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第26話 戦争の原因が“誤解”だった件

大森林南端。

森が切れ、草原へと変わる境界地帯。

アルディオン王国軍の補給隊が進んでいた。

荷車。

食料袋。

矢束。

護衛の兵士が周囲を警戒している。

隊長が言う。

「もう少しで前線だ」

その時だった。

森の影が動く。

「……誰だ!」

兵士が叫ぶ。

木々の間から現れたのは――

黒い鎧の兵士。

ザルカーン帝国軍の斥候部隊だった。


それは本当に、偶然の遭遇だった。

次の瞬間。

「敵だ!」

矢が飛ぶ。

剣が抜かれる。

瞬時に戦闘となった。

王国兵が一人倒れ、帝国兵も二人が負傷する。

だが互いに長くは続かなかった。

「退け!」

帝国斥候は森へ消え、王国補給隊も隊列を立て直す。

戦闘は終わった。

ただの偶発的な接触だった。

しかし――

その報告は誇張された。


王国軍前線司令部。

「帝国軍と交戦!」

「敵は多数!」

「侵攻の兆候あり!」

報告を聞いた将軍が机を叩く。

「やはり来たか!」

その報告は即座に王都へ送られた。


同じ頃。

帝国側。

斥候隊長が報告する。

「王国軍が南下!」

「補給部隊を確認!」

「大規模な侵攻準備と判断!」

報告は帝都へ届く。


王国。

帝国。

双方の結論は同じだった。

開戦準備。

数万規模の軍が動き始める。

まだ宣戦布告はない。

だが――

戦争は、すでに動き始めていた。


王都。

セレネ河に架かる大橋。

夕暮れの光が川面を染めていた。

橋の上をアリソンとターニャが歩いている。

市場から学院へ戻る途中だった。

ターニャが言う。

「さっきの噂……」

「南で魔族軍と接触って」

アリソンも眉をひそめる。

「気になるね」


その時。

後ろから声がかかった。

「……少し、いいだろうか」

二人が振り向く。

市場の露店の店主。

帽子の男だった。

ターニャが警戒する。

「何?」

男はゆっくり歩み寄る。

「少し話がしたい」

アリソンが言う。

「何の話?」

男は一瞬、言葉を選んだ。

「君の考え方についてだ」

「魔法を技術として設計する」

「……あの話を聞いた」

アリソンは驚く。

「市場での話?」

男は頷く。

「魔法を理論として扱う」

「それは非常に興味深い」


ターニャが腕を組む。

「それで?」

男は深く息を吸った。

「……戦争を止めたい」

二人が黙る。

男は続けた。

「王国と帝国は今、戦争寸前だ」

「だがこれは誤解だ」

「おそらく偶発的な衝突が報告で膨らんだだけだ」

アリソンが聞く。

「どうしてそんなこと分かるの?」

男は少し迷った。

そして――

帽子を外す。

布をほどく。

現れたのは。

魔族の角。


ターニャの目が鋭くなる。

男は言った。

「私は――」

「カリウス・ノクス」

「ザルカーン帝国軍の将軍だ」

その瞬間。

「アリソン、下がって!」

ターニャが叫んだ。

炎が生まれる。

「魔族が王都にいるなんて!」

アリソンが言う。

「待ってターニャ!」


しかしターニャは止まらない。

「火炎弾!」

炎の魔法がカリウスへ飛ぶ。

カリウスはすぐに懐から魔道具を取り出した。

金属片のような装置。

彼は魔力を流す。

装置が光る。

カチン、と音を立てて――

複数の部品が連結する。

瞬時に形成されたのは。

腕を覆う防具。


炎が直撃する。

しかし火炎は防具に弾かれ、散った。

橋の石畳に火の粉が落ちる。

ターニャが驚く。

「防いだ!?」

カリウスは攻撃してこない。

静かに言った。

「落ち着いてくれ」

ターニャが睨む。

「魔族の言葉なんて信じない!」

アリソンも警戒したままだった。


「……戦争を止めたいって言ったね」

カリウスは頷く。

「そうだ」

「だが信じられないのも当然だ」

しばらく沈黙。


そしてカリウスは言った。

「ならば――」

「帝国の機密を話そう」

ターニャが笑う。

「嘘に決まってる」

しかしカリウスは続けた。

「帝国最大の戦力」

「竜」

アリソンの目が動く。


カリウスは言う。

「王国では、帝国が竜の軍を持っていると考えているはずだ」

「……その通りだ」

アリソンが答える。

カリウスは静かに言った。

「だが」

「竜は北へ進めない」

ターニャが眉をひそめる。

「どういうこと?」

カリウスは続けた。

「大森林に近づくことができない」

「だから帝国は本来、大規模な北上ができない」

アリソンが聞く。

「……どうして?」


カリウスは少しだけ迷い、そして言った。

「それは巨大水晶の影響だ」

橋の上で沈黙が落ちる。

カリウスは続けた。

「竜があの水晶に近づくと」

「使役が解ける」

ターニャの表情が変わる。

「……そんなこと」


カリウスは言った。

「だから帝国は本来、森に近づきたくない」

「だが今回の事件で状況が変わった」

彼はアリソンを見る。

「もし戦争になれば」

「誤って竜が北へ動く可能性がある」

「そうなれば」

カリウスの声が低くなる。

「帝国も王国も――」

「制御不能の竜に襲われる」


カリウスは続ける。

「私の言葉の真偽は」

「巨大水晶を守っているエルフなら知っているはずだ」

「確かめてみて欲しい」


セレネ河の水が静かに流れている。

橋の上で。

人間と魔族が向き合っていた。


世界が戦争へ進もうとしている、その瞬間に。

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