第16話 精霊通信をハッキングして救出した
魔族の隊長の槍が地面を叩いた。
ドン。
衝撃が走る。グラムベルクが吹き飛ばされる。
「ぐっ!」
ミレイアが重力場を展開する。だが――
「甘い」
隊長は一歩踏み込んだだけで重力を押し破った。
ルナシールドの矢が飛ぶ。
金属音。弾かれる。
「強すぎる……」
ミレイアが息を呑む。
アリソンは歯を食いしばる。
奥の牢。ターニャ。あと数十メートル。
だが届かない。
(計算ミスだ)
兵力。魔力密度。地形。全部。不利。
その時だった。牢の鍵が――
カチャ。
ターニャが振り向く。
そこに立っていたのは。魔族の少年だった。
トロイ。
ターニャが目を見開く。
「……あなた」
トロイは小さく言う。
「静かに」
鍵を外す。鉄格子が開いた。
「どうして……?」
トロイは短く答えた。
「あの時の借りを返す」
ターニャは思い出した。
リーデン村。干し肉。逃がしてあげた少年。
「でも」
トロイは言う。
「今しかない」
「早く」
ターニャは頷いた。
二人は廊下を走る。
その頃。前線。戦闘は激しくなっていた。
魔族兵がさらに増える。
グラムベルクが叫ぶ。
「このままじゃ、きりがねえ!」
ルナシールドが言う。
「撤退を!」
アリソンは動かなかった。
奥を見ている。
(まだだ、あきらめたくない)
その時。背後から声。
「アリソン!」
振り向く。ターニャだった。
「ターニャ!」
アリソンが叫ぶ。
トロイが横に立っていた。
グラムベルクが驚く。
「魔族のガキ!?」
ターニャが言う。
「彼が助けてくれた!」
隊長が怒鳴る。
「裏切り者が」
槍が振り下ろされる。
トロイが叫ぶ。
「装置を止めて!」
全員が振り向く。
施設中央。巨大な魔法陣。魔砂の山。
トロイが言う。
「魔力吸ってる装置だ!」
アリソンは一瞬で理解した。
(これが森の魔力を集めてる)
(だから白鹿が怒った)
そして。もう一つ気づく。
(通信だ)
精霊通信。
それで吸い上げている。
アリソンはグラムベルクに叫ぶ。
「グラム!精霊通信具持ってきてるよな」
グラムベルクが叫ぶ。
「ああ、それでどうする!」
アリソンは言う。
「精霊通信を遮断する」
ターニャを見る。
「血を」
ターニャは迷わなかった。指を切る。
一滴。血が落ちる。
魔道具が光る。術式布が淡く輝く。
アリソンが呟く。
「鍵だ……」
精霊通信を開く“血の鍵”。
ターニャの血は、その術式を強制的に逆流させる。
次の瞬間。
施設の魔法陣が乱れた。
ゴオオオオ。
柱が震える。
魔砂が崩れる。
兵士が叫ぶ。
「装置が!」
隊長が怒鳴る。
「今すぐ止めろ!」
だが止まらない。魔力が暴走する。
ルナシールドが叫ぶ。
「今です!」
グラムベルクが笑う。
「逃げるぞ!」
全員が走る。施設を飛び出す。
背後で爆音。
魔法陣が崩壊する。
魔砂が崩れ落ちる。
アリソンたちは森へ飛び込んだ。
その頃。施設の塔の上。
崩れ落ちる魔砂装置を見下ろす男がいた。
皇帝直属の知将――カリウス・ノクス。
彼は静かに目を細めた。
「あれは北進の妨げになる」
森の奥へ視線を向ける。
人間。エルフ。ドワーフ。
そして。裏切った魔族の少年。
男は静かに言った。
「皇帝陛下へ報告だ」
南の空を。巨大な影が横切った。
黒竜スレイ。
その翼が太陽を隠した。
そして森の奥。アリソンたちは走っていた。
ターニャが隣にいる。
アリソンは言う。
「無事でよかった」
ターニャは少し笑った。
「助けに来るの遅いよ!」
「ごめん、約束したのに」
ターニャは小さく言う。
「でも来てくれた」
「私、鍵になってもいいかな」
アリソンは首を振った。
「違う」
ターニャが見る。
アリソンは言った。
「君は大切な仲間だ」
森の風が吹いた。
白鹿が静かに森の奥から見守っていた。
西の大森林の危機は――まだ終わっていない。
帝国はすでに動き始めていた。
そしてアリソンはまだ知らない。
自分が、帝国の標的になったことを。
第2章 完。
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