プロローグ④
「……?うぁっ……。いってぇ……」
意識の覚醒と共に目を開けると、視界には最早見慣れ始めた天井が広がる。だが今日は体調がいつもと違った。頭がやたらに重たくて、ぐわんぐわんと痛む。すごく喉が乾いている。あと、口の中が変な味だ。苦い。そういえば昨日、大量にビールを飲んだような気がする。確か冒険者ランクがCに上がったお祝いとかで、パーティメンバーの一人から煽られるがままに。あとなんかうっすら甘いような?
でもあんまり記憶が無い。もしかすると、これが噂に聞く二日酔いってやつだろうか。確かにちょっと気分が悪い。っていうか家までどうやって帰ってきた?全然分からない。
「ん?」
っていうか、俺、服着てなくね?パンツは履いてるけど何故かそれだけだ。普段は部屋着で寝るのに。
「ふーっ……」
とりあえず服を着て水飲もう。幸い昨日の今日で依頼に出かけるわけもなく、今日は休みだ。ベッドから這い出す。身体も重いな。てかやっぱり頭が痛い。キツい。もう絶対あんなに飲みません。っていうか酒はこりごりかも。楽しかったような気はするけど、やっぱり全然覚えてないし。これじゃあ意味ないだろ。
「っつ~……。んくっ。あ~~~っ」
ダイニングの椅子へ乱暴に腰かけ、置いてあったコップ内に水生成のチートで飲料水を出す。それを一気に飲み干すと少し落ち着いた。しかもただの水がめちゃくちゃ美味かった。でもちょっと胃が気持ち悪い。
こんな時は二度寝しよう。寝たらいくらか回復するだろ。あ、ってか回復使えばいいか。自分に使用すると、ゆっくりだが次第に全身が軽くなっていく。頭痛も弱まる。
でもまだ力が弱いので全快とはいかない。なのでもう一杯水を飲んでからベッドへ戻ることとする。あぁ服着ないと。って、どこだ?いつもの場所に見当たらないな?めんどくさいからこのまま寝るか。
「ん?」
そう思ってまだ少し残る頭痛に顔をしかめつつ立ち上がり、愛おしいふかふかへと足を向ける。顔も向ける。するとなんだか、掛布団がふっくらしていた。あれ?ん?なんで?動物を飼ったりはしていないし、何よりここでは今の所一人で暮らしている。二日酔いで寝相が乱れて枕が散らかったのかとも思うが、そんなことはない。ちゃんとヘッドボードの側に二つある。っていうか大きさが違う。膨らみはそんなに小さくない。例えるならそう、人ひとりぐらいの大きさだ。
「え?」
……ちょっと待った。なんか嫌な予感がしてきたぞ。いや、まさかね。ないない。ありえないって。でも心当たりがある。記憶にうっすらと、人の裸体が浮かび上がってくる。え?嘘でしょ?しかもなんか女の子の身体じゃない?おぉ。それに中々立派な。ってそうじゃない。冷や汗が滲む。あれ?俺、昨日何したの?速足でベッドへと近づく。薄い布団は重力に従って中身の形状をある程度捉えており、どうやら手足があるっぽいと分かる。
意を決し、そっと中を覗き込――
「うわっ!?」
「ん~?なにぃ~……?」
思わず大声を出しながら尻もちまでついてしまった。我ながら情けない。でも無理です。童貞の僕には刺激が強すぎました。いやもう童貞じゃないやろ~ってハハ。え?僕童貞じゃないんですか?じゃあなんで布団の中の「あの子」は裸なんですか?そういうことですか?
「ん、あ……。おはよ~」
「あ、ハイ。おはようございますベアトリクスさん」
「あは。なんで敬語なの?昨日えっちしたのに」
「えっ」
えっしたの!?俺、やっぱりしたの!?え?えぇっ!?
「あ、それと二人っきりの時は、引き続きベアって呼んでもいいよ?」
「ひきつづき?」
「うん。だって昨日あんなに呼んでくれたじゃん。あたしの下で、ベアさん。ベアさん。って可愛く」
あ、俺が下だったのね。ってそうじゃなくて!これ絶対してるじゃん!?俺!マジかよ!っていうかなんで覚えてないの!?もったいない!……もったいない?
ん?あれ?そんなことより、俺、この人と、パーティメンバーの一人であるベアトリクスさんと付き合ってたっけ?いや、付き合ってないよな?ん?付き合ってない状態でそういうことをしたの?転生する時、あれだけ純愛するぞって思ってたのに?え?やっちゃった?いやでも、昨日付き合ったりとかしたんだっけ?ん~……?
「思い出してたらまたシたくなってきたかも~。ね、今からシない?」
「は――」
そこまで混乱していても、「再戦」の誘いに頷きかける。だって彼女はとんでもなく可愛いし、しかも身体つきがすごい。
ピンクのロングヘアに包まれた顔は垂れ目かつ丸っこくてとにかく甘ったるい。しかもこちらを信頼しきったようなへにゃりとした笑みや、高めで蕩けるような声が容赦なく理性を削り取ってくる。ちょっとギャルっぽい快活さでありつつ蠱惑的な喋り方も最高です。
あと、一度身体を起こした彼女は胸から下を隠すように布団を纏っているが、その胸の大きさがとんでもないのだ。マジでデカい。いくら薄いとはいえ「ある」と分かるほどだ。直接見たい。記憶を探るのは彼女の名誉のためやめておくが、今すぐにでも思い出したい。
「い、一旦待ってもらってもいいですか?」
「うん」
でも待て。まずは状況を整理しよう。なんでこうなってしまったのか、転生した直後ぐらいから思い出して原因を探ろう。そして対策を立てるんだ。今後こういうことが無いように。そう。無いようにね。ダメだよほんと。付き合ってないのにそう言う事をするなんて。いや、やっぱりまだ付き合ってないよな?……いや「まだ」ってこれから付き合うと思ってるんか~いってな。ハハ。うん。ほんとダメだよ恋ヶ崎さん。って――。
「それじゃ、その間適当にご飯でも作るね?」
「あーちょっとストップ!!!!!ストーーップ!!!!!服!服着てください!」
「え~。昨日あんなに見たのに?」
「あんなに見たのにです!」
そう思っていると、服も着ないでベアトリクスさんはベッドを這い出し、キッチンへと向かおうとした。
ヤバいって。頼む。本当にちょっと待ってほしい。童貞には刺激が強すぎるから。あ、もう童貞じゃないんだった。でも昨日まで童貞だったヤツには刺激が強すぎるから。だから頼む!頼むってばぁっ!
と、とりあえずなんでこうなってしまったかを思い出すため、急いで記憶を探ります。




