第7話 エルフとドワーフが技術を見に来た
学院長室は今、重苦しい空気に包まれている。
机の前に立つ長い銀髪の女性がその原因。
その長い耳が、人間ではないことを示していた。
「西の大森林に異変が起きています」
静かで、そして力のある声。
「原因に心当たりは?」
「森の中心にある巨大魔石」
「その力が弱まっているからです」
張り詰めた空気を緩めるように、女性は話題を変える。
「自己紹介がまだでしたね」
アリソンに目を向ける。
「私はルナシールド」
「西の大森林を治めるエルフ評議会より派遣されたものです」
アリソンは学院長の隣に移動する。
「はじめまして、僕の名はアリソン・クロノス」
「本学院の学生です」
そして、
「ただ、なぜ僕がここに呼ばれたのか…」
学院長が切り出す。
「アリソン、まずは何も言わず彼女の話を聞いてくれ」
「これは彼女が希望したことなんだよ」
ルナシールドが一歩前に出る。
その口調には若干の焦りがにじむ。
「先ほどお話した魔石ですが」
「これは1000年以上にわたり森に魔力を供給し続けてきました」
「それが突然、力を弱めたため森全体に異変が生じています」
「森はエルフにとって無くてはならない存在です」
学院長はゆっくりとアリソンに視線を向ける。
「彼女は魔道会での君の活躍に目をつけ、意見を聞きたいそうなんだ」
アリソンは丁寧に事実を確認する。
「魔石の出力低下…ということでいいですか?」
「はい、おそらく」
ルナシールドは答える。
「そして私たちが精霊と呼んでいる」
「つまり森を循環する魔力量が減少しています」
アリソンは少し考えた。
「それらを観測したことは?」
「いいえ、精霊の流れは感覚的なものなので…」
アリソンの直観が反応する。
「測定できれば原因がわかるかもしれません」
ルナシールドの視線が鋭くなる。
「魔力を測る?」
「そんな術式は聞いたことがありません」
「なら、作ればいい」
学院長の目が輝く。
「その気になってくれたようだな」
アリソンはハッと我に返る。
(あ、なんか乗せられちゃったのかな…)
その時。
部屋の外から騒がしい足音が聞こえてくる。
慌てた様子の職員が扉を開ける。
「学院長!」
「西の街道の村から報告です」
「森の近くで魔獣が急増していると」
部屋の空気に緊張が走る。
「いくつかの村が襲われています」
皆の表情が硬くなる。
「これも魔石の異常が原因かもしれんな」
その時。
「話は聞かせてもらった!」
扉を開けるやいなや小柄な男が部屋に入ってくる。
いや、背は低いが小柄とは言えない、がっしりした体格。
赤銅色の髭。
分厚い腕。
腰には工具袋。
ドワーフだった。
「北の迷宮国家バルグランより来た」
「グラムベルクだ」
商人特有の笑みを浮かべる。
「何かを作るって聞こえたぞ!」
彼もアリソンに興味を抱く一人だ。
「俺も一口のらせてくれ」
「魔道具にして量産するってのはどうだ?」
ルナシールドが割って入る。
「森を商売にすることは許さない」
グラムベルクは肩をすくめた。
「森が死ねばこの大陸の魔力流が乱れる」
「迷宮も他人ごとではないんだ」
それは事実だった。
どこかが崩れれば、どこかに影響が出る。
「つまりだ」
学院長は皆の顔を見渡す。
「これはエルフからの依頼だが」
「ドワーフも技術の可能性を見ている」
「そして…」
「アリソン、君はどうしたい?」
アリソンは答える。
「原因を突き止めてみたいです。」
そして、昨日のことを思い出す。
「ただ、一つ報告があります。」
「なんだね?」
「軍からスカウトがありました」
皆の視線が集まる。
「でも断りました」
静かな声で続ける。
「まだまだ知りたい事が山ほどあります」
「そして、魔法理論を研究したい」
学院長は目を閉じ、ゆっくりと言う。
「軍は簡単にはあきらめんだろうな」
アリソンもわかっている。
「ならば、学院として調査隊を派遣する」
「研究目的の調査だ」
「もちろん、軍とは無関係だ」
ルナシールドが驚いた顔をする。
「許可いただけるのですか?」
「条件付きだ」
学院長は続ける。
「期限は3ヶ月」
「それまでに原因を明らかにすること」
「参加者は…」
そのとき扉が開き、ターニャとミレイアが飛び込んでくる。
「当然、私も行くわ!」
ターニャは腕を組みアリソンを見る。
「私の魔力が必要でしょ!」
ミレイアも興奮気味に言う。
「私も同行する!」
「エルフの魔術に興味があるの」
グラムベルクが豪快に笑う。
「こいつは面白そうだ!」
「俺も行こう」
「現地で試作して即量産だ!」
学院長は微笑む。
「では決まりだな」
そして最後にあらためて言う。
「西の大森林へ行き、原因を突き止めてこい」
この時はまだ誰も知らなかった。
森で増え始めた魔獣。
そして南の荒野で動き始めた魔族。
そのすべてが、
やがて一本の糸で繋がることを。
第1章 完。
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