第21話 遠距離通話が成功して世界が変わった
エルフの里、古代魔道具の保管庫。
夜の静けさの中、机の上に新しい魔法陣が描かれていた。
アリソンは炭筆を置く。
「これで音も拾えるはずだ」
紙の上には小さな術式。
風属性の魔法陣。
グラムベルクが覗き込む。
「音を拾うってどういう理屈だ?」
アリソンが答える。
「音は空気の振動だ」
「風属性ならそれを感じ取れる」
ルナシールドが頷いた。
「振動を魔力に変換する術式ですね」
アリソンは小さな鏡を持ち上げた。
手のひらほどの大きさ。
鏡の裏には精霊通信具と術式布が取り付けられている。
「映像は光」
「音は風」
「それを精霊通信に乗せる」
グラムベルクが笑う。
「ほんとにやる気だな」
ミレイアがフクロウを見た。
森フクロウ。
静かに羽を休めている。
ライリーが餌の小さなネズミを差し出した。
「飛ぶ前に食わせとけ」
「腹が減ると途中で狩りを始める」
アリソンが頷く。
「それは困るな」
ルナシールドがフクロウの頭に手を置いた。
「契約は維持されています」
「指示も通ります」
アリソンは小型装置を見つめた。
「じゃあ」
「セレネ河で試そう」
夜の森。
月明かりの下、セレネ河がゆっくり流れていた。
幅の広い大河。
水面が銀色に光っている。
アリソンはフクロウの首に細い革紐を結び、小さな鏡を吊るした。
鏡の裏には通信具と術式布。
グラムベルクが言う。
「そんな小さいもので届くのか?」
ルナシールドが答える。
「水は精霊を強く宿します」
アリソンが頷いた。
「この川が通信路になる」
ミレイアがフクロウを抱き上げる。
「行ける?」
フクロウは静かに目を瞬かせた。
アリソンが言う。
「指示は一つ」
「川沿いを飛べ」
「王都まで」
「シュトラール家の屋敷に降りる」
ルナシールドが静かに頷く。
「契約で伝えます」
森フクロウの瞳が淡く光った。
次の瞬間。
フクロウが夜空へ飛び上がる。
鏡の表面が揺れた。
映像が現れる。
木々の上。
森の夜。
羽ばたき。
風の音。
ミレイアが声を上げる。
「見える!」
フクロウの視界。
月。
枝。
森の上空。
そしてセレネ河。
銀色の流れ。
アリソンが言う。
「ちゃんと川を追ってる」
鏡の中で森が少しずつ途切れていく。
やがて開けた土地。
川だけが暗い帯のように続く。
(通信ドローンみたいだな)
アリソンは心の中で呟いた。
夜空。
フクロウは静かに滑空する。
下にはセレネ河。
月明かりが水面に道を作っている。
川沿いに森。
時折、小さな村の灯り。
フクロウの羽音だけが夜を切る。
だが。
しばらくすると。
映像が揺れた。
ミレイアが言う。
「眠いのかな」
ルナシールドが言う。
「長距離飛行は慣れていません」
ライリーが言う。
「腹も減る」
アリソンは鏡を見つめた。
「まだ飛べる」
時間が過ぎる。
鏡の中の景色が変わった。
川幅が広くなる。
橋。
灯り。
建物。
グラムベルクが呟いた。
「……おい」
アリソンも気づく。
石の街。
川沿いの灯り。
巨大な橋。
アリソンが言う。
「王都だ」
フクロウは川沿いを低く飛んだ。
屋敷。
石壁。
庭園。
そして。
見覚えのある屋敷。
アリソンが小さく言う。
「シュトラール家」
フクロウは窓辺の枝に止まった。
部屋の中。
暗い。
ベッド。
誰かが眠っている。
ミレイアが小さく言う。
「ターニャ?」
フクロウが窓をつつく。
コン。
小さな音。
ベッドの上の少女が身じろぎした。
金髪。
眠そうに目を開ける。
窓を見る。
フクロウ。
そして。
その首に吊るされた小さな鏡。
鏡の中には、アリソンの顔が映っていた。
ターニャの目が大きく開く。
「……アリソン?」
声が届いた。
風の術式が震える。
アリソンは思わず笑った。
「ターニャ」
鏡の向こうでターニャが息を呑む。
「うそ、本当に?」
アリソンは頷いた。
「成功だ」
グラムベルクが腕を組む。
「とんでもねえもん作りやがった」
ルナシールドが静かに言った。
「精霊通話」
セレネ河の上を。
精霊を乗せた通信が流れていた。
世界は今。
初めて、繋がった。
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