プロローグ②
「あ~まだ終わってないよ~。っていうかハーレムダメなの、恋愛経験のチートを受け取るならだからね。他にも選択肢あるよ。それにそっちならハーレムもおっけ~!」
「おっ!」
そんな風に、死んだ時の感覚頼りに永遠の眠りへ就こうとした俺を続く言葉が引き留めた。いや~この人?神様?話が分かるな~。それならもうちょっと聞くぐらいいいかな。俺、死んでるからね。どうせこれから消えるだけだからね。多分。輪廻転生とか天国とか無ければだけど。
「お。それじゃ、もうちょっと私の話を聞く気になったかな?」
「はいっ!」
「お行儀良くて大変結構。それじゃ、続けるね」
「はい」
せっかくだから正座して背筋を正すと、にっこりした笑顔で褒めてもらえる。もっと話を聞く気が湧いてきた。我ながら現金だが、だって彼女は女神こともあってかめちゃくちゃに可愛くて美しい。
見た目の年齢は20歳ぐらいかな?そして愛の女神と言われれば頷けるような、見るからに愛の深そうなおっとり垂れ目の顔立ちだ。ウェーブがかかった長い金髪もツヤツヤさらさらで、太陽さながらの輝きと流れる水みたいな滑らかさを持っている。お肌も透明かと思うぐらい白くてしっとりしてます。さらに何より、着ているトーガの大きく空いた胸元へやたら視線が吸い寄せられてしまう。
だというのに、なぜだか彼女の言葉からは説得力がにじみ出ていた。なんとなくそう思うだけだけど、これ本当に異世界転生っぽい気がする。夢じゃなくて。つまり、恐らく目の前にいるこの存在は本当に神なのだ。
そんな存在から褒められたらまぁ、従いたくなっちゃうよね。うん。
「改めてだけど、キミは私の世界に転生する権利を得ました。そしてもし転生するなら能力が選べて、その際の選択肢は二つ。一つ目は、恋愛経験を積めば積むほど強くなって最後にはかなりなんでもできるようになるチートね。このなんでもっていうのはほんとになんでも。でもやっぱりハーレムだけは禁止。作ったら即没収で、もう一個あるチートで生活してもらうよ。あと、人の心を弄ったりとかもできないからそのつもりで」
「もう一つはなんですかっ!」
「うん。もう一個は遊んで暮らせるぐらいのチートだね。私の世界には結構強めの魔物が居るんだけど、そんな彼らと戦って基本的に負けないぐらいの力をあげる。魔物たちは強い分報酬も良いから、何回か冒険者ギルドで依頼をこなせばあとは人生アガりって感じになるはずだよ」
「おおっ!」
「まぁこっちでも人の心を弄ったりはもちろんダメだけどね。でも、奴隷とかならいくらでも買えるはず。おいしいものをお腹いっぱい食べたりもね」
「おおおっ!」
引き留めるだけあって、もう一つの選択肢は相当に魅力的だった。殆ど何の縛りも無く、ちょっと働けばその後は遊んで暮らせる。最高じゃないか。魔物が強めというのはそもそも転生するにあたって少し気になるが、まぁこの女神様が言うなら大丈夫なんだろう。あんまり悪いようにされそうな感じは今の所ない。なんなら無理矢理一個目で転生させることもできそうなのに選択肢くれてるからね。
「あ、でも一応奴隷は恋愛のチートを選んでも買って大丈夫だよ。まぁそれでハーレム作ったりひどいことするなら没収させてもらうけど。あと恋人とか好きな人が居る時は手を出したりしないでね」
「なるほど」
「さ、それじゃあどうする?あ、気になることがあったらなんでも聞いてね。ちなみに私の世界は、今はいわゆる中世ファンタジーって感じかな。剣と魔法があって、魔物が居て、みんながんばって生活してて――」
……とはいえ、本当に二個目でいいのだろうか。確かに自分が恋愛できる気はしない。俺は恋愛したことが無いどころか、人からまともに愛されたことだって無いのだ。多分きっと恐らく。
あ、というところでちょうどいいので自己紹介しておきます。恋ヶ崎伴です。恋ヶ崎とかいう冗談みたいな苗字ですが、これがマジなんだな。しかも下の名前も伴侶の伴って、上下合わせて恋愛しまくれっていう名前だよな全く。なのに両親、離婚したけど。しかも泥沼すぎる大喧嘩と離婚調停の末に。
さらに俺はそれから放置され、挙句病気になって一人で死にました。友達も、うまく作れなかったので。ちゃんちゃん。最悪の人生だったぜ。泣けるね全く。
……そんな経験があったからか、俺は結構な人間不信だ。今この瞬間こそ夢にまで見ていた異世界転生の喜びで舞い上がっているものの、普段通りになればこの気さくな女神様とだって怖くてろくに喋れないだろう。というか既に相槌ぐらいしかできてないけど。
だがだからこそ、いずれチートで無双できるという目標に向けて女の子と関わってみるのは、全く無しというわけではないのかもしれない。前世ではほぼ関わってこなかったこともあって難しいだろうが、どうせ運よく得た2度目のチャンスなのだ。これをきっかけにするのは悪くない。ダメで元々だ。そのはずだろう。
でも、前向きにそう考えても恐ろしいものは変わらず恐ろしい。もしまた同じことが起きたら、きっと前よりずっと辛い。やっぱり自分は誰からも愛してもらえない存在なのだと、今度こそはっきり分かってしまうから。生まれも、育ちも、環境も、何もかもが関係無かったのだと証明してしまうから。原因が本当に俺にしかないなら、そんなのは耐えられない。だって、他の色んなものが悪いことにしてきたから。そのはずだから。
とすればどちらを選ぶべきだろうか。あるいはこのまま、転生すらせず永遠の眠りに就いてしまうのが一番簡単かもしれない。そうだ。そうすれば、もう何も感じなくていい。これ以上苦しまなくて良くなるのだ。きっとそうだろう。自分が悪かったのではないかなんて、もう一瞬たりとも考えなくて――
「えっ。っ……」
「あ、ごめんね。びっくりしちゃった?」
気づけば、なんだかやたら安心する温かい身体に抱きしめられていた。マジでなんかめちゃくちゃ安心する。胸とか当たっちゃってるし良い匂いもするんだけど、安心しすぎてあんま気になんない。これが愛の女神の力か?ま、流石にちょっとは気になるんだけど。あ、すごい。なんか幸せな感じにもなってきた。ヤバい。待って。ムリ。なんだか涙がちょちょぎれます。
「……いえ」
「それとごめんね。ちょ~っと心の中覗いちゃった。でも、もうしないからね」
彼女の行いはプライベートの侵害甚だしいが、不思議とそれは気にならない。落ち込んでいく所を引き留めてくれたからだろうか。あるいはずっと、まさしく心を読まれてもいいからこうされたかったからだろうか。もしかすると、心を覗いた挙句そう思うように弄ったりしているのかもしれないけど。
「……大丈夫です。っていうか、そんなことできるんですね」
「うん。さっきも言ったけど、一応全能だからね。あ、でもこのハグはただハグしてるだけ。まぁ愛の女神だから何も、いわゆるパッシブが無いわけじゃないけど、追加で力を使ったりはしてないよ」
「……はい」
人の事を信じられないからか、あるいは俺が愛される価値の無い最低な人間だからか分からないが、正直この期に及んで彼女に嘘をつかれたりしていないかと邪念も湧く。だって、優しすぎる。こんな優しい人、短い人生の中で出会わなかった。それに、本当に全能ならきっと、俺の心を好きなように変えられるはずだ。
でも、それくらい全能なら俺を騙す必要なんて無いのだろう。もしかしたら何か制限でもあって、俺にさせたいことがあるとかもありえるけど。
だとしても今は、言われた事を素直に信じられた。あと、もう一つ思うことがある。これが誰かから愛されるってことなのかもしれない。この温かく満ち足りた感じこそが、愛情なのかもしれない。というかそうだと信じたい。そしてもしそうなら、頑張ってみる価値は、ひょっとしたら、万に一つの割合くらいではあると思える。だって本当にびっくりするくらい温かい。危険ではないかと分かっていても、いずれ両親みたく崩壊してしまうかもしれないと思っていても、求めてしまうぐらいに。本当に落ち着く。あとすごく嬉しい。
「もう大丈夫です」
「そう?またして欲しくなったら言ってね。いつでも大丈夫だから。あ、転生した後でもおっけ~だよ」
「はい」
そんな風に思ってしまうくらいのことをされたというのに、記憶を遡っても指で数えられるほどしかされた覚えのないハグをされたというのに(しかも、こんな美少女から!)、この女神様に対して恋愛っぽい感情を抱けないのも何やら騙されていないという説得力があった。利用するつもりなら多分そういうのも掻き立てられてるよな。
とはいえやっぱり未だに少し懸念があるから、落ち着いたのもあって一回離れ、興味が出た「もう一つの選択肢」について色々聞いてみることとする。




