいませんびっくりしちゃって」
「あ、こっちこそごめんなさい。気をつけますね」
「あ、いえ。……すいません」
「あは。なんでバンさんが謝るんですか?悪いのはこっちですよ?」
「いや、そんなことは……」
「んふ。じゃ、お互い気にしないようにしましょ?ね?」
また上目遣いされた。しかも首傾げてる。かわよ。……じゃなくて。
「はい」
よし。これでとりあえず大丈夫だろ。場は収まっただろ。ふ~あぶね~。なんとかなった。なんとかなった、よね……?まぁ波風は立てなかったので良しとしよう。いや、まぁ俺が何かしたってより相手がひたすら優しいだけかもしれんけど。ん?でもそれならやっぱり最初にパーティ組むのには適してるかもな。こんな「オタクに優しいギャル」っぽい性格の人そうそう居ないぞ多分。この世界がどうかは分からないけどさ。とはいえせっかくだからこの人たちとパーティ組んで、当面の人付き合いを練習させてもらえたらいいかも。
「さて、それじゃ、あたしたちの得意なことですよね。私は回復魔法で、こっちは攻撃魔法を担当したいなって感じです」
「おぉ。それなら」
「はい。役割的には結構合ってそう、ですよね?」
「えぇ」
しかもいわゆるジョブや職業的なものの組み合わせも良いと来た。これは結構win-winな関係なんじゃないですか?それならこっちが気負ったりとかもしなそうでアリかもしれない。
「あぁでも、僕たちは先ほど登録したばかりで二人とも初心者なんですが、そこは大丈夫ですかね?」
「大丈夫ですよ。あたしたちはちょっと前に登録したんですけど、色々事情があってあんまり依頼には出れてなくて……。なのでほぼ初心者です」
「ふむ……」
うん。色々な事情ってのがちょ~っと気になりはするけど、二人とも悪い人では無さそうだしいいんじゃないか?ちなみに下心はありません。別に相手が女の子だから乗り気だとか絶対に無いです。……いや、多分あります。ていうかバリバリあります。特にベアトリクスさんはめちゃくちゃ可愛いので、正直見れば見るほど好きになってきてる気がします。のでこっちからお願いしたいぐらい組みたくなってきています。
でもまぁ、それとは別に恋愛しないと俺の能力強くならないからね。パーティ組めて恋愛もできるってなったら一石二鳥だし。なのでやっぱり受けちゃって良さそうな気がする。でもパーティ内恋愛って輪を乱す可能性があるし良くないか?うっ。泥沼が怖い。なら、やっぱり女の子との付き合い方を学ぶってことでここはひとつ。うん。それがいい気がする。……っていうか、普通に恋愛にならないことだってあり得るよな。ってかそっちの方が普通か?だってこれ、仕事仲間みたいなものだし。
「どうかなバンくん。僕は組んでいいと思うけど、キミは?」
あ、やっぱりこっちの意志聞いてくれた。優し。ホントありがとうねオーリカルクムさん。
「あ、うん。大丈夫、だと思います。賛成です」
「わ!ホントですか!」
「うん。そうしたら」
「パーティ結成、でいいですかね?」
「はい。こちらは」
「はい!それじゃ、これからよろしくお願いしますね!」
「よろしくお願いします」
「こちらこそ、よろしくお願いします!一緒に頑張りましょう」
「……お願いします」
そうして、つつがなく?パーティは結成された。いや~一安心ですね。とんとん拍子に話が進んでくれて助かった。それもこれも全部オーリカルクムさんのおかげじゃないか?親友の加護さまさまだね。ありがとう女神様。ありがとうオーリカルクムさん。
「そうだ。僕の名前、オーリカルクムって結構長いので、もし面倒ならオーリーとでも呼んでください。戦闘中とか呼びづらいと命に関わったりもしますし。あ、バンくんもね。良かったらそう呼んでくれると嬉しいな」
「あ、うん。分かった。改めてよろしくお願いします。オーリーさん」
「うん。よろしく」
よ~し。じゃあ色々してくれた彼のためにも、これから頑張っていこう。あと、運よく組めたパーティだし何かミスって崩壊させないようにも頑張ろう。幸いリーダーは彼がやってくれるだろうし、俺は俺の出来る限りをやっていこう。
……ってあれ?ふと思ったんだけどさ、異世界転生だからってとりあえず冒険者になったけど、俺の能力、恋愛すればするほど強くなるってことは別に戦わなくても良かったんじゃ?あ~そうかもしれん。でもま、とりあえずあとあと考えればいいか。せっかく女の子と知り合えたわけだし。とりあえず今は冒険者としてやっていこう。うん!気合い入れていくぞ!




