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第35話 戦場のど真ん中へ行ってみた

「魔石を入れ替えるぞ」

ラムール湖の湖畔。

その岸辺で、グラムベルクが装置を分解していた。


アリソンが頷いた。

「半径千歩くらい必要だ」

グラムベルクが小さな魔石を一つ、また一つと組み込んでいく。

「魔石十二個でそのくらいだ」

「湖の実験よりだいぶ強いぞ」

ルナシールドが少し不安そうに言う。

「精霊への負担が大きいですね」

「短時間で終わらせる」

アリソンは言った。

「長く続けるつもりはない」


グラムベルクが装置を閉じた。

「よし」

「これで半径千歩だ」

アリソンは地図を広げた。

フクロウの観測で作った戦場図。

アル・ザハル砦。

そして中央の丘。

アリソンはその丘を指した。


「ここに装置を置く」

ミレイアが言う。

「戦場のど真ん中じゃない」

「そうだね」

アリソンは頷く。

ターニャが呆れた顔をした。

「正気なの?」

アリソンは静かに言った。

「でも装置が動きさえすれば戦場は止まる」

「魔道具も止まる」

「魔獣使役も途切れる」

グラムベルクが笑う。

「つまり、敵も味方も大混乱だ」

アリソンは頷いた。

「その混乱の間に離脱する」


そしてミレイアを見る。

「ことが終わった後、魔車で迎えに来てほしい」

ミレイアは目を細めた。

「無茶言うわね」

「丘じゃなくて、ここまででいい」

アリソンは地図の森を指した。

「戦場の外縁、ここで落ち合おう」

ターニャが言う。

「そこまでどうやって移動するのよ」


アリソンは肩をすくめた。

「思い切り…走る」

グラムベルクが笑った。

「そりゃ単純だな」

ターニャは深く息を吐いた。

「分かった、でも絶対戻ってきて」

アリソンは小さく笑った。

「約束しただろ」

懐中時計のことだった。


その夜。

魔車は森の道を静かに進んでいた。

遠くで砲撃の光が空を照らす。

アル・ザハル砦の戦場。

魔車は森の影で止まった。

「ここまでだね」

ミレイアが言う。


アリソンとグラムベルクは装置を降ろした。

ターニャが言う。

「本当に二人だけで行くの?」

アリソンは頷いた。

「人数が多いと見つかりやすい」

ルナシールドが静かに言う。

「精霊は見守っています」

グラムベルクが装置を担ぐ。

「行くぞ!」

二人は森の中へ消えた。


進むたびに、砲撃の音がすぐそこまで近づく。

そして、矢が頭上をかすめた。

二人は反射的に身を伏せる。

「おい、味方の矢で死ぬなんてごめんだぞ」

「あぁ、少し止まろう」

アリソンは木々の影から様子を見る。

王国軍の陣地。

魔法工兵隊が火力魔道具を撃ち続けている。

帝国側はゴーレムで反撃していた。

王国兵が火魔法を放つ。

爆発。

ゴーレムは崩れた。

だがすぐに別のゴーレムが現れる。

アリソンは目を細めた。

「……すごいな」


だがその視線は戦闘だけではなかった。

別のゴーレムが、倒れた兵士を抱えて後方へ運んでいる。

さらに別のゴーレムが荷車を押していた。

そして炎上した荷車に砂をかけるゴーレムもいる。

グラムベルクが低く言う。

「ほう、大した働きだ」

アリソンも頷いた。

「戦闘だけじゃない、汎用機械だ」

グラムベルクが笑った。

「分解して研究したいぞ」

「生きて帰れたらな」

アリソンも笑った。

「そうだな」


二人は身を低くして、再び森の影を進んだ。

やがて丘の裏側へ到達する。

グラムベルクが装置を下ろした。

「ここでいいのか?」

アリソンは頷いた。

「あぁ、ここが戦場の中心付近だ」

戦場はすぐ向こうにある。

砲撃の光が丘の上を照らしていた。

グラムベルクが魔石を装置にはめる。

一つ。

また一つ。

十二個。

装置の魔法陣が淡く光る。

グラムベルクが小声で言う。

「準備完了だ」


ここで思わぬことが起きた。

「今のなんだ?」

アリソンは数歩先の岩陰で何か動くものを見た。

二人の視線がそちらへ集中する。

ゆっくりと姿を現したのは――

一体のゴーレムだった。

あまりの出来事に二人の体が硬直する。

(どうする! まだ装置の準備ができていない)

ゴーレムの目がこちらを捉える。

ゆっくりと近づいてくる。

「ア、アリソン……どうする」

「勝ち目ねえぞ」

「今、考えてる!」


次の瞬間、ゴーレムは動きを止めこちらを観察。

その視線はこちらの手元を確かめているようだ。

そして、すぐに反転し戦場の方へ戻っていった。

「……」

グラムベルクがようやく話し出す。

「どういうことだ?」

「とにかく今のうちに装置を準備するんだ」

「また戻ってくるかもしれない」


二人は周囲を警戒しながら装置の設置を進める。

「なぁアリソン、さっきのアイツなぜ攻撃してこなかったんだ?」

アリソンは手を動かしながら考える。

「敵ではないと認識したんじゃないかな」

「武器を置いてきたのが幸いだったか」

「よし、できた!」

アリソンは装置に手を置いた。

「起動するよ」

指先が、わずかに震えていた。


次の瞬間。

精霊通信装置が――

強く光った。

空気が、歪む。

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