第3話 魔道会で分散制御が無双した
晴れ渡った日差しのもと、その日はやってきた。
競技場は既に大歓声に包まれている。
「いよいよね、アリソン」
コツコツと積み上げてきた練習の成果がターニャを自然と笑顔にする。
「それにしてもすごい熱気だね。貴族や軍の人も見に来てるよ。」
同じくアリソンも高揚していた。
「さすが学院最大のイベントだ。超満員だよ」
魔法技術を競う国家公認大会でもある魔道会が今はじまる。
開会を宣言するため、学院長が中央演壇に立つ。
「諸君。本日の魔道会の目的は三つ。
一、社会インフラを安定して運用できる術者を育てること。
二、危機下において冷静な判断ができることを示すこと。
三、力を誇示するのではなく、力を制御する資質を競うこと」
アリソンは小さく呟いた。
(何だか小難しいこと言ってるけど、要は制御力ってことか)
「それでは——第百三十二回魔道会を開始する!」
歓声が爆発した。
第一競技:光の持続
競技場に整然と並べられた100の街灯。
そして各3名以内の全12チームが始まりの合図を待っている。
アリソンとターニャは静かに確認する。
「要は魔力でどれだけ長く点灯させられるか」
「点灯数、持続時間、魔力消費率が得点になる」
「うん、わかってる。練習の成果を出しましょ」
「それでは始め!」
合図がかかるや否や、エドワルド班が強烈な光属性陣を発動させる。
あまりに眩しい閃光。
グレイフィールド家の嫡男、エドワルド。
金髪碧眼の努力型の秀才。
学院でも本命視されている男だ。
その魔法は——強烈だった。
一瞬で70基の街灯が煌々と点灯し場内を沸かせる。
「さすがグレイフィールド家だ!」
しかし長くは持たない。
数十秒後には光が揺らぎ始める。
不安定な魔力。
街灯は点滅、一部は消灯に。
一方ターニャは気が気でない様子。
「もう結構得点を稼がれちゃったよ。今から追いつける?」
「焦らなくていい、これは持久走と同じなんだから」
(この競技はやる前から結果は見えてるんだよ)
アリソン班は小型光陣を10個、等間隔に配置した。
「さあ、始めるよ」
フーと息を整え、ターニャが魔力を流す。
アリソンがそれに合わせて追加調整。
「ターニャ、焦らないで。もっと抑えるんだ」
「うん、了解」
各魔方陣は徐々にタイミングを合わせ、やがて点灯した街灯は50基に。
派手には光らない。
しかし全くぶれない。
一分。
二分。
三分。
他チームが次々と失速する中、アリソン班の光だけ安定し続ける。
「終了!」
の合図。
ターニャが背中に抱き着いて叫ぶ。
「やったわ、最後まで光ってたの私たちだけよ。勝ったよね!」
「練習の成果だ」
総合評価で僅差の首位。
(意外と僅差だったんだな、危ねー)
会場は予想外の結果にざわつく。
エドワルドは冷静を装いつつ、こちらに歩いてくる。
そして言葉を絞り出す。
「たまたま長続きしただけで、あんなのは邪道だ」
「社会は持続可能でなければならないよ」
(これ、ビジネスの基本な)
アリソンは笑顔で返しつつ右手を差し出す。初対面の挨拶、握手だ。
「この競技は序の口だ、この程度で僕の自尊心は揺るがない」
結果が腑に落ちない貴族は震える拳を握りしめ、次の会場へ向かう。
(あの捨てゼリフ、あいつ本当に15才か?)
第二競技:荷車レース
競技場の外周に設けられた控えスペース。
各チームが荷車の最終調整をしている。
アリソンは荷車の下に潜り込み、魔法陣の刻印を確認していた。
「ねえ、改めて確認するけど」
腕を組んで立つターニャ。
「アリソンが運転するのよね?」
「うん。勝利条件は完走タイム、接触ペナルティあり。でも障害物への接触は自己責任」
荷車の下を覗き込むターニャ。
「どんな道なの」
「障害物って?」
アリソンは顔を出す。
「直線区間が二つ、狭路区間と砂利道。最後に跳躍台」
「第一競技は出力勝負だったけど」
「でも今回は違うんだ」
ターニャは得意げに言う。
「敵にぶつけて壊す、だね!」
アリソンは立ち上がる。
「不正解! 接触ペナルティありだから」
「魔力の制御さ。開会式に学院長も言ってた」
観客席から歓声が上がる。
他チームの荷車が競技場に出てきたようだ。
ターニャが小声で言う。
「エドワルドは強敵だよね?」
「あぁ、かなり飛ばしてくると思う」
アリソンは荷車に触れる。
刻まれた魔法陣が淡く光る。
「僕たちは違う」
「よくわからないけど分散?して走るとか?」
「今度は正解!」
「前後左右の車輪に魔力を分散させるんだ」
ターニャが得意げに胸を張る。
「だから魔法陣がたくさんあるのね!」
(ターニャもちょっとわかってきたな)
「でも、ちょっと地味」
ターニャは笑いながら言う。
「それでも僕が勝つ」
「なによ、カッコいいこと言っちゃって!」
アリソンは深呼吸する。
「行こう!」
12台の荷車がスタート地点に向かう。
客席がざわつく中、ターニャが小声で言う。
「エドワルドだけ見てると足元すくわれるよ」
アリソンは深緑の荷車に目が留まった。
「南方貴族の三男。カイル・ヴァンデル」
ターニャが説明する。
「魔力はそこまでじゃないわ」
「じゃあ何が強いんだ」
「水属性魔法」
カイルの荷車の後部には、小型の水晶筒が装着されている。
「走りながら細かい霧をまくみたいね」
「滑らされるってことか」
「多分ね」
そして紫の車体。中央に大きな円陣。
「王都学院の天才、ミレイア・ローディス」
ターニャが小さく呟く。
「よく知らないけど」
「彼女は重力魔法を使えるって噂よ」
アリソンの視線が止まる。
(重力を操作できるなら…)
(推進ではなく――前へ落下させ加速するとか)
魔力効率がずば抜けて高い、天才ならではの発想。
「よし、ミレイアさんに着いて行こう。」
「だって美人だし。」
「はあ?本当に勝つ気あるの?」
円形競技場に全ての魔導荷車が直線に並び終わった。
観客席のざわめきが静まっていく。
審判が中央に立ち、赤い旗が掲げられた。
魔導荷車への魔力充填は完了。
緊張が最高点に達する。
「位置について!」
鐘の音が鳴る!スタートの合図。
人々の歓声とともに一斉に魔力が発動する。
と同時にエドワルドの荷車が爆発的に加速。
いきなり赤金の車体が最初の直線で先頭に立つ。
アリソンの荷車は若干の出遅れ。
二番手集団。
控えめな加速。
客席のターニャが歯噛みする。
「ちょっと、これ大丈夫なの?」
アリソンは出力を抑え、無理に前には出ない。
「ここでいい」
狙う位置は、右前方ミレイア、左後方カイルのポジション。
早速、緑の荷車の水晶筒が光り、霧がまかれる。
見えないほど薄く、だが路面を確実に濡らしている。
後続車両は車輪が滑り安定を失う。
「早速やってきたか」
カイルの霧は後方に流れ、アリソンはその前にいる。
妨害は受けない位置だ。
アリソンはミレイアとの位置取りに集中。
彼女の荷車にできるだけ寄せていく。
「こっちも重力を利用させてもらう」
推進力ではなく自然に前へ引っ張られていく感覚。
「これは…使える」
現在順位は、1位 エドワルド、2位 ミレイア、3位 アリソン、4位 カイル
先頭車両が第一狭路にさしかかる。
エドワルドは減速が遅れ車体が石柱にこする。
激しい火花。
強引に荷車を押し切りさらに加速。
観客は大歓声。
しかし荷車の制御陣が歪み、その動きは鈍る。
一方、ミレイアの重力魔法も細かい制御は苦手なようだ。
障害物の前で大きく減速。
「お先に!」
アリソンの荷車が滑るように曲がっていく。
「4輪の独立制御、…いけそうだ」
ここで2位に浮上。
「アリソン、その調子よー!」
ターニャの声援が勢いづく。
次に見えてきたのは砂利帯。
振動と起伏で制御陣が壊れ多くのチームが脱落。
審判の赤旗が降られる。
アリソンは魔力の流れを神経質に調整。
「ここは勝負どころだ」
しかし魔力消費の増大とともに集中力も削られる。
額から汗が吹き出す。
なんとか砂利帯を抜け第二直線。
エドワルドは再加速。
力技で押す。
観客は派手な走りに沸く。
だがアリソンは出力を上げない。
温存。
観客席でターニャが焦る。
「なんで今上げないの!?」
レースも後半。
目の前に迫る最後のヘアピンカーブが、単独一位のエドワルドを襲う。
歪んだ制御陣では遠心力に耐え切れない。
横転!
「くそっ、あとちょっとだったのに…」
観客席の悲鳴と歓声。
アリソンが追いつく。
悪魔的なカーブはアリソンの荷車もコース外へ引っ張る。
「ここだ!」
「前輪右、出力80%、後輪左、出力20%」
後輪を滑らせながら豪快にカーブを曲がりきる。
観客席からどよめきと拍手。
エドワルドが倒れた車体を叩く。
「こんなことあり得ない!」
(馬鹿みたいに突っ込むからだろ)
「分散制御はこうやって使うんだ」
トップに躍り出たアリソンはスピードを上げる。
そして、最後の跳躍台まで魔力全開。
大きな弧を描いて見事に着地を決めた。
客席でターニャが跳ねる。
「信じられない!私たちもう優勝しちゃうよ」
最終順位は、1位 アリソン、2位 ミレイア、3位 エドワルド
観客席からターニャが駆け寄ってくる。
興奮状態。
現時点で総合得点はアリソン班が1位。
だが本命は最後の競技だ。
ターニャは満面の笑顔を浮かべていた。
だが、まだ終わっていない。
(次が正念場なんだよな…)
最後の競技。
それは――




