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第1話 魔法はプログラムだった

はじめまして、有松です。

車載ソフト開発に携わってきた経験から、「魔法も設計・最適化できるのでは?」と思い、この物語を書きました。楽しんでいただければ幸いです。

「この魔法陣、さすがに遅すぎでしょ」

アリソンは黒板に書かれた図形を見てつぶやく。

こんなのじゃ人前に出せない。

ましてや人の命をあずかる制御の世界では…


前世では、日本の自動車メーカーでソフトウェア開発をしていた。

「今や、車のブレーキやエンジンなんかも全部プログラムだもんな」

だから、ほんのわずかな遅延でも事故や不具合になる。

その日も深夜の設計室でひたすら問題個所を探していた。

何度もエラーログを確認し、何万回も再現試験を繰り返す。

「もう一度ログを取りなおすか……」


自動車は既に走るソフトそのもの、規模は数千万行、そういう世界。

仕様が追加される、納期が短縮される、

そのたびに開発現場は当てのないデスマーチに突入する。

——いつもの地獄だ。


「あーもう、明日世界終わればいいのに。」

ぽつりと呟き立ち上がろうとしたそのとき、体が硬直し動かなくなった。

目の前が真っ白になったと思ったら、今度は真っ暗に…


目を開けた瞬間、そこには剥き出しの木でできた天井。

(…ここどこだ?設計室じゃない)

周囲をよく見ると壁は石造り。

いつものホワイトボードもエアコンも見当たらない。

(…倒れて病院にってわけでもないか)

アリソンはベッドの上で体を起こす。

部屋の扉や窓、家具なども、これはどう見ても

(中世、いや小説の中の異世界のような)


「どうなってるんだ…」

「えっ?」

自分の話した言葉が日本語じゃない。

でも理解できる。

頭の中にこの世界の記憶が流れ込んでくる。

「そうだ!」

自分は王都にある王立魔法学院に通う15才の少年アリソン。

ここは学院寮の中の自分の部屋。


「そうか、転生したってことなんだな」

(よし、とにかく受け入れよう)

(まあ、夢だったってオチもあるし…)

「とにかく、喫緊の仕様追加と納期からは解放ってことで!」


ドン、ドン、ドン。

突然扉がひらき、少女が顔を覗かせた。

「ちょっとアリソン、いつまで寝てるの?学院遅れるよ」


挿絵(By みてみん)


肩までのびた金色の髪、透き通った瞳、気の強そうな表情。

の少女だ。

「……ターニャ?」

現在整理中の記憶のなかにある幼馴染の名前が浮かんできた。

見た目はいい。

…でもいつも自分を下に見てくるタイプ、苦手なんだよな。

ただ今は、この世界のことをあれこれ聞きだして記憶を整理したい。


石畳の道を二人で歩きながら学院へ向かう。

ずっと気になっているのは、空中にふわふわ浮かんで見える光の粒子。

そこら中に漂っている。

(これが魔力?)

「この世界では当たり前のことなんだよな」

「さっきから何言ってるの?変なの」

「それより、昨日でた魔法理論の課題、やってきた?」

とターニャが聞く。

「一応やったよ」

(昨日の僕がね)

そう答えつつ、アリソンの心は踊っていた。

魔法陣、魔力、属性。

なんて心地いい不思議な響き。

そんなのが実在する世界にやってきたなんて。


学院内にある半円形の講堂。

懐かしい大学時代の講義を思い出すが、建物の雰囲気は古く重厚感が溢れる。

壇上で杖を持ち話し出したのは魔法理論の教授、ベレント先生。

「今日の講義は魔法陣の基礎についてだ」

黒板には、いくつかの円と線、それらを組み合わせた幾何学模様が並んでいる。


挿絵(By みてみん)


先生いわく、これらの意味するものは、

 第一層:基盤陣。「ここが術式の属性と目的を定義する」

 第二層:制御環。「主に魔力の流量と方向を決める論理」

 第三層:発動式。「そして、実際の現象を引き起こす部分だ」

生徒たちは皆真剣に聞いている。

しかしアリソンだけは違う視点で考えていた。

(なんか見たことある気がするけど何だっけ…)

 基盤。

 制御。

 発動。

の三層構造。

(あぁ、OS、アルゴリズム、アプリ のソフト構造と似てる)


さらにベレント教授は続ける。

「魔法は特別なものではなく、ごく日常でも利用されている」

「例えば…」

黒板にたくさんの例が書き出されていく。

「王都の街灯。石板に刻まれた小型光属性陣が夜間に自動点灯する」

「農地では水属性陣で水分と養分を散布する」

「貴族の邸宅では温度調整陣。火属性と風属性を組み合わせた術式だ」

「さらに風属性陣で動く荷車は皆もよく知っているだろう」

講堂内が驚きとささやき声でざわつく。

(この世界の社会インフラ全部ってことか)


アリソンは今朝仕入れたばかりの記憶と照らし合わせてみる。

今聞いた魔法陣の理論は、

前世でやってきた制御ソフトと基本的に同じでは。

(だとすると、並列化やループ、キャッシュ処理で最適化できそう)

「僕の得意なやつだ!」


ここまでの記憶によると、

この世界は見た目通りの中世で、

伝統を重んじ、感覚頼り。

これを前世の知識で体系化、効率化してみたい。

知的好奇心が湧き上がってきた。


ここで、教授の声色が変わる。

「ただし、陣をあまり大きく複雑に描いてはいけない。」

「暴走してしまうから。」


アリソンは無意識に手を挙げた。

「陣を分割して構成すれば安定するんじゃないですか?」

(それ普通はやるだろ。逆になんでやってないの?)

一瞬、講堂全体が静かになる。

「それは具体的にどういうことだね?」

「制御を小型の陣で複数作って、それを接続すれば大きくても複雑にはならない」

教授はいぶかしげに答える。

「理屈はわかるが、そんな構造は聞いたことが無い」

「誰もやっておらんよ」


講堂がざわつく。

横でターニャがあきれたように小声で言う。

「まーた変なこと言い出した」

しかしアリソンは黒板に書かれた魔法陣を見たときから確信している。

(もう、見せた方が早いか)

「先生、ちょっと試してみていいですか?」

講堂がさらにざわつく。

「あいつ、急に何言い出すんだ? どうかしてる」


ベレント教授が言う。

「こんなところで危険なことはよせ」

「大丈夫です。ほんの小さな陣なので」

アリソンは黒板の前の床に小さな魔法陣を書き出した。

外観は通常の光属性の魔法陣。

しかし一ヵ所だけ変更。

制御環を分割して繋ぎなおすだけ。

「これで…同期させてと」

そして、躊躇なく魔力を流しこむ。

皆が息をのむ。

次の瞬間。


まばゆい閃光が走る。

講堂内の隅々まで太陽のような明るさが届く。

「まぶしい!」

「これどうなってるんだ!」

通常の三倍の光量。

「こ、これは…」

教授は言葉を失う。

「魔力効率…三倍、いやそれ以上」


アリソンは肩をすくめて言う。

「普通に並列化しただけですけどね」

講堂内が驚きと静寂に満たされる。


これは違うな…

おとぎ話の魔法なんかじゃない。

これ、

ただのプログラムだ。


それなら。

いくらでも書き換えられる。

ここまで読んでいただきありがとうございます。


活動報告にキャラクター紹介をまとめていますので、

登場人物の整理などに使っていただければ嬉しいです。

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