第24話 三種族を繋いだ結果、戦争が始まりそう
王立学院の大会議室。
円卓の中央に、二枚の銀の鏡が並べられ、傍らには精霊伝達用のフクロウがとまっている。
王国の将軍や文官たちが、その鏡を訝しげに見つめている。
アルディオン王国軍総司令官、バルドラン・グレイシュタインが腕を組んだ。
「……これが例の装置か」
学院長、アルヴェリウス・ヴァルドナーも鏡を見つめる。
「そうらしい」
「私も実物を見るのは初めてだ」
会議室にざわめきが広がる。
「鏡で会話できるだと?」
「そんな魔法聞いたことがない」
ターニャが小声で言う。
「いよいよ本番だね」
アリソンは鏡の前に立った。
「接続します」
彼は鏡の裏面に刻まれた魔法陣に手を置く。
魔力を流す。
一瞬の沈黙。
そして――
鏡の表面が水面のように揺れた。
「なっ……!」
鏡の中に映像が現れる。
深い森の石造りの議場。
そしてもう一つの鏡には――
巨大な地下空洞。ドワーフの玉座の間。
室内がどよめいた。
「本当に繋がった!」
「遠距離通信だと……!」
学院長がゆっくり息を吐く。
「見事だ、アリソン」
「魔法の新しい使い方を示した」
学院長にしては珍しい、率直な賞賛だった。
鏡の中でエルフが口を開く。
「守護獣の目でこんなことができるとは」
長い銀髪の男。
威厳ある装束。
エルフ評議会代表
エルダリオン・シルヴァリス。
そしてもう一つの鏡。
巨大な鉄の玉座。
そこに座るのは北の地下迷宮ザイオンのドワーフ王。
ドゥルガン・バルグレイム。
鏡の中でドゥルガン王は大きく笑った。
「ほう!」
「鏡越しに話せるとは面白い!」
王国側の将軍たちはまだ驚いている。
「こんな魔法が存在するのか……」
学院長が声を上げた。
「では三種族会議を始める」
「議題は…」
「魔族ザルカーン帝国が大森林の魔力を搾取していた件について」
室内が静まり返る。
最初に口を開いたのは王国軍だった。
総司令官バルドラン。
「結論は明白だ」
「帝国は大森林南端に施設を建設し、魔力を盗んでいた」
彼は断言する。
「これは侵略行為に等しい」
「軍を動かすべきだ」
王国の将軍たちが頷く。
「施設は要塞化していた」
「今止めなければ奴らはさらに北へ進出する」
すると鏡の中でドワーフ王が笑った。
「人間はすぐ戦争だな」
バルドランが睨む。
「何だと」
ドゥルガン王は肩をすくめた。
「ワシは別の提案をする」
「魔砂の貿易だ」
王国側がざわつく。
ドゥルガン王は続ける。
「帝国の施設は魔砂を製造しておるのだろう?」
学院長が頷く。
「その通りだ」
ドワーフ王は言った。
「我が国では魔石を使ってきた」
「だが最近、採掘量が減っておる」
彼は髭を撫でる。
「魔砂が代替資源になるならその価値は大きい」
「戦争より商売の方が得だ」
バルドランが冷たく言う。
「敵と取引する気か」
「敵と決まったわけでもあるまい」
ドゥルガン王は平然としている。
その時。
静かな声が響いた。
エルフ評議会代表、エルダリオンだった。
「……我々は静観を提案する」
バルドランが眉をひそめる。
「何?」
エルダリオンは落ち着いた声で言う。
「大森林は長い時間をかけて均衡を保ってきた」
「軽率な戦争は望ましくない」
彼は続ける。
「帝国の施設はすでに破壊された」
「今は状況を観察すべきだ」
アリソンはその顔を見つめていた。
(ルナシールドの父親……面影がある)
威厳のある人物だった。
ドワーフ王が笑う。
「戦争、商売、静観」
「見事に三つに割れたな」
議論はしばらく続いた。
だが結論は出ない。
やがて学院長が言った。
「これ以上は平行線だ」
エルダリオンが頷く。
「ならば決定は一つ」
「最終判断はアルディオン王国国王に委ねる。」
バルドランも渋々頷いた。
「……国王に報告する」
学院長が言う。
「本日の三種族会議はここまでとする」
鏡の光が静かに消えた。
精霊通話は終了した。
ターニャが小さく言う。
「すごいね」
アリソンは鏡を見つめていた。
(精霊通話は成功した)
(でも――)
(世界の方が先に動き始めている)
その頃。
アルディオン王国、王都南門。
一人の旅商人が門へ近づいていた。
帽子を深くかぶった男。
門番が声をかける。
「止まれ」
男は素直に立ち止まる。
「旅の商人です」
門番は男を観察した。
「荷を見せろ」
男は袋を開ける。
中には宝飾品や素材、日常生活で使う魔道具など。
よくある商品や道具類だった。
門番は男の顔を見る。
「帽子を取れ」
男は困ったように笑った。
「申し訳ない」
「頭を怪我していまして」
彼は帽子を少し持ち上げる。
額には厚く巻かれた布。
門番が眉をひそめる。
「どうした」
男は肩をすくめた。
「西の街道でゴブリンの集団に襲われまして」
「逃げるので精一杯でした」
門番が同情する。
「確かに最近多いらしい、ついてなかったな」
男は苦笑する。
「ええ、まったくです」
門番は荷袋をもう一度見る。
特に怪しいものはない。
「……通れ」
男は軽く頭を下げた。
「助かります」
門をくぐると、そこは石畳の街。
屋台の灯り。
人々の喧騒。
王都の繁華街。
男は人混みに紛れた。
そして小さく呟く。
「……思ったより簡単だ」
布の下。
隠された角。
男の名は――
カリウス・ノクス。
帝国の知将は、静かに王都へ侵入した。




