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第6話 理論で魔物を倒した結果、軍に目を付けられた

魔道会から三日。

学院の熱はまだ冷めていなかった。

「凄かったよなー、あの荷車の走り」

「あのトロールを倒したヤツ、たしか学生食堂で見たぜ」

アリソンは熱い視線を感じながら、一人廊下を歩いている。

「さすが優勝者は人気者だね」

気さくに話しかける声。


声の方に振り向くと、そこにいたのはミレイア。

長く伸びた金色の髪、整った顔立ち。


挿絵(By みてみん)


これまで学院の優等生として近づき難かった彼女。

それが今では対等の関係。

「体の調子はどう? 表彰式も欠席だったよね」

「もう大丈夫、君もケガしてなかった?」


そのとき、柱の陰から冷ややかな視線。

ターニャだ。


ミレイアは続ける。

「今度、中庭であなたの魔法陣を見せてくれない?」

「あなたの考え方、興味があるんだ」

「なんで僕なんかの?」

「だってあなた面白いんだもん」

「面白い?」

「えーそうよ。荷車もトロールのときも普通じゃ考え付かない発想だもん」

アリソンは少し考える。

「まあ、見るだけなら…」

ミレイアは楽しそうに笑った。

「決まりね!」


その様子を見ながら、ターニャは心のなかでつぶやく。

(何よ。私はずっと横で見てきたのにさ)

無意識に手に持った杖を強く握りしめる。

そして、一人になったミレイアに駆け寄る。

「あなた、アリソンに近すぎ!」

「なんで? ただ興味があるだけよ?」

「それが問題なのよ!」


この光景を遠くから見つめる軍服すがたの男。

ターニャの父。

だが、その視線はアリソンに向けられている。

(再生魔獣を止めた少年・・・)


ー学院 中庭ー

その日の昼休み。

アリソンは中庭の石畳の上で小さな魔法陣を動かしている。

「これがあなたの魔法陣?」

ミレイアが覗き込んでくる。

「うん、簡単な制御を試してるとこ」

アリソンは小さな魔石を置く。

「これで起動」

魔法陣が淡く光り、空中に小さな風の流れが生じる。


ミレイアは目を見張った。

「風の強さが一定に保たれてる…?」

アリソンはさらにいくつかの小石を並べる。

「この位置まで動いたら止まるんだ」

小石は順番に動き、すべて同じ場所でピタリと止まった。

ミレイアの表情が驚きに変わる。

「嘘でしょ…」


彼女は魔法の天才。

だからこそ、何でもないこの小石の動きが実は尋常でないことを理解できる。

「これもしかして、条件によって動きが変わる仕組みなのかな」

「魔法をその…、設計してるってこと?」

アリソンは作業の手を動かしながら答える。

「その方が再現性が高いだろ」


ミレイアはしばらく呆然、そして笑い出す。

「やっぱり、あなた面白いわ!」

立ち上がる。

「決めた」

アリソンの顔に近づく。

「私もやりたい」

「?」

「あなたの魔法、研究させて」

「なぜ? 魔法陣の講義は学院でやってるだろ」

ミレイアは即答する。

「魔法理論が変わる気がするの」


真剣な眼差しに変わる。

「今の魔法は伝統と感覚が重視されてきた」

「でもあなたは違う」

「魔法を理屈で作ってる」

「そんな人、初めて見たわ」


そして微笑む。

「それを見逃すほど私は馬鹿じゃない」

アリソンは頷いた。

「わかった、そこまで言うなら」

ミレイアは手を差し出す。

「ミレイア・ローディスよ」

握手。

「アリソン・クロノスだ」

それを物陰から見ている姿があった。

ターニャである。

(私の方がずっと隣にいたのに…)


ーターニャの実家ー

シュトラール家の屋敷は王都内の軍区画にある。

書斎の扉を開けるなり、ターニャは声をあげる。

「お父さん、私優勝したのよ!」

父は書類から顔を上げる。

「聞いているよ、よくやったな」

「私の魔力がなければ、あの魔法陣は動かなかったんだから」

誇らしげに胸を張る。

父は立ち上がり、娘の頭に手を置いた。

「頑張ったな」

短い言葉だが、胸が満たされる。


しかし次の瞬間、父の目が少し変わる。

「ところで……あの少年は、偶然ではないな」

「アリソンと言ったか」

部屋の空気が静まる。

「どういう意味?」

「南の魔族は再生する魔獣を前線に出してくる」

「今このときも、王国兵は苦戦し続けている」

軍人の言葉だ。


「魔獣の再生を止められる技術は、戦場を有利にできる」

ターニャの指が強張る。

「アリソンを利用するってこと?」

「軍は放ってはおかんだろう」

ターニャは父の視線から目を背ける。

「アリソンは兵器じゃない」

「わかってる。でもこれは人を救うことになる」

沈黙。

父は静かに続ける。

「最終的に選ぶのは彼自身だ」

正論。

ターニャの胸中は、大きな不安と少しの誇らしさが複雑に絡む。

(もしアリソンが軍を選んだら、私は応援できる?)


ーアリソンの実家ー

街外れの工房。扉を開けると、規則正しい音が聞こえてくる。

「Tick、Tick、Tick、Tick…」

父は机に向かい、小さな部品を組み合わせる。

壁一面に並ぶ様々な時計は、すべてこの父の作品だ。

「帰ったか」

「父さん、ただいま」

「優勝したらしいな」

「そうみたいだね」

父は嬉しそうに笑う。


そしていつもの口癖がはじまる。

「だが魔法は当てにならん」

机の上の時計に手をあてる。

「この時計のように正確でなければならんのだ」

振り子が一定の幅で揺れる。

一秒ごとに針が進む。

「狂いには必ず原因がある。見つければ直せる」

この父の考え方はこの魔法の世界では、異質なものだろう。


父が銀の懐中時計を差し出す。

「これを持っていきなさい」

「僕に?」

「基準は大切だ。何かを観測するにはまず正確な時間が要る」

蓋を開いてみる。

「Tick、Tick、Tick、Tick…」

一定の間隔がここちいい。


そのとき奥から母が顔をだす。

「お帰りなさい、アリソン」

柔らかな声。

「なんだか顔つきが変わったみたい。疲れているの?」

(母親は鋭いな…)

アリソンは首を傾げる。

「そうかな?」

心配そうに笑う。

「どこか遠くに行ってしまいそう」

母の胸に小さな不安が芽生える。


外で馬の止まる音。

ノック音。

父が窓の外を見る。

「軍だな」

「時計の依頼かな?」

父は小さく首を振った。

「魔道会の優勝者に用事だろう」

母の指がわずかに震える。


「Tick、Tick、Tick、Tick…」

時間だけが、正確に進んでいた。

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