第5話 再生するトロールをデバッグしてみた
「どうやったら倒せるんだ」
再生する魔獣、トロール。
競技場内ではあらゆる魔法を駆使して攻撃は続いている。
「だめだ、魔力がもたない!」
「一度引け!」
各班が次々と後退するなかで、アリソンは尚も考えをめぐらしている。
(再生速度にばらつきがある……?)
腕の再生はとても速い。
一方で腹部はわずかに遅れる。
剣撃よりも魔法ダメージのほうが回復が鈍い。
そして…
地面に滴り落ちた血が、時折光って見える。
(あれは一体…)
その一点に意識を集中する。
「血が魔力を帯びているのか?」
傷口。
血液。
魔力。
再生の仕組みに関係がある。
しかし、まだ確証が足りない。
(もっと近くで見たい!)
必要なのは――大量出血。
アリソンは静かに言う。
「僕が囮になる」
「その隙に、ヤツの背中をできるだけ大きく斬ってほしい」
ターニャは目を合わせない。
「正気なの?」
「今の魔力で懐に入ったら、死ぬわ」
ターニャは正しい。
今の魔力残量で防御陣は発動できない。
トロールの攻撃を食らえば致命傷だ。
それでも、
「もうこの方法しかないんだ!」
理屈ではない。
ターニャの目が訴える。
「もし私が外したら…、本当に死ぬよ」
「外さないよ。君はね」
一瞬で二人の覚悟が通じ合う。
次の瞬間、アリソンは全力で走った。
どんどん近づいてくる。
腐臭。
熱。
風圧。
砕け散る地面。
その衝撃がかすめるだけで、体が萎縮する。
防御はない。
(滑り込め!)
「今だ!」
ターニャが背後に回り込む。
だがその瞬間、トロールの腕が横薙ぎに振られた。
鋭い爪の衝撃がターニャの背をかすめる。
「っ!」
布が裂け、赤い線が走る。
「大丈夫よ!」
次の瞬間―― 炎を纏った刃がトロールの背中を深々と裂いた。
トロールの血が噴き出す。
空中の黒い血、その一部が―― ターニャの体にも降りかかる。
その瞬間、彼女はわずかに眉をひそめた。
「……?」
違和感。
体の奥で、魔力がざわめくような感覚。
だが考えている余裕はない。
そしてアリソンは地面を覆う血溜まりの中に発見する。
「動いた!」
血が、その滴が生き物のように蠢き描く。
円。
分岐。
接続点。
偶然ではない。血液が魔法陣の形を成している。
構造は単純。
でも、何をしているかはわからない。
(起きている事実から逆算するんだ)
ならば、
「再生を反転させるには」
アリソンは膝をつく。
震える指で地面に線を引く。
即席の反転陣。
歪む線。
視界がぶれる。
「逃げて!!」
ターニャの叫び。
巨大な拳が振り下ろされる。
その間際――
血で描かれた魔法陣とアリソンの反転陣が重なる。
(繋がった)
「…?」
辺りの空気が一変。
トロールの動きが止まる。
再生しかけた肉が崩れ落ちる。
トロールの動揺の声が響く。
「…ガッグ、グオー!!」
巨体は崩れ落ちた。
静寂に包まれる。
土煙の中、アリソンは膝をついたまま動かない。
ターニャが駆け寄る。
「勝ったの?」
「……うん」
力なく笑う。
「バカ。大バカ……っ。怖かったんだから」
その言葉を最後に、アリソンの意識が落ちた。
次の瞬間、競技場は爆発するような歓声に包まれる。
ー王国軍席ー
「今何が起きた?あのトロールが一瞬で倒されたように見えたが」
「戦術転用可能です」
准将の目が変わる。
ーエルフ席ー
ルナシールドは静かに呟く。
「あの少年が何かの魔法陣を発動させていた」
「しかも一瞬で…」
ー学院長席ー
老いた瞳が細められる。
「ベレント教授が言っていた少年、アリソンか」
「面白い」
崩れたトロールの血痕は、反転とともに消えた。
だが――
アリソンの脳裏には、あの幾何学模様が焼き付いている。
(世界のソースコードが……一瞬、見えた)
物語は世界に向けて動き出す。
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