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第23話 帝国事情も楽じゃない

王都の城壁が見えたとき、アリソンは小さく息を吐いた。

森での長い調査任務が、ようやく終わった。

「……帰ってきた」

隣を歩くターニャも城門を見上げる。

「やっぱり王都は落ち着くね」

森の湿った空気とは違う。

石畳、屋台の匂い、人々のざわめき。

いつもの王都だった。


門番が二人に声をかける。

「学院の学生か?」

アリソンは学生証を見せる。

「調査任務から戻りました」

門番は頷いた。

「報告は学院だな。通っていいぞ」

門をくぐると、見慣れた街並みが広がった。

しばらく歩くと、通りの向こうから声が飛んできた。

「アリソン!」

振り向くと、母が手を振っている。

「母さん」

母は駆け寄ってきた。

「無事だったのね!」

「うん、大丈夫」

母は胸をなでおろす。


「森の調査なんて危険だって聞いて……」

父も後ろで腕を組んでいた。

「……まあ、帰ってきたならいい」

ぶっきらぼうだが、ほっとした様子だった。

ターニャも軽く頭を下げる。

「こんにちは」

「ターニャちゃんもありがとうね」

少し話したあと、アリソンが言う。

「まず学院長に報告してくる」

母は頷いた。

「ええ、ちゃんと報告してきなさい」


王立学院。

重厚な石造りの建物の前で、ターニャが伸びをした。

「久しぶりだね」

「うん」

二人は学院長室の前に立つ。

アリソンが扉を叩いた。

「失礼します」

「入れ」

低い声が返る。

部屋に入ると、机の向こうに学院長が座っていた。

白髪の老人。鋭い目。

アルヴェリウス・ヴァルドナー学院長。

そして部屋には、もう一人いた。

壁際に立つ魔族の少年。

トロイ。

彼の後ろに王国軍の兵士が二人立っている。

明らかに監視だった。


学院長が言う。

「帰ったか」

アリソンとターニャは頭を下げた。

「ただいま戻りました」

「森の調査、報告します」

学院長は頷く。

「聞こう」

アリソンは説明した。

南端の森。

迷宮。

白鹿との戦闘。

そして。

「大森林の中心で巨大水晶を確認しました」

学院長の眉がわずかに動く。

「神殿ほどの大きさ、か」

「はい」

学院長は少し考え込んだ。

「他には?」

アリソンは視線を横に向ける。

「……トロイにも聞きたいことがあります」


トロイは肩をびくりと揺らした。

軍の兵士の視線が向く。

トロイは少し戸惑ったように目を伏せた。

「え、えっと……」

「ぼ、僕が話してもいいんでしょうか……」

兵士が低く言う。

「余計なことは話すな」

トロイは慌てて頷いた。

「は、はい」

アリソンが言う。

「南端の施設で会ったよね」

トロイは小さく頷く。

「……覚えています」

「君たちが……施設に来た時」


少し沈黙。

トロイは視線を兵士の方へ向け、ためらう。

アリソンが続けた。

「帝国の施設について教えてほしい」

トロイは困った顔をした。

「えっと……」

「……全部は、無理です」

「でも……少しなら……」

学院長が静かに言う。

「話せる範囲で構わん」

トロイはおそるおそる口を開いた。


「帝国では……地下水を汲み上げて都市を維持しています」

ターニャが首を傾げる。

「地下水?」

「は、はい」

「南は……乾いた土地が多いので……」

「深い井戸を掘って、水を汲み上げます」

アリソンが聞く。

「それに魔力を使う?」

トロイは驚いた顔をした。

「……よく分かりますね」

「そうです」

「魔力で動く装置を使っています」


彼は続けた。

「施設は魔力を砂の形にします」

「それが……魔砂です」

アリソンが呟く。

「魔力の結晶みたいなもの……」

トロイは頷いた。

「帝国では……とても大事な資源です」

「それがないと……都市の装置が動きません」

ターニャが聞く。

「ゴーレムって?」

トロイは少し躊躇した。

「……それは」

兵士の視線が向く。


トロイは慌てて言葉を選ぶ。

「帝国の……魔道文化の一つです」

「魔砂を使って……石人形を動かします」

「主に……作業とか……労働とか」

アリソンは考え込んだ。

(魔力を資源として扱っている……)

文化として体系化されている。


学院長が言う。

「興味深い話だ」

トロイは少し肩をすくめた。

「……あまり話すと怒られそうなので」

後ろの兵士が無言で立っている。

学院長はアリソンたちを見る。

「今日はここまでにしておけ」

「長い任務だった」

「休め」

ターニャが嬉しそうに言う。

「ありがとうございます」

二人は学院長室を出た。

廊下を歩きながら、アリソンは考えていた。

魔砂。

地下水。

ゴーレム。

(この世界の魔法……)

(まだ知らないことが多すぎる)


その頃。

帝国の南方都市。

一人の魔族が鏡の前に立っていた。

カリウス・ノクス。

彼は商人の衣装を身につける。

だが問題はもう一つある。

魔族の角。

カリウスは布を取り出し、慎重に頭に巻いた。

角を隠すように。

その上から帽子を被る。

鏡の中には――

旅の商人が立っていた。

「……問題ない」

目的地は王国。

魔法を技術として扱う人物。

その正体を突き止めるために。


帝国の知将は、静かに王都へ向かっていた。

魔法を技術として扱う者――その正体を探るために。

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