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魔法設計士 ― この世界にバグゼロを!  作者: 有松
第5章 迷宮深層 ― 世界の源へ
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第41話 後継者の不在


白鹿がこの世を去ってから三日。

静かなはずの森に妙なざわめきが残っていた。

エルフの里の広場。

長老の一人が静かに口を開いた。


「シュトラールの娘よ」


ターニャは姿勢を正す。


「守護獣は死の直前、あなたに言葉を残した」


周囲のエルフたちが静かに頷く。


「それは偶然ではない」


長老はゆっくり続けた。


「あなたには守護獣の後継者となる資格がある」


ターニャは目を伏せる。

白鹿の声。

あの時、確かに精霊の言葉が届いた。

だが。


守護獣。

千年、森を守ってきた存在。


その代わりが自分に務まるとは思えなかった。

思えるはずがなかった。


しかし、エルフたちの前で即座に拒絶するのも失礼だ。

ターニャは小さく息を吐いた。


「…考えておきます」


長老たちはゆっくり頷いた。


「急ぐことはない」

「森もまた、答えを待つだろう」


話し合いは終わった。


アリソンとターニャはエルフの里に滞在している。

守護獣の後継者問題に結論を出さなければならない。


ターニャは肩の力を抜いた。


「はぁ……」


アリソンが隣を見る。


「大変だよな」


「ほんとだよ…」


ターニャは頭を抱えた。


「守護獣とか……」

「私、ただの学生なんだけど」


ターニャが小さく笑った。


「そういえばさ、前に約束したよねランポイ!」


「ああ、そうだったな」


王都の学院で、男女が二人で出かけることをそう呼ぶ。


「今日、行こうよ」

「ちょっと大人っぽく、酒場なんてどう?」

「リーデン村にお店あったよ」


アリソンは少し躊躇した。


「いいのかな、こんな時に」


「たまには息抜きしないと!」


ターニャはにやっと笑う。


「それに」

「もう守護獣のことから現実逃避したいよ!」


「ターニャってさ、ほんと正直だよな」


「でしょ?」


二人はエルフの里を出て、リーデン村の小さな酒場へやってきた。

木の扉を開けると、暖かい光と騒がしい声が溢れていた。

ターニャは少し緊張した表情で言う。


「…なんか大人っぽい雰囲気ね」


「酒場だからな」

(俺たち未成年だけど)


二人は席についた。

店主がテーブルにジョッキを置く。


「お若いの、ほどほどにしときなよ」


ターニャは恐る恐る口をつけてみた。


「……苦い」


「酒だからな」


だが数刻後には5杯のジョッキを空けていた。

ターニャはテーブルに肘をつく。


「ねえアリソン」


「うん?」


「守護獣の話さ」


「うん」


ターニャはジョッキを持ち上げた。

そして突然叫んだ。


「絶対ムーリ!」


周りの客がチラリと見る。

ターニャのぼやきは続く。


「守護獣とか無理無理無理!」

「千年って何!?」

「あの森ずっと見てろって!?」

「しかも鹿だよ!?なんで鹿!?」


(だいぶ酔ってるな…)


アリソンは苦笑した。


「今朝は考えるって言ってたじゃないか」


「長老達の前だったから!」


ターニャは机を叩いた。


「本音はこれ」

「無理だって……」


ターニャは額をテーブルに押しつけた。


「話が大きすぎるよ……」


不意に顔を上げアリソンを指差す。


「だからアリソンがやって!」


「急に無茶言うなよ」


「だってアリソン!」


ターニャは勢いよく声を上げる。


「精霊通信作ったし!」

「だから守護獣の代わりもなれるでしょ!」


アリソンは腕を組んだ。

もし白鹿が精霊の流れを調整する存在だったなら。


(あれは流れを整えていた?)


「考えてみるか…」


アリソンは呟いた。

ターニャの顔がぱっと明るくなる。


「ほんと? ほんとに!」


「…」


「それじゃ、かんぱーい!」


そのとき。

隣の椅子に知らない女が近づいてきた。

女は勝手に椅子を引いて座り、酒を追加で頼んだ。


「続けなよ、その話」


背の低い、だががっしりした体格の女。

茶色の髪。

背中には大斧。

ドワーフだ。


女はターニャを見る。

酒臭い息。


「お嬢ちゃん、さっきから聞こえてたぞ」


ターニャが警戒する。


「何ですか」


女はニヤッと笑った。


「守護獣が怖いって?」


「当たり前でしょ!」


女は豪快に笑った。


「わーはっはっは!」

「世界守れとか言われてびびってる!」


ターニャはムッとする。


「あなたなら出来るんですか!」


女はジョッキを一気に飲み干した。


「できねぇ! やりたくもねぇ!」


女は次にアリソンを見る。


「そっちの兄ちゃん、何してる?」


アリソンは答えた。


「守護獣の代わりを考えてる」


女は眉を上げる。


「鹿の代わり?」


「ターニャがやれって言うからさ」


数秒の沈黙。

そして女は笑った。


「面白ぇ! 鹿人間か!」


彼女は立ち上がる。


「それじゃ頑張れよ」

「鹿人間!」


そう言い残し、女は笑いながら酒場を出ていった。


ターニャはあっけにとられる。


「なんだったのあの人」


アリソンはジョッキを置いた。

頭の中では思考が続いている。


(精霊の流れを調整する存在)


「生き物じゃなくていいのか……」


アリソンは呟いた。


「え?」


「守る存在っていうより、機能だ」


「機能?」


「流れを見て、ズレを直す」

「それだけなら――」


少し間があって。


「作れるかもしれない」


ターニャが首を傾げる。


「え?」


アリソンは言った。


「守護獣がやってたことを仕組みにする」


ターニャはニヤリと笑った。


「じゃあお願い、世界の修理!」


アリソンは苦笑した。

だが頭の中ではすでに設計が始まっていた。


それは、

守護獣という存在を――

必要としなくなる設計だった。

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