第4話 魔獣殲滅戦で“最小魔法”が最強だった
「なんだかドキドキしてきた、魔獣と戦うなんて初めてよ」
「僕だって模擬戦しかやったことない」
第三競技は全チーム同時参加。
制限時間内に出現する魔獣をできるだけ多く討伐する。
緊張をほぐそうとターニャの口数が増える。
「ドワーフやエルフも見に来てるし。すごく注目されてる」
「どんな魔獣が出てくるんだろ? ちょっと怖いよ」
「ターニャ、ちょっと落ち着きなよ」
強い魔獣ほど得点は高い。
スライム。
ゴブリン。
そして最後にトロール。
競技場の中央にある巨大召喚陣が淡く脈打つ。
「あそこから順番に出てくるんだ」
「最初は様子見でいこう」
「うん、わかった」
荷車レースの熱気が冷めきらぬまま、競技場の空気は戦場へ。
「最終競技、出場者入場!」
競技場に向かう列の中、ターニャがアリソンの腕を掴んだ。
「ちょっと!」
アリソンは足を止める。
「顔、真っ青よ」
「大丈夫、平気だ」
「平気には見えない」
荷車競技で集中力を擦り減らし、魔力も極限まで使った。
ターニャが心配そうに聞く。
「魔力、あとどれくらいなの?」
アリソンは一瞬ためらう。
「…1割くらいかな」
「っ! 1割?」
思わず声が大きくなる。
周囲の生徒が振り向く。
ターニャは慌てて声を落とす。
「スライムは何とかなっても、ゴブリン、トロールだよ?」
「分かってる」
「分かってないよ!」
アリソンが顔を近づける。
「前半、僕は後衛で回復につとめる」
「だから前衛はターニャに任せたい」
「でも、たった1割で?」
「最小限の動きでなんとかするから」
ターニャは唇を噛み、目線を下げる。
「やっぱり棄権しよう?」
その声は小さかった。
でも真剣さが伝わってくる。
「今ならまだ間に合うよ」
「それはできない」
ターニャが睨む。
「なんでよ!」
アリソンは召喚陣をじっと見つめ続ける。
「この目で確かめたいことがあるんだ」
「何を?」
「トロール」
ターニャは首を振る。
「ただの魔獣だよ」
「違う」
アリソンの声が低くなる。
「再生の仕組み」
ターニャの顔が困惑する。
「また難しいこと言ってる」
「もし僕の想定が正しければ…」
言葉が止まる。
まだ確信がない。
「無茶しないでって言ってるの」
ターニャの声が震える。
召喚陣が強く光りだす。
もう時間はない。
ターニャは深呼吸して声を強める。
「じゃあ約束して」
「…?」
「トロールが出てくるまで無理しないで」
「わかった?」
アリソンは一瞬考える。
「…うん、無理しないよ」
嘘ではない。
でも先のことはわからない。
ターニャもそれは理解している。
「嘘ついたら殴るから」
「じゃあ、もし勝てたら」
「それでも殴る」
二人に小さな笑顔が戻る。
次の瞬間ーー
「第一波召喚、準備完了!」
場内アナウンスが響いた。
ー王国軍席ー
「今年は魔獣どもを順番に放つのだな、段階式か」
白髪の准将が呟くと、若い将校が答える。
「はい。弱小から始めて徐々に強くしていきます」
「ただし、強い魔獣ほど高得点とのこと」
「どんな配点だ?」
「スライム一体につき1点。これが百体。ゴブリンは10点で十体」
「そして最後に――トロール100点が一体」
准将が目を細める。
「トロールだけで勝敗はひっくり返るな」
「ええ。しかし、ご存じのようにトロールは厄介です」
ードワーフ席ー
「トロールだと?」
太い腕で赤い髭をなでながら場内を見渡す。
若いドワーフは頷く。
「体の中心にある核を潰さないと再生しますね」
「火属性は有効だが、魔力がもつかどうか」
赤髭のドワーフはニヤリと笑う。
「若造どもがあれを削りきれるか見てやろう」
ーエルフ席ー
若いエルフが言う。
「このような見世物にどんな意味が?」
「早く用事を済ませてはいかがでしょうか」
エルフ使節団はある目的を持って王都にやってきた。
「待ちなさい。この戦いに少し興味があります」
ルナシールドの眼差しは、ある少年に向けられている。
「再生個体は焦りを誘う。今度は何を見せてくれる?」
場内のすべての視線が召喚陣に集まる。
「第一波――スライム召喚!」
召喚陣が青く発光。
そこから半透明の塊が次々に出現する。
大小合わせて100体。
粘液が地面を這う嫌な音が伝わる。
「1体一点だ、数を稼ぐぞ!」
どこかの班が声を上げる。
そこら中で火球の連射がはじまる。
雷撃がつらなる。
やみくもに放たれた範囲魔法はスライムの粘液を飛び散らせる。
その粘液が自分たちの足を絡めとるとも知らず。
アリソンとターニャは後方で戦況を見守る。
「敵味方が入り混じってる。前線は危険だな」
「次のゴブリンの準備をしよう」
「わかったわ。魔力がもったいないもんね」
アリソンは足元に小型陣を展開。地面に淡い光の輪が広がる。
「ここにゴブリンを誘い込んで動きを封じる」
「そこをターニャの剣で焼くんだ」
「そんなにうまくいくかしら?」
「やつらは知能がある」
「本能的に魔力が弱ってる人間を狙うはずだ」
「つまり…僕をね」
最後のスライムが倒され、息つく間もなくアナウンスが流れる。
「第二波――ゴブリン召喚!」
緑の影が走る。
短剣、棍棒。
予想以上に素早い。
「こっちに来るわよ!」
ターニャが迎撃に出る。
だがアリソンは手を上げてそれを制す。
「まだ動かないで。こっちに誘導する」
二人の足元から伸びる薄い光の壁。
アリソンが仕掛けた防壁陣だ。
ゴブリンが走る。
防壁にそって進路を変えさらに走る。
気付かぬままターニャの目の前でひしめき合って密集。
混乱。
「ターニャ、今だ!」
アリソンが防壁陣の向きをずらし、防壁の一点に攻撃スペースが開く。
そこへターニャの火刃が閃く。
一撃で数体のゴブリンが火に包まれる。
無駄撃ちはない。
観客席の空気が変わる。
ドワーフが腕を組む。
「集団のゴブリンはかなり手ごわい。それがこうも簡単に…」
エルフ席でルナシールドが目を細める。
「防壁が生き物のように動いていた。エルフにもできる者は少ないでしょう。」
一方、競技場の中央。
他班は乱戦。
ケガ人、魔力枯渇者が出始める。
アリソンの視界が揺れる。
(残り……5%)
耳鳴り。
一瞬、制御陣の線が二重に見えた。
だが制御は崩さない。
「無理してない?」
周囲を警戒しながらターニャが小声で言う。
「ぎりぎり予定内かな。」
嘘ではない。
最後のゴブリンが倒れ、鐘が鳴る。
得点表ではアリソン班がかろうじて首位を維持。
しかし、他班との差は縮まっている。
「いよいよだな」
准将が呟く。
中央召喚陣が紅く染まる。
地面が低く唸る。
空気が重くなる。
「第三波――トロール召喚!」
一体の影が立ち上がる。
三メートルを超える灰色の巨体。
恐ろしく裂けた口。
低い唸り声。
「…なんて大きさ」
ターニャが息を呑む。
その場の皆が立ちすくむ。
誰もが気後れする中、天才たちが動いた。
「私の重力魔法で拘束します!」
ミレイアが手をかざした瞬間、トロール周辺の空気が重く沈み、その片膝が地についた。
「もらったぞ!」
エドワルド班の集中砲火。
巨大な火柱がトロールに炸裂。
場内は大歓声。
誰もが勝利を確信した…
しかし、
火と煙の中で再生したトロールの腕が、非情にも学生達を叩き飛ばす。
火柱はかき消え、吹き飛ばされたものが地面を転がる。
「回復班を呼べ!」
歓声は一転悲鳴に変わる。
混乱の中、アリソンの視線はトロールの再生部を静かに観測していた。
(…渦?)
「なんだ?あの傷口は」
そしてアリソンの顔は小さく笑っていた。
「再生構造をハッキングしてやる」




