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魔法設計士  ― この世界の魔法、全部バグってます  作者: 有松
第4章 避けられぬ戦い ― 代償の始まり
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第39話 暴走する竜


「完全に空を取られてる」


ミレイアは森の外縁に沿って魔車を走らせていた。

その上空を帝国の竜騎兵隊が旋回している。


「ここも危ない!」

「巻き込まれないように急ぐわ」


森林南端に展開していた王国軍が焼き払われた。

兵士たちは森の奥へ逃げ込んでいく。


(竜が森まで来ている…)

(あの魔族の将軍に騙されたのか?)


「森の魔石は…」


その時だった。

一頭の竜が森の上空で急に動きを止めた。

ミレイアが身を乗り出す。


「……あれは?」


次の瞬間――

竜が何かに怯えるように、暴れだした。

背に乗っていた竜騎兵が暗い森へ投げ出される。

帝国兵士の叫び声が夜に響いた。


ターニャが息を呑む。


「落ちたわ……」


これをきっかけに他の竜でも次々と同じことが起きる。

竜が暴れ騎兵を振り落としていく。

だが――


一頭の竜だけは様子が違った。

巨大な赤竜の背。

その首元に黒い軍装の騎士がしがみついている。

イリスだった。

赤竜は暴れ空に向かって炎を撒き散らす。

だが彼女は必死にくらいつく。


彼女は赤竜の角を掴み、なんとか体を密着させていた。


「竜よ、静まれ!」


低い声で命じる。

イリスはさらに力を込めた。

脚で鱗を挟み込み首筋にしがみつく。


「聞け! 私はお前の主だ」


だが――

竜の瞳は彼女を見ていなかった。


(……聞いていない)


炎の力がその体内に蓄積されていく。


「ダメだ! そこは…」


しかし次の瞬間、帝国軍の陣地が赤竜の炎に包まれた。

帝国兵が叫ぶ。


「一体どういうことだ!」


別の竜が砦の上空を旋回し炎を吐く。

砦の塔が崩れ落ちた。

帝国軍の兵士たちが逃げ惑う。


「竜が暴走しているぞ!」


さらに別の竜が、森へ逃げ込んだ王国軍の部隊に炎を吐く。

王国兵も帝国兵も関係ない。

竜はただ、怒りのままに暴れていた。


ターニャの目が不安で満たされる。


「ねえ、これって……戦争なの?」


アリソンは自分の無力さを感じながら空を仰いだ。


「何も止まってない」


その時だった。


「……何か来ます」


ルナシールドは森の奥を指さした。

小高い丘の斜面に動く巨大な影。

月明かりの中に浮かび上がる白い毛並み。


――森の守護獣、白鹿だった。


森が道を開いた。

白い影が歩み出る。


そして空を見上げる。

その視線は――

荒れ狂う竜ではなく空を見ていた。

それに呼応するように、白鹿の角が蒼く光り始めた。


ミレイアはこの光景を目にしながら呟く。


「白鹿の角、あんなに大きかった?」


その場にいた全員が記憶を探る。

かつて見た白鹿の角が今は倍の大きさに見える。

それは角が発する蒼い光のせいかもしれない。


ルナシールドが角の変化に気づく。


「右の角から強大な風属性の力が発せられています」


ミレイアも目を凝らす。


「左の角の間を見て! 雷の光が走ってるわ」


二つの力は空中で絡み合い、巨大な渦を生んだ。


 竜巻


次の瞬間、白鹿が地面を蹴る。

同時に竜巻が空へ放たれた。

その巨大な竜巻はたちまち竜を飲み込み、雷がその身体を貫く。


 ーーギャアーッ


竜が悲鳴を上げる。

空中で身体を引き裂かれ、自らの炎とともに地面に落ちる。


かろうじて一頭の竜が竜巻を抜け出し咆哮をあげる。

怒りに身を任せ白鹿に向かって急降下した。


白鹿は動かない。

竜が迫る。

地面を踏みしめた。


次の瞬間――

跳んだ。


白い閃光のような動きだった。

その角が竜の腹を深く切り裂く。

鱗が裂け血が夜空に散る。

竜が苦悶の叫びを上げた。

巨大な身体が地面に墜落する。


ターニャが目を見開く。


「……なんなのあれ」


アリソンはエルフの長老の言葉を思い出す。


「白鹿の本来の姿…」

「あの力でこれまで竜を退けてきたんだ」


白鹿は地面に着地する。

その角はさらに光を増し、空を切り裂き続ける。


 風

 雷

 竜巻


この戦いを森の奥から見つめる者たちがいた。

エルフの長老たち。

古代の魔道具――守護獣の目には白鹿と竜の戦いが映る。


「守護獣が戦ってくれている……」


長老が低く呟く。


「しかし…… 白鹿も老いた」

「かつて竜を退けたのは千年も前のことだ」


鏡の中では戦いが続いていた。


その頃。

帝国軍の観測所。

予想外の状況に副官が取り乱す。


「竜騎兵が暴走しています!」


カリウスの望遠鏡の先には暴れる竜。

そして――

白鹿を目にしてカリウスの表情が変わった。


「伝説の守護獣……」

「やはり来たか」


副官は望遠鏡越しの光景に目を疑った。


「赤竜の背にまだ殿下が!」


カリウスは即座に命じた。


「ゴーレム部隊を準備しろ」


「森に入るのですか?」


「イリス殿下を救出する」

「急げ!」


森の戦場では竜と白鹿の戦いが続いている。

しかし誰も気づかなかった。

白鹿の角。

その中心に――


音もなく、

小さなひびが走っていた。

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