第8話 魔族の子供を見逃したらフラグだった
※キャラクター一覧は活動報告に掲載しています。
王都の城門を出てほどなくの街道の入口。
一台の魔車が停まっていた。
いや――正確には荷車ではない。
ターニャが腕を組んで眺めている。
「これが魔車、てやつ?」
グラムベルクが得意げに顎髭を撫でた。
「荷車の車輪を改造してある」
「風車の羽を組み込んで、風魔法で直に回す仕組み」
「らしい…」
ターニャが首をかしげる。
「らしい?」
グラムベルクが呟く。
「まあ、アリソンの設計なんだが・・・」
ミレイアも車輪を覗き込む。
「機械で回転を作ってるのね、不思議…」
ルナシールドも静かに頷く。
「エルフの森でも見たことないですね」
アリソンは車体の側面にはめ込まれた青い石を見る。
魔石。
魔力を蓄える鉱石だ。
(つまり……バッテリーだな)
心の中でそう呟く。
グラムベルクが胸を張る。
「バルグラン産の魔石が魔力を供給する」
「アリソンの魔法陣がそれを制御する」
「この魔車は共同開発ってことだ」
苦笑いしながら、アリソンが魔法陣に魔力をそそぐ。
「制御術式、起動っと」
魔石が淡く光る。
風車車輪が回り始める。
そして、魔車が静かに動き出した。
揺れがほとんどない。
滑るように進む。
「おお!」
グラムベルクが笑う。
「いいぞ!」
ターニャが荷台に飛び乗る。
「思ったより速いじゃない!」
見る見る間に、学院の塔が遠ざかる。
西の大森林へ向かう旅が今、始まった。
数日後。
街道沿いの宿場、リーデン村が見えてきた。
木造の家が立ち並ぶ、古くからの中継地だ。
グラムベルクが言う。
「この先はすぐ森になる」
「ここで色々と補給していこう」
まず一行は村の食堂に入り腹ごしらえ。
テーブルに郷土料理が並ぶ。
パン。
煮込み肉。
野菜のスープ。
ルナシールドがパンを手に取る。
「人間の食事は火を通したものが多いですね」
「そうね、そのほうが美味しいでしょ」
ターニャが答える。
「エルフはどうなの?」
「果実や木の実、そして香辛料」
「森の恵みです」
「…」
ルナシールドは小声で言う。
「でも、王都での食事はいつも楽しみにしてるんです」
グラムベルクは豪快に骨付き肉を持ち上げる。
「何といっても肉だ!」
「肉と酒があれば他は何も要らん」
ターニャが笑う。
「私も肉! 脂身多めで」
テーブル上は早速、文化の違いで盛り上がる。
その時、宿屋の主人が近づいてきた。
「旅人さん、森へ行くのかい?」
「その予定です」
アリソンが答える。
主人の表情が曇る。
「最近、このあたりの魔獣が増えていてね」
「村があちこち襲われてるんだ」
ルナシールドの目が鋭くなる。
「やはり……」
翌日。
森へ続く街道沿いに魔車を進ませる一行。
「あれ何かしら?」
ターニャが立ち上がり、前方に目を凝らす。
「黒い煙、嫌な予感がする…」
「急ごう!」
アリソンは魔車の速度を上げる。
ほどなくして、煙の立ち上る村の入口。
魔車を急停止。
全員で駆け込む。
そこには――
ゴブリンの一群。
村人が逃げ惑っていた。
「魔獣だ!」
最初に動いたのはミレイア。
手をかざしながら、間合いを詰める。
「重力場!」
空気が歪む。
重力に押し潰されたゴブリンの骨が軋む。
魔獣の足が地面に張り付く。
「ターニャ!今だ」
火炎陣を仕込んだ剣。
「任せて!」
間髪入れず、ターニャが放つ。
巨大な火球は、一瞬でゴブリンを焼き尽くす。
(この2人、相性バッチリなんだよな… 戦闘は)
あっけなく終わった。
と思った瞬間、物陰から影が飛び出した。
小さな角。
まだ幼い魔族の少年がこちらを凝視している。
従えていた一体のゴブリンは既に森の中へ。
ターニャが剣を向ける。
「魔族!」
少年は足がすくんで動けないように見える。
アリソンが言う。
「ちょっと待つんだ」
ターニャが振り向く。
「何言ってるの?」
再度、少年を見る。
ぼろぼろの粗末な服。
背負った袋から干し肉が落ちた。
(村の食料を盗みに来たのか)
少年は震える声。
「……殺すなら殺せ」
アリソンは言う。
「飢えているだけだ」
「…」
ターニャが苛立つ。
「魔族は敵でしょ!」
アリソンは首を振る。
「僕らは調査隊だ。軍じゃない」
少年は信じられない顔をする。
「なぜ見逃してくれる?」
アリソンは答える。
「君はもう戦う気はないんだろ。なら必要ない」
少年の視線が魔車に向く。
目を見開く。
「そんな大きな魔石……」
「どこで手に入れた」
グラムベルクが笑う。
「企業秘密だ」
少年はしばらく迷った。
そして走り去る。
森の入口で振り返る。
「借りはいつか返す!」
そして影のように消えた。
騒動が収まり、村人が少しずつ集まってきた。
「助かりました…」
「何があったんだ?」
アリソンは静かに聞く。
「最近、森がおかしい」
「魔獣がどんどん増えているんだ」
ルナシールドが西を見る。
大森林の方向だ。
「魔石の影響…ですね」
アリソンは懐中時計を取り出す。
秒針が刻む。
Tick、Tick、Tick、Tick…
「観測が必要だ」
森の奥。
見えない場所で、魔力が揺らいでいた。
世界の均衡が、静かに崩れ始めていた。




